どうやって来たの?
「儂の分のプリンは?」
復活してそうそう、気にするのがそっちなんだ。
「ないよ」
「何故じゃ!?」
「ルイさんが食べてるから」
一応、ガイアス爺さんの分を作ってはいた。
しかし、ルイさんに出す茶菓子として出した。
「代わりにこれをあげる」
焼き芋をどうぞ。
料理人スキルは、焼き芋するなら焚き火にも適用するらしい。
見事な焼き加減だ。
「芋か……」
アイテムボックスから出したから出来たての状態だ。
「おいおい、それの美味さを知らんな?半分に割って食べるといい。ほれ、スプーン」
ガイアス爺さんにスプーンを渡す。
「芋の料理は美味いが、ただ焼いただけでは……美味いな」
文句を垂れていたガイアス爺さんが黙った。
そうだぞ。サツマイモの焼き芋は、美味いのだ!
「そういえば、お母様はどうやってこちらへいらしたのですか?」
俺も確かにと思った。
転移門は、ガイアス爺さんが閉めるのを見た。
なら、鍵が無いと開けられない。
「俺たち以外の鍵持ちは、ギルさんとリリィだけだよな?俺以外に鍵のレプリカって作れるのか?」
「無理じゃ無いでしょうか?鍵の形状からして」
じゃあ、どうやったんだ?
ガイアス爺さんが門を閉めた時には、竜王国の転移門側にいたはず?
なのに、そこから数分で屋敷にやって来ている。
「あら、それなら簡単よ。ユーリ君がよくやってる事だわ」
「俺がよくやる?」
それって、まさか。
「空間転移ですか?」
俺の代わりにマリーが聞いた。
「正解!」
なるほど、理解した。
ルイさんは、転移により屋敷へやって来た。
本来なら場所を知らないから来れないが、転移門越しに屋敷の地下を見た。
それにより、屋敷地下への転移が可能になったのだ。
「竜種は、転移を使わないんじゃ……」
前にギルさんが、飛んだ方が速いから習得しないみたいな事を言ってた気がする。
「あんな便利なモノ、使わない手は無いわ」
ルイさんは、例外らしい。
「儂も今知ったんじゃが……」
アンタも知らんかったんかい!
それで逃げ切ったと思った訳か。
「もっとも私の場合は、ユーリ君と違い詠唱が必要になるのだけどね」
空間転移に詠唱ってあったのな。初めて知った。
「だから、長距離移動や緊急でもないと使わないのよ。普通に飛んだ方が楽ですもの。もっと貴方みたいに気軽に使えれば、マリーたちに会いにいけるのですけど……」
「俺が地下のと同じ転移門を設置しましょうか?」
新しく造ればいいだけだ。
「あら、良いの?」
「マリーたちが妊娠して心配だったので、助けてくれる人が欲しかったんです」
経験者としては、周りにリリィしかいなかったからな。
「そうなの?なら、ちゃんと代金を払うからお願いするわね」
何処ぞの誰かと違い、費用を出してくれるらしい。
テッテレテ〜〜♪
ルイさんへの好感度が上がった。
ガイアス爺さんへの好感度が下がった。
そんな感じ。
「ありがとうございます。今度、建物見せて貰っても?それに合わせて造るので」
外観にあった物を造ると約束しよう。
「良いわよ。本来はダメだけど、家族なら大丈夫なの。マリーの夫であるユーリ君には許可を出しましょう」
「ありがとうございます」
今度、竜神殿に行く事が決まった。
「……うん? マリー。ルイさんならイナホの件分かると思うか?」
ふと、そう思った。
竜種なのに転移を使うし、知識が豊富そうだったから。
「分かるかもしれません。お母様は、竜種の中で1番博識ですので」
よし、聞いてみよう。
「何か、聞きたい事でもあるの?」
「実は、ーー」
朝、起きたイナホの件を仮説も合わせて説明した。
「それが原因ね。でも、大丈夫よ。他の娘には、起こらないわ。私が保障してあげる」
知ってる様で保障してくれた。
「イナホちゃんだっけ? 彼女が、特殊なだけよ」
「特殊?」
「狐型の獣人は、魔力を尻尾に溜める性質を持っているの。それに伴い、尾が増えるわ」
「溜める? 尻尾に? 髪じゃなくて?」
ベル曰く髪は、女性の魔導師にとっての最後の切り札。
髪は、魔力が溜まりやすく、髪は長いほど良いとされているそうだ。
昔は、男性魔導師もやっていたが、魔力を溜める技術が増えた事で行わなくなった。
ベルも髪に魔力を溜め、予備魔力として蓄えている。
「そう、尻尾。骨や触覚もあるけど、最終的には天使の翼の様に出し入れ出来る様になるわ」
天使族という女性のみの種族がいる。
彼女たちは、姿形は人と変わらないが魔力で出来た翼を出し入れ出来るし、それで飛べる。
「じゃあ、このままで大丈夫なんですね」
「ええ。増えても9本までよ。尻尾が増えるにつれて、本人の器が大きくなるから魔力量も増えるわね」
九尾狐……イケる。
「私の知り合いにもいるけど、竜種と同等もしくは超える程の魔力量になるわ」
「マジで!?」
イナホの武器改良しようかな?
「嫌なら今から練習して1本に収束する様にすれば大丈夫よ。今からでも出来る筈だから。それか、魔力を大量に使うかよ。魔力を大量に消費すれば元に戻るもの」
「なら、緊急用に取って置くべきだな。イナホも別に困っていないんだよな?」
「はい、手入れが大変な事以外で困ってません」
「よし、大丈夫そうだ。手入れしたがってるのがそこに何人もいるから」
さっそく、ブラシを持ったアイリスとフィーネに目があった。
「いや〜、だって前から気になってたし」
「お手入れすると良い匂いがするもので……」
ああ、するよな。良い匂い。
お日様に当てた布団みたいな良い匂いが。
「良いな。私も長かったら良かった」
「イナホだけ皆にやって貰ってもズルいのです」
フランとユキは、尻尾が細かったり短かったりするからそんなに手入れが掛からないんだよな。
「髪を梳く時、尻尾もしてあげるから許してあげてね」
「はーい!」
「はい、なのです!」
聞き分けの良い娘たちだ。
なでなで。
うん、今日もいい撫で心地だ。
癒やされる。
「これで一件落着だな」
こうして、尻尾問題は解決した。
いつもの余談だが、ルイさん曰く、尻尾が増えた獣人族を『幻獣人』と呼ぶ事もあるそうだ。
普通の環境では、獣人の尻尾は増えないからだ。
マリーが前に言った通り、高魔力を含んだモノを一定期間体内に入れる必要がある。
その上、大気中の魔力濃度が高い場所にいる必要があるそうだ。
カリーナの森は、元々魔力濃度が高いが、屋敷周辺は特に高いらしい。
原因、その1。ゴールドアッポ。
あれは、呼吸により魔力を少量だが放出。
周囲は、魔力濃度が上昇する。
敷地の四方に1本ずつあるな。
原因、その2。俺、アイリス、マリー。
高魔力保持者の周囲は、魔力濃度が上昇する。
そんな訳で環境に恵まれていたからだった。