誰か説明して……
「ユーリ、目を覚ますんだ!! 起きろ!!」
「ふぇっ? ぎっ、ギルさん?」
無理やり起こされ目を開けると、飛び込んで来たのは嫁ではなく、切羽詰まったギルさんの顔だった。
そういえば、説教中に上から何かが落ちてきて気を失ったんだっけか?
「よし、起きたな?! 起きたなら直ぐに手を離すんだ!!無くなっても良いのか!?」
「はっ、手? 誰の? 俺の?」
ギルさんに言われて、自分の腕の先を見る。
「アッ……アアッ……」
「ふーっ、ふーっ……。出来る……。私なら出来るはずっ……!」
首を絞められながらも恍惚とした笑みを浮かべるアンナさん。
誰の手だ? 手から辿る様に見ると俺の手であった。
そして、荒い息遣いで剣を構え、今にも振り降ろさんとするマリーがいた。
「いや、どういう状「セイッ!!」ーーうおっ!?」
振り下ろされる剣。間一発で手を離し、腕を引っ込めて事なきを得た。
アンナさんの方は糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちる。
「あっ、ユーリさん!起きてくれたんですね? 良かったです。振り下ろす前で」
「いや、振り下ろされてましたが!?」
「あら?」
マリーはもう一度剣を振り上げ、可愛らしくニコッ。
「気のせいです」
「……気のせいとは一体?」
とりあえず、その剣を降ろして下さい。
「それより、なんでこんな状況に?」
ギルさんは必死に俺を起こそうとしてたし、俺はアンナさんの首を絞めてるし、マリーは剣で腕を切り落とそうとしていた。
「あっ、それはですね。私たちの握力でもなかなか手が離れなかったので、アンナの早急な救出の為にユーリさんのフラガラッハをお借りしました。ただ、やる瞬間に失敗して腕が二度と戻らなくなったら……そう思ったら途端に怖くなってしまいまして」
「ぶっ、無事で良かった……」
話を聞いて、血の気が引いた。
以前、フラガラッハを修復した際にマリーとアイリスの一部を使用した事で、俺が使っていない時に限り、2人も呼び出すことができる様になっていた。
ただ、少し問題もある。
2人の場合、普通に斬るのと概念的に斬るのを切り分け出来ないので、どうなるかは切ってからのお楽しみなのだ。
あぁ、心の底から切られなくてよかった!!
「はっ、それよりアンナさんはっ!? すみません、無事ですか!?」
彼女は先程から俯いたまま動こうとしない。
「…………けた……」
「んっ?」
何かを言ってる様だが聞き取れないので近づくと。
「ミツケタ。ミツケタ。ミツケタ。ミツケターー」
「ひいぃっ!?」
壊れたおもちゃのように同じ言葉を紡ぎ、異様な雰囲気を醸し出していた。
「あぁ、素晴らしい! 素晴らしいですわ!! コレが私の探し求めた愛!!」
顔を上げた彼女は虹彩の消えた瞳を向けてきた。
折れているのか、赤く腫れ上がった腕を愛おしく撫でながら。
「マイマスター。マイロード。私の全てを捧げます。貴方様が犯し嬲り飽きて打ち捨てるその時まで貴方のモノである事を誓います。だから、思う様、私を壊して下さいまし!!」
「んっ!?!?」
俺はあまりの状況について行けず、助けを求めに2人に目を向けると、何故か、サッと逸らされた。
「……おーい、マリーさんや。さすがに奥さんの君は逃げちゃ、ダメでしょうよ?」
「やっぱり、ダメですかね……?」
「うん、ダメです。今こそ奥さんの出番です」
「う〜ん、仕方ないですね」
マリーは苦笑しながらポーションを取り出し、アンナさんへと手渡した。
「とりあえず、治療しながら整理も兼ねて彼女に経緯を説明してもらいましょう」
「分かりました。では、ユーリさんが運ばれてきたところから……」
そして、治療を得た彼女は語りだした。
「まずは、ユーリさんのせいで興奮し、自慰を始めた私は部下たちに強制退場させられて医務室へと運ばれました。仕方ないのでスクリーンを見ながら慰めていました」
「んっ?」
「あー、やっぱり?」
「突然消えたので、そんな気はしていた」
困惑している俺を他所に、2人は納得したように頷いている。
「そこへ試合を無事に終えたはずのユーリ様が、なぜか気を失って運ばれてきましたので……ズボンを下げました」
「んんっ!?」
「まぁ、タイミング的にそうなるよな」
「死闘の後ですからね。それはそれは元気だったでしょうし?」
はっはっは、何を言ってるのだろう?
まるで俺が知らぬ間に犯された様に聞こえるのですが……。
「量も……凄かったです」
「まぁ、夜が楽しみです♪♪」
「アウトォォォ!!」
間違いない。俺は喰われてしまった様だ。
「そこからどうしてああなるんだよ!?」
「それは殺す気でナイフを振り降ろしましたから」
「ふえっ?」
「ご存知ですか? 後が……と良く言いますが、実際はその瞬間こそが一番隙だらけになるんですよ?」
「なるほどな」
「そこでユーリさんの生存本能が働いた訳ですね」
「今思い出してもぞくぞくします。振り下ろした腕を掴むと躊躇いもなく折り、空いた手も首を折りにかかるなんて……」
ちょっと待ってくれ。色々突っ込みたいところはあるが。
「そもそも何で俺は殺されかかってるの?」
「それはユーリ様が」
「「「強者だから」」」
より一層混迷を深める俺なのであった。




