エリクサーを作ろうとした理由
歩きながらある事を考えた。
リリアーヌが、カトレアたちにゴールドアッポを頼んだのは、自分でエリクサーを作る為なのではないか?
彼女は、月の雫を持っている。
俺から試験管1本分を購入したしな。
本来のエリクサー販売価格で売り付けた。
しかし、彼女が作る理由が見つからない。
今までに10本卸している。
元々、希少なモノなので出回りにくい様に1回1本の卸しにした。
知識の豊富な彼女ならそうそう売りもしないはず。
なら、何故作る必要がある?
薬師としての好奇心か?
……考えるだけ無駄だな。
本人に聞くとしよう。
目の前には、見慣れた薬屋。
いつも通りのテリーゼと書かれた色褪せた看板。
年季の入った扉。
ガチャ。リリーン。
俺が遊びで作ったので、プレゼントした呼び鈴がなる。
「リリアーヌさん、居ますか?」
カトレアたちより先行して扉を開けた。
『!!?』
中にいた人たちが絶句する。
白いロープで縛られるリリアーヌさん。
肌との相性もありエロいな。
リリアーヌさんを縛り上げるリリスたち。
何やってんだ、コイツら。
それを店のテーブルで紅茶を飲みながら見ているマリー。
いや、止めろよ。
「失礼しました」
見なかった事にして扉を閉じた。
「おい、どうした?」
「何かあったの?」
「人はいた。服が見えてた」
「師匠。何か取り込み中でしたか?」
全員、見えてないのね。
まぁ、俺が前にいたからな。
「気のせいかと思ってな。今度は、ちゃんと開けるよ」
ガチャ。リリーン。
今回の光景は、……変わっていなかった。
「「「「えっ?」」」」
知り合いが変な行動に出ていれば驚くよな。
「何してるの?」
「助けて、ユーリちゃん」
「その呼び方、女の子みたいだから止めてって言いませんでしたっけ?なんで、縛られてるんです?」
「そっ、それは」
「逃げようとしたからです」
それに答えたのは、リリスだ。
「何故です?リリアーヌさん」
「恥ずかしくて……」
意味が分からん。
「貴方の娘だろ?何故に、恥ずかしがる理由あるんだ?」
「どうも、リリスたちの為に色々していたらしく、本人たちが来てしまい、自分の行動が無駄になった様です。それで、恥ずかしくなり逃亡しようとした所を拘束って流れになりました」
静観していたマリーが流れを語ってくれた。
「ついでに色々聞いてました」
「母さんらしいなって思いましたね」
リディアとリリアもそれで良いのか。
「とりあえず、拘束を解こう。それから話し合いだな」
拘束を解いた後、テーブルに着き、再開。
リリアーヌさんは、リリスとリディアに左右から挟まれて座った。
「さっき、色々ってマリーが言っていたけど、それはエリクサー作るのと関係あるのか?」
「おっと、そうだった。リリアーヌさん、依頼のゴールドアッポだよ」
「あら、ありがとう。でも、必要じゃなくなったのよね。代金は、ちゃんと払うから安心してね」
やっぱり、関係あるようだな。
「簡単に説明すると娘たちの傷を癒やす為に作ろうとしてました」
「傷?リリスたちは、元から何処かケガしてたのか?」
「いえ、そうではないようです」
「傷ってのは、この耳とかです」
「何処で聞きつけたのか?私たちが奴隷になってるって知っていたみたいです」
「ちょっと裏の人間に伝手があってね。エルフならまだしもハイエルフの取引があったって教えてくれたのよ。しかも、聞けば聞くほどに娘たちと特徴が一緒だったから見に行こうとしたの。ただ、取引場所がクズノズク王国だって」
「あの国は、奴隷売買のメッカだった」
「うん。行けば私も奴隷にされる可能性があって近付けなかったんだ。だから、情報だけ集めていたら奴隷たちが暴動を起こし、ベルトリンデ王国も介入して奴隷と共闘を始めたから、今ならクズノズク王国に行っても大丈夫と思ったのよ」
「とはいえ、危険なのは変わりないからエリクサーを用意しようとしてたと」
「エリクサーは、交渉の道具にもなるからね。ベルトリンデ王国の貴族には伝手もあるし」
「で、準備してたらリリスたちが来たと」
クズノズク王国の話は、俺も昨日聞いた話だが、情報はその前から流れていたのか。
「そうなのよ。とっても心配してたのに無駄になったら恥ずかしくて」
「あ〜、悪い。もっと前に連れて来るべきだったな。マジですまん」
「ユーリ様のせいでは、有りません」
「私たちが気付いていなかったのも原因ですし」
「そうです。こうして会えたのだから気に病む必要有りませんって」
「うん?どういうこと?」
「リリスたちは、竜王祭の後からずっとうちで暮らしてるんだよ」
「えっ、竜王祭って1ヶ月程前よね」
「うん」
「その後、私たち何回も取引したわよね」
「うんうん」
「oh……」
顔に手を当ててショックを受けるリリアーヌさん。
なんせ、探し人が直ぐ側にいたのだからな。
「マリー。王宮への出入り許可取ってくれない?」
「鍵を渡すのですか?」
「そのつもり。ダメ?」
「良いですよ。彼女、うちの城にも薬卸してますし。今日中に取れますよ」
「なら、渡しておくか」
アイテムボックスから予備の鍵を取り出す。
俺の分だが、オリジナルがあるから帰って作ればいい。
「リリアーヌさん。これをどうぞ」
「何の鍵?」
「王宮に設置してある転移門の鍵です」
「転移門!?」
「行き先は、王宮と俺の屋敷を繋いでいるのであげますよ。これなら気軽にリリスたちに会いに行けるでしょ。それに屋敷の薬草畑の手伝いもして欲しいですしね」
契約書に書いてはいるが、これは守る必要がない。
彼女、理由無しで来れなさそうなのであえて強調した。
「王宮への許可は、今日中に取れるそうですけど。今から来ますか?マリーがいるので入れますよ」
「……行く。今日は、もう店を閉める」
「よし、なら、帰るか」
『はい』
「よし、ついて行くとしよう」
カトレアが妙な事を言い出した。
「……誰について行くの?」
「アンタたちにだよ」
「なんで?」
「リリアーヌさんを連れて行くって事は、今日も宴会するだろ」
「酒は、出ないがやるな。たぶん」
「それに参加する」
「昨日、しっかり堪能したよね?」
「人数多い方が楽しいだろ!だから、連れてけ」
あっ、これ何を言っても無理そうだ。
「……畑の手伝いするならいいぞ」
「よっしゃあ!交渉成立だな」
宴会二日目が決定した。