未開のダンジョン 後編
ダンジョン生活2日目。
地下4階から始まった探索は事前調査もあって順調そのものであった。
「うん、やっぱり彼って非常識すぎるわ!」
「ですね」
僅か数時間で10階層に到着。魔力感知の結果や小規模ダンジョンの階数的にもここが最下層だろう。
「階層が薄く、目新しさも無いからぶち抜くなんて……」
だって、早く帰りたいし。それに8〜10階は同じモンスターに低ランクアイテム。調査とはいえ周る価値あまり無いよね。
そんな訳で後ろから非常識と揶揄する声なんて、聞こえないさ。うん、聞こえない。
「ココさんはそっちを。こっちは俺がやるから」
「はいよ」
まぁ、でも最下層は真面目に対処するよ? 危険度増し増しギミックの山が俺たちの行く手を阻んでくるからね。
それを手分けして無効化或いは破壊して進んでいく。
「そんじゃあ、せーの……ダッシュ!」
ガラガラーーガッシャン!!
ココさんが高速で通路を走り抜けると巨大な三日月の刃が天井から振ってきた。
「相変わらず殺意高めだよな。それポチッとな」
ゴトッ。ゴゴゴゴッーースパパパッーーバラバラ……
水魔法で網を作り待機させ罠を発動すると見慣れた大岩が狭い通路を転がり細切れにされた。
「むっ……前方から敵が接近中! 数は2です」
罠を解除する間、前方を警戒して貰っていたネモの声がかかり素早く陣形を組む。
「ウォークライ! うおおおぉぉ!!」
「ストーンバレット」
「ウォータースラッシュ」
「ウインドカッター」
壁役に敵を集めて魔法で左右から叩き難なく戦闘終了。
その後、両手を超えるかというくらい戦闘をした所でボス部屋へと辿り着いた。
「さて、これから行う事だけど、みんな頭にちゃんと入ってるかしら?」
最後になるだろうミーティングで作業の確認を行う。
「まずは通常通りボスの撃破。これは普段と変わりないわ。それが終わってからダンジョンコアの捜索よ。感知外に有るから埋め込み型か、隠し部屋かすらも分かってないわ」
「はい、質問です」
「何かしら?」
「感知外にあるんですよね? どうやって見つけるんですか?」
「捜索は専用の魔導具を使います。ダンジョンの魔物は修復する際にエネルギーをコアから供給されるからそれを辿るのよ。それも最も近いだろう場所……最下層のボス部屋とかね? なんてたって、ボスは部屋を出ると直ぐに復活するもの」
ダンジョンはその成り立ちから壁や床を魔力感知すると血管の様に根が張り巡らさている事が分かる。なのでコアに近くなるにつれ根は太く、本数も増えるので始点となるコアの位置が隠れて分からなくなるのだ。
しかし、リポップする際に対象となる根をエネルギーを通るので解る仕組みだ。
「なるほ……えっ、つまり最低2回はボス戦を行うって事ですか!?」
「まぁ、そうなるわね」
倒してそのまま先に進む訳にはいかないから引き返す。なので、出る為にもう一度戦うか、来た道を時間をかけて引き返す必要があるのだ。
また、エネルギー供給が1回では分からないことも有るので複数回必要な事もある。
「そういう訳で私は魔道具を外と部屋内に設置するから皆は戦闘か護衛を選んでちょうだい。ユーリ君は魔導具無しでも感知出来そうだけどどうする?」
「ここは戦います。早く終わらせたいので」
「そうよね。早く私を食べちゃいたいだろうし」
「そうそうーーいや違うよ!? 早く帰って嫁の顔が見たいってだけ「抱きたくないの?」……な訳でなくもないです。とっとと終わらせますよ? 今回は少しズルしますので、戦闘は俺一人にやらせて下さい。無理そうなら介入で」
「……何をするか気になるけど他のみんなは? 私は一切手を出せないわよ?」
「早く終わるに越したことないですし。実力の差を痛感してますからお任せしても良いかと」
「楽出来るのは良いよね。イレギュラーにだけは備えておくね」
「護衛も立派な仕事だと思うのでそっちに回ります」
「アタイもそれで。邪魔になりそうだし」
「ありがとう。では、最短で終わらせる」
許可も貰ったので早速ボス戦を始めよう。
「グォオオオオオ!!」
「「「「…………」」」」
部屋に入ってそうそう殺気を放ち雄叫びを上げたモンスターを無視して鑑定。その結果を伝えると、まぁそうなるよな?
種族:ウルフベア
危険度:B−
説明:ウルフなの? クマなの? 一応、クマだと思う。
俺に聞かれても困る。それは皆も同じだろう。
狼の頭と尻尾にクマの胴体と手足。遭遇時は四足歩行で、雄叫びを上げる威嚇は二足歩行。
う〜〜ん、クマかな?
「よ、予定通り戦います」
「え、ええ、宜しくね……」
正気に戻り測定用のアイテムを設置し始めた皆から距離を取り挑発する。
「さて、初めての実戦投入と行きますか。俺の考えうる最凶で最悪の技を御覧じろってね」
【八百剣・葬棺】
俺の構えたフラガラッハが先端から煙の様に消えていく。
「グォオオオオオーーーボシュッ」
「「「「えっ?」」」」
雄叫びを上げながら迫ってきていたモンスターが一瞬で視界から消えて報酬のアイテムだけが残された。
「それでは結果を確認しに戻りますか?」
「えっ? あ、ああそうね」
「それじゃあ、リポップの為に出ますよ〜」
部屋を出ると扉横に設置した魔道具の結果を確認する。
「う〜〜ん、おおよその位置は分かったわ」
「おおよそ……それって何回も行うとよりハッキリ分かる感じですか?」
「ええ、そうよ」
「なら、ちょっ早行ってくるので確認してて下さい」
そんな訳で部屋に入って直ぐに出た。
「「「「………はっ?」」」」
「どうでした?」
「えっ、今何を……?」
「ダメでしたか。それではもう一度」
部屋に入って直ぐに出る。この間、およそ10秒。主に扉の開閉時間のみ。
ただ、何故かぽかんとして誰も反応しない。それを更に数回こなすも皆に変化なかった。
やはりダメだったのだろうか?
「なら、もう一度……」
「待ってまってまって!!」
入ろうとした所をヴィヴィアに服を掴まれた。
「いや、何をしたの!?」
「何って、入って殺して出てきただけですが?」
「早過ぎない!?」
「そりゃあーー」
攻撃手段を説明。霧状に変化させたフラガラッハで部屋を満たして待機中。開始と同時に細胞レベルで破壊しているのだ。
「目視。迎撃。即死!」
「何その凶悪トラップ!!エグすぎない!?」
「なので、俺以外は入らないようにお願いします。ミスった時が怖いので」
「「「「絶対に入りません!!」」」」
という訳で再度突入する事を数回。ダンジョンコアの場所はしっかりと確認出来たのでした。
場所は何処かって?
ボス部屋直下の隠し部屋だ。ただし、そこに行く為のルートは直ぐに見付からない為、毎度おなじみ強硬手段を実施。
「床が消失。いえ切ったの……?」
フラガラッハで床下を切り裂き、そのまま隠し部屋を覗き込む。
部屋の中央で宝石の如く輝く台座に納まったダンジョンコアが綺麗だぜ!
「後は壊すだけ?」
「今のユーリ君の魔力量はどれくらい残ってる?」
「普通の竜種よりちょい多め」
アレから魔力修行を頑張ったのです。
今では竜王並の魔力にアップ♪
「なら、壊すよりもっといい方法があるわ。コアをそのまま買い取る気はない? 点滅している今なら貴方の魔力で掌握できると思うの」
光源の乏しい隠し部屋で何故輝いているかというとダンジョンコアが点滅を繰り返しているからだ。
「あなたが最下層のボスを殺しまくったせいでエネルギー不足に陥ったのね。完全に掌握すれば貴方の魔力しか受け付けないから新しくダンジョンを作って好きに作り替えれるわよ。取り敢えず、掌握出来るかだけでも確認して」
「はぁ……」
好きに作れるダンジョンは魅力的だが、買い取りたいかと言われると正直微妙……。既にカスタマイズ出来る箱庭を持ってる訳だしさ。
取り敢えず、言われたままにダンジョンコアへと手を伸ばした。




