閑幕 従者たちの心配
星々が瞬く、世の狭間。
神々が住まう、その場所で話し合う者たちがいた。
「今日もタナトス様は、見ておられるのか?」
「そうですね。休憩中ずっとです」
「面白い何か、なんでしょうか?たまに、クスッと笑うのが見て取れますし」
「業務に支障がないから良いが、少し気になるな」
彼らは、タナトス付き従者である。
タナトスの命により、世界の管理に携わる。
「誰か、何を見てるか知らんのか?」
その従者の疑問に答えが出る。
「下の世界を見てるみたいですよ。デスクに寄った時見えましたから」
それに答えたのは、最年少の従者だ。
「何か、あったか?」
「異変は、感じていませんね」
「昔の様な大戦の兆しも無いですし」
「そもそも、たまに笑われるのですからヒトを見ているのでは?」
「新しい勇者が生まれたとか」
「今の魔王は、マトモだから生まれないだろ。あれは、抑止の存在だし」
「考えるくらいなら聞きましょう。自分、一思いに聞いてきます」
「ちょっ!?」
止める前にタナトスへと近付いていく最年少従者。
最年少なだけあって、恐れを知らぬ。
心配のあまりオロオロする従者たちであった。
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「おやおや、まぁまぁ」
竜王祭の一件で妻が増えた様だ。
しかも、奴隷の少女たちを引き取った。
薬師のスキルも順調そうだな。
エリクサーで傷を癒やしてあげていた。
寿命が伸びることを忘れてるみたいだが、特に問題ないだろう。
創る人のスキルも活躍中か。
おっ、刻印に気付いた様だ。
最低限の魔法知識があるから刻印も活かせるだろう。
「これは鋳造だな」
この世界に鋳造という概念はない。
彼の世界で生まれたモノだ。
魔法がない故の生きる知恵の1つ。
それに彼が学んだ技術でもある。
これは、銃か。
銃の構造に魔法を組み込んだのか。
「しかし、出回るのは困るな」
あっ、ヤバさに気付いた。
というか、竜撃弾凄いな。
特級クラスの威力があるぞ。
まぁ、護身用にするらしいし、本人しか造れないから大丈夫だろう。
「タナトス様」
いつの間にか、側に従者が来ていた。
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私は、タナトス様付きの従者でエピメテウスという。
タナトス様の様子が気になって声をかけてみた。
「どうしました?今、休憩中でしょ?それとも、緊急案件ですか?」
「いえ、そういう訳ではありません」
タナトス様は、何時もと変わらずに接してくれる。
「ただ、楽しそうだなと思いまして。何を見ているのですか?」
「ふむ。……一緒に見ますか?」
予想外なお誘いがきた。
「良いのですか?」
「ええ、貴方なら特に問題もなさそうですしね」
「でしたら、是非」
「では、こっちへ」
タナトス様の側にて、水鏡を見る。
そこには、一人の青年が映っていた。
「彼は……半神ですか?」
私の鑑定による結果だ。
「ええ、人から進化しました」
それはなんとも……。同情を禁じ得ない。
「相当、苦労したのでしょうね」
人から半神への進化は容易ではない。
「そうですね。5人分もの不幸を背負ってましたし」
「不幸?」
「いえ、こちらの話です。おや、とうとう属性剣を作った様ですね」
映像には、属性剣を鍛冶により造る様子が映されていた。
それを武器にするのかと思っていたら違った。
「えぇーー、なんか農業に使い始めたのですけど……」
「ほう、色々な用途があるんですね」
「あっ、ズルい。釣りであんなのって」
「くっくく……」
「クラーケン!やはり、アレでしょうか?」
「アレでしょうね」
彼は、クラーケンへ向けて大型の銃砲を構えた。
「わぁーお、上部が吹き飛んだ。アレ?あの弾って」
「神剣フラガラッハ。それの形態変化したものですね」
「あげたんですか?」
「内緒ですよ」
「言いませんよ。宝物庫で眠るよりは良いでしょう。長老なら激怒しそうですが」
タナトス様付きの従者の中に口煩いのがいる。
最年長な事もあり、自分たちは裏で長老と呼んでいる。
「なら、他言無用を命令します」
「承りました」
「おお、奥さん妊娠しましたね」
「彼女、スライムなんですよ」
「マジですか?」
「マジです。今は、スライムになれない様ですけどね」
「スライムと半神の子って……何です?」
「おそらく、魔族ですね。魔人との交配で産まれた種族ですし」
「魔人。一部の魔物を指す言葉でしたっけ?」
「そうですよ。人型と魔物体の2つの姿を持つ者と思っている人が多くいます。しかし、魔物体が人型になってる者がいますからね。知性の有る二足歩行の魔物って認識で大丈夫です」
「なるほど」
大変、勉強になった。
「こんな面白いものを一人で見ていらしたのですね」
「あはは、聞かれませんでしたからね。今や仕事の合間の気分転換に見てます」
「ズルいですよ。俺ももっと見たいです」
「なら、次から誘う様にしましょうか?」
「ホントですか!?」
「ええ、ただし、彼には内緒でね」
「分かっていまよ。口煩いですから」
「では、今日はこれくらいにしましょう。まだ、休憩時間ありますし。休んでは?」
「そうします」
タナトス様は、また、仕事に戻っていった。
さて、俺も休憩にーー。
「おい、エピメテウス」
捕まったよ。
「結局、何を見ていたんだ?」
やべぇ、何て言おう。
「Sランク冒険者が増えたみたいでしてね。その活動を見ているようです。色々な人がいて面白かったですよ」
嘘は、言っていない。嘘は。
彼、Sランク冒険者だし。
「なるほど。確かに変なクエストとかもあるから、見ていて楽しそうだな」
「そうなんですよ」
「これで心配は、無くなりましたね」
「ああ、これで安心出来る」
アンタが心配し過ぎなだけだけどな。
「ほら、それより休憩時間少なくなってますよ。飯に行きましょう」
よし、この流れに乗って会話を終わらせよう。
「お腹空きましたよね?」
「おお、そうだった!」
「ヤバい、定食残ってるかな?」
「無かったら単品頼めば良いじゃないですか?」
「馬鹿、そしたら高いだろ」
神の世界は、今日も穏やかに流れる。