戦いの裏で
数分前。
竜王国最強の存在である竜王と我が国が誇る最高位冒険者の一戦。アンナはそんな戦いを恋する乙女の様に熱く魅入った。
「あぁ、勇猛で雄々しくて」
それは苛烈の一言に尽きる。
お互いに斬り結んだかと思えば、その剣戟が生み出す衝撃波が大地を刻み。魔法戦に切り替えたと思えば、宮廷魔術師ドン引き間違いなしの魔法同時使用でクレーターを量産する。
「こんなにも成長したのね。でも、これでまだ成長途中だなんて……」
初めて会った時から将来強くなりそうで惹かれていたが、まだ、経験的に未熟だった彼も今では竜王すら警戒するレベルへと成長を遂げた。
しかも、本人は気づいているのか、戦うたびに技が洗練され成長を続けている事に。
「なんて素晴らしいの。んっ……」
興奮のあまり、滴りが脚を伝う。
あの剣が、魔法が、殺気が自身に向けられるとどうなってしまうのか、想像してしまうと……。
「貴方は私の求める人なの?」
手が自然とスカートの中に行き、濡れた蕾にそっと触れた。
「ちょっ、アンナ様!? こんな所で!?」
真っ先に気付いた部下たちに捕まり、私は強制的に会場から退場させられた。
*****
残り時間も少なくなり、一時戦いを止めた2人は決着をつけるべく互いに距離をとった。
「おい、巫山戯ているのか!?」
ギルは、竜王たる父の奇行に目を疑った。
「おい、それは聞いていないぞ!今すぐ試合を中止するんだ!!」
障壁を叩き怒鳴つけるも新しく貼られた結界の影響か、こちらの声が全く届くことはない。
「(父上の結界か!!)」
父親が貼った結界に防音の術式が組み込まれている事に気付き、全てが彼の思惑である事を示していた。
しかも、そこへ追い打ちをかけるように観客席に騒ぎが起きた。
「「「どっ、ドラゴンブレス!?」」」
状況を悟った者たちがパニックを起こし、それが会場中に伝播していった。
「ぎっ、ギルドマスター!」
「ちっ、分かっている! 今から転送魔法陣を起動し、観客たちを避難させる。職員は四ブロックに分かれ、誘導開始せよ。魔法の使用も許可する。パニックを起こしてる者は眠らせるなり拘束するなりして、優先的に魔法陣へと叩き込め!」
「「「はい!!」」」
職員たちの迅速な行動もあって騒ぎは次第に落ち着きを取り戻し、会場から観客たちは姿を消していった。
「ギルドマスター。関係者以外の避難は完了いたしました」
「ありがとう。それでは、君たちも直ぐに避難してくれ。私は少しでも被害を抑えるべく、結界の強化にあたる」
「しかし、ギルドマスターだけでは……っ!?」
「まぁ、付け焼き刃程度だろうな」
同じ竜種だからこそ分かる。竜王のブレスが規格外であることを。
「……分かりました。なら、せめてユリシーズさんには悪いですが障壁だけは置いて行きます」
「あーっ、……うん。そうしてくれ」
そして、職員たちの障壁がユーリの周りに追加された。
「………」
これでどんな結末にしろ、被害を少しは抑えられるだろう。
でも、それは同時にユーリが逃げられなくなったという事でもある。
俺はすまないと思いつつ、会場の結界に力を込めた。
「キツい……よし、なんとか持ち堪えーーッ!?」
2人の余波は結界にかなりの負荷を掛けたが、なんと持ち堪える事に成功した。
しかし、そう思ったのも束の間、二度目のブレスに対抗したユーリが更に強力な一撃を放ち反撃する。
会場の結界は砕け散り、その影響で吹き飛ばされた俺は衝撃で意識が暗転した。
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ドラゴンブレスを受け、観客たちと共に下へと避難したバルトたちはスクリーンの戦いに固唾を飲む。
そして、ユーリの攻撃と共に起こった爆音に上を見上げると空中闘技場から一条の光が竜王国の空を駆け抜けた。
「うわぁ……無茶苦茶やってるよ」
「まぁ、ユーリの兄貴っスからね……」
「そもそも竜王とやり合えてる時点で正気の沙汰じゃないですって」
「そうだぜ。あの人とつるんでるんだからこれくらいで驚いてちゃねぇ……」
「それもそっか」
規格外なのは今に始まったことじゃないと仲間同士でうなずき合った。
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激しい衝撃が収まった後、闘技場に出来た瓦礫の山が動き、ギルが姿を現した。
「うぅ……」
一瞬、気を失っていた。
2人はまだ戦いを続けている様だな……。
ふらふらと立ち上がり辺りを見渡すと、観客席の一部は消失し、地面や壁はボロボロになっていた。
さらに時間を測る砂時計は半壊し、据えられた大鐘は落ちているので終了付けることはない。
この惨状に怒りが湧いてきた俺は落ちた大鐘に近付き掴むと。
「いい加減にしろ、このバカ野郎共!!」
終了を告げるべく、2人へ向かって思いっきり投げつけた。