名指しクエスト
ハプニングは済んだが、今日は来客が多い日らしい。
ルイさんを交えて歓談していたら。
「すまない。ユーリはーー」
パタン。
「よし」
転移で移動して、食堂の扉を閉めた。
ギルさんが見えた気がするけど気のせいだろう。
「おい、待て!何故、閉める!?」
「えーっ……」
ギルさんが入ってきた。
空気読んで帰って欲しかったのに。
「ギルさんが突然来るって事は、クエストだと思って……」
「確かにクエストだが……」
「俺、一時受けないって言いませんでしたっけ?」
マリーの妊娠報告した時に伝えたはずだが?
「知っている。だが、今回は仕方ないんだ」
「また、大型の魔物ですか?」
「違う。今回は、ユーリに名指しのクエストが来たんだ」
「うげぇ……」
名指しクエストとは、依頼主が冒険者ギルドに登録された者の内から名指しで指名するクエストの事だ。
冒険者ギルドに登録している者には、通常クエストとは違い、受ける義務がある。
名指しをする分、同じクエストでも通常より料金が高くなるからだったりする。
「今、1人で受ける事になるんだけど」
俺のチーム『紅蓮』。
俺とアイリス、マリーが登録されている。
2人は、妊娠中の為、クエストは受けさせられない。
「そこをなんとか頼む。大手のクエストなんだ」
「1人で行ってもいいけど、寂しいからなぁ……。誰か連れて行くか?」
いつもアイリスが一緒だったし。
「家族会議始めま〜す。全員集合〜」
皆が手を止めて集まってくる。
「アイリス。マリー。誰かをクエストに連れて行きたいんだが、誰がいい?」
「あの!私たちはダメでしょうか?」
リリスたちが同行を提案してきた。
「確かに、戦闘経験はあるな。どう思う?」
「連携による戦い方は、凄いものがあるよね。でも、警備的に2人は残して欲しいかな?」
「家の守りも考えるとそれが妥当だと思います」
「他に連れて行けそうな娘って誰がいるかな?」
「フィーネ。ミズキちゃん。イナホちゃんくらい?」
フランとユキは、幼いから除外らしい。
「前者の2人は、止めた方が良いと思います」
「何故?」
「家の料理が壊滅します」
「「………」」
うん。そうだね。
俺以外で料理出来るの彼女らしかいないからね。
アイリスに腕を抱き締められた。
「あっ、アイリス?」
「こっ、子供の為にも連れて行かないで!」
アイリスが涙目で、必死に頭をイヤイヤと横に振りながら言ってきた。
以前、1番影響を受けたのはアイリスだったな。
俺は、ハイエルフ組を見た。
「ちっ、違うです!あっ、あれはタマネギで目がやられたからで!」
使ったタマネギ少量だよな。
「そっ、そうです!あんな謎のモノが出来たのは偶然なんです!」
偶然で出来るか? アレ?
「ちょっとテンパって隠し味を入れるっていう、妙なチャレンジをしたのも悪かったと思ってます!」
今更だけど何入れたんだろう?
「いや、アレはさすがに無いだろう?」
ただの野菜入りオムレツを作らせたはず?
野菜を炒めて、卵で包めば完成。
それが、某アニメに出てくる溶けた巨○兵みたいになってたんだが……。
そして、アイリスは、「スライムだから大丈夫」と食べて気絶したのは記憶に新しい。
「フィーネとミズキは確定で残す」
「ありがとう!ホントにありがとう!ユーリ、愛してる!!」
「後は、4人の内誰を連れて行くかですね」
「経験させる為に2人連れてくか?イナホとリリスたちから1人」
「でしたら、すぐにでも決めましょう!いつものやり方で!!」
「「望む所です!」」
3人は、殺気立って出て行こうとした。
「待て待て待て!穏便に決めろよ!穏便に!!」
「だったら、ギルドのランクで決めればいい」
ギルさんに聞こえたらしく、話に参加してきた。
「そもそも、クエストへ連れていくなら冒険者登録しないといけないじゃないか」
「そうだった……」
通行許可証が無いから門で時間かかるんだった。
「今回は、急な頼みだから特例の昇格試験を行ってもいいぞ」
「マジで!?」
昇格試験は、実力ランクを確認する試験だ。
この試験の成績次第では、今から一気にBランクまで昇格出来る。
試験において、実力ランクをAまで測定出来る。
しかし、クエストポイントはゼロだからランクが1つ下がる。
「クエスト開始は、3日後になっている。だから、明日にでも出来る様に手配しよう。構わないか?」
「リリスたちは、それで良いか?」
「ドンと来いです!」
「姉さんを超えて見せます!」
「やるからには、最高ランクを取ってみせましょう!」
ハイエルフ組は、やる気十分だ。
「イナホも良い?」
「はい。主様の為に頑張ります」
「それじゃ、ギルさん。お願いします」
「分かった。帰って手配するよ。クエスト内容の説明は、依頼主を交えて明日ついでにするか?」
確かに、二度手間だな。
「俺としてもそれが良いです」
「分かった。明日、昼に冒険者ギルドへ来てくれ」
「了解です」
ギルさんは、要件が終わったから即帰ろうとした。
「待ちなさい、ギル」
我、関せずだったルイさんに呼び止められた。
「なっ、なんでしょう。お母様」
「そのクエストは、どれくらいの期間かかるか言いなさい」
「それは……」
期間も含めてクエストの守秘義務にあたる。
「言いなさい。マリーに関する事なのですから。誰にも漏らさないと誓いましょう」
「しかし……」
「ふむ。ユーリさん、竜鱗欲しくないですか?」
「竜鱗? 欲しいですけど。マリーたちの強化に繋がるし」
「そうですか。では、ギル、ちょっとついて来なさい」
「ちょっ、おっ、お母様!?まさか、嘘ですよね!?」
ギルさんの顔が青ざめていく。
えっ? どういう事?
「直ぐに戻ります」
ギルさんの抵抗は虚しく、首元を掴まれ引きずって行かれた。
さっきから思ったけど、ルイさんのパワーおかしくない?
……気にしたら負けか。竜種だし。
10分後。
「ただいま戻りました。クエストは、片道2週間ほどかかるそうです」
ルイさんだけが帰ってきた。
「往復で1ヶ月……」
まだまだ、産まれないとはいえ、1ヶ月も空けると心配になる。
一度、行ってしまえば転移で帰ってこれる。
だが、それでも2週間……長い。
「ユーリさんがクエストの間、私がこの家にいても構いませんか?」
「ホントですか!」
それは、願ってもない話だ。
ルイさんがいれば何があっても大丈夫だ!強いし!
「ええ、構いませんよ。それとコレを宿泊費兼転移門の製作費にどうぞ」
「そんな、宿泊費だなんて、いりませんよ!転移門も無償で造らせて貰います!」
「大丈夫です。そんな良いものでは有りませんから」
ルイさんは、虚空に手を入れた。
空間魔法で転移してたから、当然アイテムボックスも使えるのだろう。
「はい、どうぞ」
「えっ?」
目の前に出されたのは、透き通る様な蒼の竜鱗。
……ただし、一部から赤い血が滴っている。
「………」
どう考えても毟り取ったものですよね!?
たぶん、流れから考えてギルさんだろう。
……帰って来なかったし。
「どうしました?」
「いっ、いえ、有り難く頂きます」
ルイさんが、俺の中の危険人物リストにダントツで確定した。
ギルさん、ご愁傷さまです。
竜鱗は、有り難く使わせて貰います。
今度、何か差し入れしよう。そう思った。