依頼主は……
「そういえば、ビリーさんに聞きたい事があったんですけど?」
「はて、何でしょう?」
「なんで、俺が名指しされたんです?そもそも、クエストはあまり受けてないから顔を知られて無いと思うんですけど?」
商会でもそうだったけど、Sランク冒険者って分かると驚かれた。
一応、竜王祭優勝者なんだけどな。
「依頼主の同行者が、ユーリさんの知り合いだと言ってましたよ」
「知り合いねぇ。どんな方です?」
俺を名指しする様な知り合いに心当たりがない。
「商人の方ですね」
「商人? 俺に商人の知り合いっていたかな?」
ガチャ。
ギルド長室に着いたので扉を開ける。
中にいたのは……。
「いたわ。商会ギルドに」
そこにいたのは、商会ギルド副会長のロゼットさんだった。
3ヶ月振りくらいか?
あれ以来、商会ギルドに行ってない。
そんなに作物が貯まってないし。
「お久しぶりです、ユーリさん」
「こちらこそ、お久しぶり。ここに居ると言う事は、ロゼットさんが依頼主ですか?」
「いえ、どちらかと言うと推薦者ですね」
「推薦? 誰に?」
「ええ、強い冒険者を護衛に雇う事になりましてね。私が、ユーリさんを推薦させて頂きました。相手は、依頼主になるこちらの女性です」
そこには、金髪碧眼の女性が座っていた。
座ってる事や背丈などの関係もあり、ロゼットさんの背後に完璧に隠れて見えていなかった。
女性が立って挨拶してくる。
「初めまして、ユリシーズ・ヴァーミリオン。お話は、ロゼットから聞いています。私は、カリス・ナベリウス。商会ギルドの会長を務めています」
以前、会うことが出来なかった会長だ。
確か、会議に行ってたのだったか?
「初めまして、ユリシーズ・ヴァーミリオンです。選んで頂き感謝します」
「期待していますよ。ロゼットだけでなく、マスター、ギルフォードからも推して頂きましたから」
へぇ〜、なら、頑張らないとな。
「全員、揃った事だし、クエストの話をしよう」
全員座ったのを確認して、ビリーさんが机に地図を広げる。
「では、私共からこの度のクエストについて説明させて頂きます。今回の目的は、竜王国の北西に位置するラグス王国。その首都エリシオンまでの経路を護衛して頂く事です」
馬の駒をおいて説明するカリスさん。
あれ、チェスの駒だよね。それっぽいボードあるんだ。
「ラグス王国って行ったこと無いんですよね。行ってたら転移門出せるのに」
「待て、帰りに転移門使うつもりか?」
「えっ、そのつもりだったけど?」
「外交問題になるから出来ても止めてくれ」
「なんで?」
「お前の転移門で軍隊送られたらどうする」
「あっ!」
突然、背後に部隊が出てきたら勝てないな。
というか、バレたら軍事利用目的で捕まるかもしれん。
「素直に止めておきます。で、どんな国なんですか?」
カリスさんに聞いてみた。
「ラグス王国は、貿易の盛んな良い国ですわ。娯楽も盛んでして、この駒もそこで人気のゲーム道具の1つなんですの」
「そのゲーム、なんて言うんですか?」
「『ナイツ』というそうです。騎士をモチーフにしているので、馬の駒とか有り、説明の際に使ってますの」
だから、出したのか。行ったら買おう。
「説明に戻っても?」
「あぁ、すみません。脱線しました。どうぞ」
「では、編成並びに経路についてーー」
荷馬車の数は、全部で15台。
商会側の人数は、80人。
約半分が馬車の御者らしい。1台に2〜3人乗るそうだ。
取引などの商談や荷物運搬を行う者たちは、35名。
整備や料理等を行うサポート要員が10名程。中には、騎手をする者もいる様だ。
2日後、竜王国の首都ペンドラゴンを出発して、ラグス王国との国境にある宿街サイカに入り、翌日関所へと向かう。
関所からラグス王国商業都市ウェンに移動。
更に、そこから移動して首都エリシオンに着く流れだ。
……知らなかった。
この国の首都の名前は、ペンドラゴンって言うんだ。
これで経路は、確認出来た。
ペンドラゴン → サイカ → 関所 → ウェン → エリシオン
しかし、ラグス王国には縁があるな。
確か、カトレアたちってラグス王国出身だった。
「ーー以上でこちらの説明は終わります。冒険者については、そちらにお願いします」
「護衛は、チームで編成しました。ランクや人数についてはーー」
うちのSランクチーム『紅蓮』
俺を入れて3名。まだ、イナホ以外に誰を連れて行くか決めてない。
Aランクチーム『ガドナー』
護衛クエストの常連チームで5名。毎回頼んでいるそうだ。
Bランクチーム『オラクル』3名。
Bランクチーム『カルダーゴ』4名。
合計、4チームによる連携だ。
「『ガドナー』いるなら俺、要らなくねぇ?初の護衛クエストなんだけど?」
「ユーリを推したのは、魔物対策の要員だ」
「実は、最近関所と商業都市ウェンの間での魔物被害が多いそうなんです」
「ラグス王国の冒険者ギルドの情報によるとクズノズク王国での大規模な戦争が原因で魔物が流れて来たと考えられる」
「終戦から3ヶ月くらい経ってるのに?」
「逃げて来た魔物がその3ヶ月で土地に定着し暴れ始めたのだろう。現在各地で討伐が行われている」
「なら、俺は護衛しつつ、魔物が来たらそっち優先で良いってこと?」
「それで構いません」
「了解。こっちもその方が助かります」
「ついでに、『ガドナー』から色々学ぶといい。彼らは、実力は低いが護衛に関してはプロだ」
「そうですね。勉強させてもらいます」
「それとメンバーは決めたのか?」
「問題は、それなんですよね。俺とイナホは確定なんですけど、リリスたちから誰を連れて行こうか悩んでて」
「はて? ランクで決めるんじゃなかったのか?」
「あの様子を見るにねぇ……」
確定で最高評価だろう。
「おそらく、皆さん全員が総合A評価だと思われます」
ビリーさんもそう思ったようだ。
「本当なのか?」
「ええ、見たのはリリスさんだけでしたが、アイアンゴーレムを鉄屑に変えてました」
「うちの娘たちに制限かけたけど、あの結果だったからね」
「……護衛クエスト前に討伐クエスト用意しておくから行ってくるといい。最高評価合格者たちがBランクっておかしいだろ?」
「あはは、助かります」
「ユーリと一緒にカリーナ暮らしだからあり得ると思ったが予想通りか」
「一思いに依頼主に選んで頂いたらどうです?」
ビリーさんから提案された。
「カリスさんも商隊に同行するとの事ですし。実力は同じくらいらしいので、好みで選ばれて大丈夫だと思います」
なるほど!
カリスさんの好みに任せればいいのか!
「カリスさん、お願いできますか?」
「分かりました。請け負います」
これで、考えなくて良いな。
「それでは、最後に護衛クエストの要望や疑問はありますか?」
ギルさんの発言に、誰の声も上がらない。
「では、2日後。護衛クエストを開始します」
護衛クエストが無事、発注された。
カリスさんの選択で最後のメンバーは、リリアに決まった。
話した結果、他の2人より性格が固くないから良いそうだ。
残る2人の殺気がヤバいな。フォローしておこう。
翌日、転移による時間短縮のお陰も有り、リリスたちはAランククエストを3つこなして、無事Aランク冒険者になった。