波乱の予感
終わりを意味する"ヴィンター"クラス。
竜王ガイアスとユーリの戦いは勝者不明?のまま終わりを告げた。
「これは、また派手に壊しましたね」
二人の試合が終わり地上へと降りた闘技場に足を踏みれたマリーは、その清々しいまでの壊れっぷりに苦笑した。
「A班は瓦礫の撤去、B班は損害箇所の把握を調べてくれ。C班は防衛機構の魔法式、それの再構築にあたってもらう。それでは各自行動開始」
闘技場の中央で軍隊の様に整列したギルド職員たちに兄が指示を出していた。
「お兄様」
「おっ、マリーか。ユーリの見舞いか?」
「ええあんな事が起きましたから……」
それは試合終了時まで遡る。
*******
「やりすぎって言葉わかってんのか、あ゛あ゛? 防衛機構の起動したのと空中だったから良かったものを!! 地上だったらどうするつもりだったんだ!? 下手したら死人が出たかもしれないんだぞ!!」
「「すみません……」」
普段怒らない人が怒ると怖い。
試合終了後、ユーリとガイアスは青筋浮かべたギルフォードの圧に正座させられて、長いお説教が始まった。
「……地上だったらブレスしないし」
「あん、なんか言ったか?」
「いえ、何も!!」
さすがの竜王もブチ切れた息子の前では形無しである。
「全く、一回目で負けを認めてればここまで怒られずに済んだのにな」
「いや、アレはどう見ても引き分けじゃろ」
「ブレスを喰われたのに? まぁ、最終的に勝ったから良いけど」
「はぁ、負けておらぬし!!」
「二度もブレス破られといて何を言ってるよ」
「結局、耐えたからセーフーー」
「喧しい!!」
ビクッ!!とギルの怒声に2人して押し黙った。
「はぁ、アンタらは全く……。結果は、時間超過による引き分け。それ以上でもそれ以下でもない。分かったなら、即行動開始。父上は各所に謝罪行脚。ユーリは片付けを手伝え」
「「はい……」」
ひゅーーん。
「「「うん?」」」
何かしらの音がして、皆で上を見上げると。
「ぶっ!?」
ユーリの顔面に銀色の物体が激突。それはガイアスが打ち上げた魔法銃であった。
正座していたユーリは避けられず、あまりの衝撃に気を失った。
*******
「あんな事あるんですね」
「父上は『これはどう見ても俺の勝利でしょ!!』と勝ち誇っていたな」
「あはは……」
「それよりマリーだけか?」
「他の皆さんは次の試合がありますからね。」
最後に行われる予定であった"ヘルプスト"クラスの試合。闘技場がこんな状態な為、中止されるかに思われたが。
「あぁ、そうだったな。騎士団にある狂乱の小世界でするんだったな。ユーリが納品してたなんて知らなかったぞ?」
「レギアス様の依頼らしいですよ」
「まぁ、お陰で中止せずに済んで助かった」
クラウスの提案で騎士団の訓練所を解放する事になった。
訓練場ならば場所は広いし、多少なりと人を受け入れられる。その上、簡素ながらも観客席があるらしい。
映像は、専用の魔水晶を箱庭内に持ち込めば、スクリーンに映し出す事も出来るから問題ない。
そんな訳で試合に出るので皆は会場を移動していった。
「そうそう、今更ですが……ユーリさんがやり過ぎちゃったみたいで、夫に代わり謝罪します」
「いや、ユーリのせいじゃない。そうそう気に病むな。全ては父上の悪ふざけが原因だ。ユーリには正面から受けて立つしか逃げ道がなかったしな」
「そう言って貰えると助かります。それでユーリさんは?」
「無事だよ。今は、医務室に運ばれ休んでいる筈さ」
それを聞いて、ホッと胸を撫で下ろすマリーであった。
「それじゃあ、今から行ってみます」
「あぁ、ついでに起きたなら修復を手伝えと言っといてくれ。費用は父上の財布からだからね」
「分かりました。それでは。……あら?」
医務室に向おうとした時、マリーはある事に気が付いた。
「お兄様。そういえば、先程からアンナの姿を見ていませんが、彼女は……?」
試合中、興奮で人に見せられない状態になっても司会席からテコでも動かなかった彼女の姿が何処にもないのだ。
「うん、アンナか? 彼女なら興奮のあまり色々あって部下たちに医務室へ……」
と言いかけた途中で、ギルは冷や汗を流し始めた。
「お兄様?」
「ミスったかも……?」
「えっ?」
「今、医務室にはユーリしかいないんだわ……」
ギル曰く、元々怪我人はユーリだけで、その怪我も大した事ない為、医師たちは試合の行われる騎士団本部へと行ったらしい。
「……アンナが向かったのは、何時の話ですか?」
「試合の途中からだから……10分くらい前?」
「「………」」
とてつもなく嫌な予感がする。
アンナがユーリと逢い引きするくらいなら良い方だ。
最も警戒すべきは……。
「ギル。あっ、マリー様もいますね。今良いかな? 被害の中間報告なんーー」
「スマン、急用が出来た!一旦、全部任せる!!」
「すみません。兄をお借りします!!」
「えっ、ちょっ!?」
困惑するビリーさんに仕事を任せ、私達は急ぎ医務室へと向かうのだった。
1年後に転職すると決めてら心が軽くなって、書く気が湧いてきました〜。また、ぼちぼち書くのでよろしくお願いします。