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とある冒険者の後悔

 まさか……こんなことになるとは……。


 後悔先に立たずと言うが、悔やんでも悔やみきれない。調子に乗った末路と言うべきか?

 あの時、必死に仲間達を止めてさえいれば、こんなことにはならなかっただろう。


 壁や天井が崩壊し、逃げ場を求めて迫り来るダンジョンの魔物たち。

 その先頭を必死な形相で駆け抜ける。足の感覚はとうに無いが、それでも足を動かさなければならない。死神の鎌はすぐそこだ。


「うおっ!?」


 仲間の一人が横道から来たら、ワーウフルともみ合いになって倒れた。こんな状況でも魔物たちの敵対行動に変わりはないらしい。

 背後からナイフで首元を刺して蹴り飛ばし、仲間を助け起こす。


「大丈夫か!」

「すまん! 助かった!!」


 ボンッ!! ドドドドッ!!


「牽制で放ったファイヤーボールが功を制した。玉突きでこけてやがる!いつ間の内だ、急ぐぞ!」


 立ち止まった仲間のために放った魔法がうまくいったらしい。魔物たちが通路で山になって呻いている。今が縮まった距離を引き離す時だ。


「「「………」」」


 手描きの拙いマップを頼りに通路を駆け抜ける。

 長い無言が続く。きっと心の中では俺と同じ様に数日前の俺たちを振り返っているのかもしれない。


 数日前。

 俺たちは冒険者として幸運と名誉の頂きで浮かれていた。


「まさに幸運ウサギ! 追いかけて未発見のダンジョンを見付けるとはな!!」


 リーフラビット。貴重な薬草を食べてしまうことで有名な害虫ウサギ。間引きも兼ねて、領主からの依頼で定期的に張り出される。


 しかし、冒険者にとっては嬉しい魔物だ。

 遭遇率は低いものの危険度が低く、肉はそこそこ美味い。毛皮も良い感じに売れる。幸運にも遭遇出来た者は数日は楽に暮らせるし、次に繋がる糧にも出来る。故に幸運を運ぶウサギで幸運ウサギ。


「クエスト中に偶然見つけた時はラッキーと思ったけど逃げ出した時は焦った焦った。でも、追いかけて正解。やはり幸運ウサギの名は伊達じゃないな!」


「く〜っ、これは俺たちもとうとう運が向いて来たのかな!?」


「確かにな! ダンジョンの発見者となれば、初回探索権で最初に潜れるし、遭難によるサポートも付いてくる。一攫千金も夢じゃない!!」


 初回探索権。ギルドの認定員以外で一番最初に潜る事ができるので、固定の宝箱が有れば最初に開けられる。

 そして、サポート。初回故にイレギュラーは付きものなので探索期間を固定されるが、未帰還の場合はギルドから無償で捜索隊が出されるのだ。


「……なぁ、いいこと思いついたんだけど聞かないか?」


「おう、どんなのよ?」


「ギルドの認定員が潜った後、追いかける形で潜って、事前にマップを作らないか? 間引いてくれるからあまり戦わなくて済むし、各部屋を細かく見て回ることが出来るよな?」


「……確かにギルドも探索するなと告知するが、発見者へのペナルティはない。ルートが確立できれば期間内に深くまで潜ることができる」


 俺たちはこの提案に笑顔で頷いた。

 そして、ギルドの認定員が出発する日を調べ、半日ずらしてダンジョンに到着。周辺に人がいない事を確認して潜り、順調な滑り出しで初日を終えた。

 だから、2日目にしてこんなことになるとは思わなかったのだ。


「よし、通路を抜けた!ここで張り紐でもしておけば横転して更に時間がーー」


 通路を抜けて安全地帯へとたどり着いのだが、そこには既に先客が待っていた。


「うそ……だろ?」

「ここに来て、コボルトの群れかよ!?」


 その数は軽く見積もって30は超えている。

 前のコボルトの群れ、後ろのトレイン。絶対絶命とは、このことだ。


「なんでこんな所に!?」


「ダンジョン崩壊中は安全地帯の役割が消える。そこへトレインのコボルトが発した声を聞いた奴が集まってきたんだろう。で、どうする?」


「どうするもこうするも、生き残るには前に進むしかねぇよ!最短距離の奴だけ狩って走り抜けるぞ!! 」


 確かに生き残るためには、それしか選択肢がない。俺たちは勇猛果敢にコボルトの群れへと挑んだ。


「ぐっ…!」

「あがっ……!」

「っ!!」


 仲間たちのくぐもった声。進んでる様で進めず、自身の身体にも傷がどんどんと増えていく。


 ……もう無理かもしれないな。


「お前たち、その場を動くな」


 目の前のコボルトたちが凍りつき、砂の様に崩れさると青い剣を携えた一人の青年が飛び出してきた。


「伏せろ」


 大地と水平に構える青の剣。一目で一線を画した代物だと理解させられ危機感から体が震えた。俺たちは彼の言葉に従い逃げる様に地面へ伏せる。


「アイスエッジ」


 横凪に振り払われる青の剣は、彼を中心に魔物だけでなく部屋中を凍てつかせた。


「回復と離脱を同時にやる。少し手荒になるけど我慢してくれよ? ヒーリング……テンタクル。それじゃあ、転移!」


 回復魔法の後半はよく聞こえなかったが、聖属性の魔力が傷口に巻き付き癒していく。

 そして、浮遊感の後、視界の景色が切り替わった。


「これは……外!?」


「「「!?」」」


 転移魔法だと!?

 伝説のような魔法でダンジョンから外へと一気に連れ出され俺たちは困惑した。

 さらに追い討ちをかける様に結界が張られて閉じ込められる。


「あなたたち、覚悟は出来てるのでしょうね?」


 背後からの声に振り向くと青筋を浮かべた女性が立っていた。確か彼女は魔王国のギルドマスターだった筈?


 そんな彼女が何故ここにいるのだろうか?

 というか、俺たちは助かったんだよな?


 命は助かったのに、全然助かった気がしないのはどういうことだろう。

 とりあえず、疲れたから寝たい。全て忘れて寝たい。起きた時、全て夢であってほしい。そう思いながら俺たちは意識を手放しーー。


 バチッ

「「「「うぉっ!?」」」」


 全身へ電気が流れて一瞬で覚醒した。


「何寝ようとしてるのかな? 雷魔法って尋問に役立つのよね。手加減さえすれば、あとが残りにくいし。仕事を増やした八つ当たりーーごほん。お話を聞くの為には必要な事よね?」


 一つだけ分かることは、ルールというのはそれが生まれた理由がちゃんとある。


「「「「アバババッ……!!」」」」


 守らなければ、いつか絶対に後悔する。それが俺達の教訓だ。

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