竜王の実力
「何で斬れーー」
「呆けてて良いのか?」
「がはっ!?」
その瞬間、ガイアス爺さんの拳が脇腹に突き刺さり、衝撃で身体が吹き飛ばされた。
剣を破壊出来なかった事に動揺した俺は、防御する出来ずに直撃してしまった。
飛ばされながらも何とか体勢を建て直し、闘技場の障壁に足を付き治療を始める。
「グランドヒール!」
試合中はポーションを使えないので回復魔法を使用する。
ポーション頼りはいけないと思い習得していたが、ここぞとばかりに訳に立った。
「痛ぃ……ただの拳でコレかよ」
使った物は上から数えて2つ目。上級ポーションに匹敵する効果のはずだが、痛みが完全に引くことはなかった。
それだけに竜種という存在が、どれだけ化け物なのかを改めて実感させられた。
「しかも、余裕そうなのが余計にムカつく……」
ダメージの治療で隙だらけなのにも関わらず、ガイアス爺さんに全く動く気配がない。
治療を終えるとフラガラッハの刀身を伸ばし、遠距離から攻撃に切り替えた。鞭の様にしなる刀身、付属効果の風は斬撃となって追い打ちをかける。
しかし、ガイアス爺さんはそんな攻撃すらもヒラリヒラリと余裕で躱し、風の斬撃は炎の斬撃で相殺してみせた。
しかも、その上でーー。
「火竜爆炎波」
反撃とばかりに特級魔法を放ってくる始末である。
「空域断裂領ーー」
嫌な予感がする。
以前と同様に防御魔法を展開すると身体が危機を感じ取り、射線上から半身を逸らして逃がす。
するとそこへ魔法が通過していった。
どうやら特級魔法が防御魔法を貫通したらしい。避けなければ確実に命中していた。
おいおい、マジか!? 前回は防げただろ!!?
「フォッフォッフォ。一度防げたからと言って、二度目に通用するとでも? ちゃんと対策はしておるわい!!」
アレダメ、コレもダメ。
今度は、手数へと切り替えて隙を伺う事にした。
空いた片手で同時に使える魔法の数は全部で五つ。
剣と互いの魔法が干渉しない様に気を使い、手当たり次第に発動させていった。
「ふむ。儂はお主みたいに剣で魔法を斬り伏せられる訳もなし。然らば、魔法で対抗するとしよう」
ガイアス爺さんは魔法に専念すべく、剣を仕舞い7つの魔法を行使する。それも全てが上級魔法。
「嫌味か!」
魔法の数はあからさまに向こうが多い。
2つはフラガラッハに任せる事にして、何とか拮抗に持ち込む事が出来た。
「しかし、お互いに攻め手に欠くな。このまま続けても盛り上がらんし……そろそろこっちに来い。とりゃっ!」
「おわっ!?」
ガイアス爺さんは、フラガラッハの伸びた刀身を掴まむと俺を強引に引き寄せた。
「やはり……男なら拳で語ろうか!」
「誰が竜種とまともに殴り合うかよ、馬鹿!!」
振り下ろされる拳。
それを全身に覆う空間制御で鈍化させつつ、軌道をそらしてギリギリの所で回避。
そこから自身は加速して、懐へと飛び込んだ。
「竜撃弾"コキュートス"!」
アイテムボックスから出した魔法銃を至近距離で突きつけ、腹に向かってド派手にブッ放す。
「ガハッ!?」
重衝撃と凍結により、今度はガイアス爺さんの方が吹き飛ばされてーー。
「せいや!!」
いく様に見えたが、その際に魔法銃が思いっきり蹴り上げられた。
魔法銃はもの凄いスピードで空へと登り、見えなくなってしまった。
「おっ、俺の銃がぁあぁぁーーっ!!?」
「ごふっ。エクストラヒール」
俺が絶望してる間に、吹き飛ばされたガイアス爺さんは最上級の回復魔法をもって自身の傷を癒やしてしまった。
「……今のはかなり効いたぞ。あと5発ほど至近距離から受けてたら流石の儂でも死んでたわ」
至近距離5発って……。
一発当てるのにも苦労したのに、ほぼ無理ゲーの領域なのでは?
「って、回復させちゃった!?」
惜しい事をした。
今が1番の攻め時だったのでは?
「はぁ、これで振り出しか」
「馬鹿言え。回復出来ても魔力消費がエグ過ぎじゃ。特級ならいざ知らず、上級回復魔法では決して癒えぬレベルじゃぞ……。しかも、これでまだ傷が残っとるんじゃが?」
そう言って服を捲ると軽く火傷の様なアザが残っていた。
「魔力消費に加え、時間も……あまり無いな」
砂時計に目を向けると既に半分を切っていた。
「良くて、5分間か? よし、次の一撃で決着を付けるとしよう。お互いのとっておきを出して、完全に破られたら負けってのはどうじゃ?」
「あっ、それはシンプルで良いかも」
ガイアス爺さんの実力は十分に分かったので、これ以上やり合うのはこの身が保たない。早々に決着が付くのは良い事だ。
「一応聞くけど、引き分け?」
「納得せんじゃろ? だから、2回目を行う」
「了解」
「それでは、お互いに距離を取るとしよう」
お互いに距離を取るために踵を返す。
そこでフッと思い出した事があったので、離れる前に呼び止めた。
「なぁ、離れる前に聞きたい事があるんだけど?」
「何じゃ?」
「コレで決着付けるなら気持ちよく勝負したい。だから、フラガラッハの斬撃をどうやって防いだのか、そのカラクリを教えてよ」
「あぁ、アレか。ええぞ。どの道、終わったら教えるつもりじゃったしのう」
そして、答え合わせを行う。その理由はとてもシンプルなものだった。
「細かくまでは分からんが……アイテムボックスに入れるなどして、一度認識から外れるとリセットされるみたいじゃぞ」
「へっ?」
「その顔……分かっておらぬな? 要はこういう事じゃ」
ガイアス爺さんは目の前で炎獄剣を"パッ!パッ!"と点灯する様に何度か出しては消して繰り返した。
「ハァアァァァ!?」
えっ、アイテムボックスでよね!? パネルは!?
「アイテムボックス。ショートカット。出し入れ頻度の多い物は意識に紐づくからパネルを介さずとも瞬時に引き出せるようになる」
「マジか……」
今の今まで知らなかった。そんな技法があったなんて。
「しかも最初にゆっくり出して見せたからな尚更そう思うじゃろ。しかし、タイミングは分からぬ故、斬撃の間はずっと出し入れしとたんじゃ」
だから、高速とはいえ、妙に剣がブレていると感じた訳だ。
「お主の剣は優秀じゃが、完璧はない。弱点があるとすればその意識差じゃろうな。不意討ち然り、持ち主に意識される前ならば打ち合っても武具が破壊される事はない。生きてる内に知れて良かったのう」
「………」
運が悪ければ、冒険の途中に死んでいたかもしれないと知り、ゾッとした。
「それ、分かったら準備するのじゃ。時間が押しておる」
「あっ、そうだった」
呆けている場合でない。さっさと準備をしなければ。
相手はガイアス爺さん。生半可な攻撃では確実に負けるだろう。
しかし、竜王のとっておきの攻撃とは一体……?
「おい、冗談じゃない!? 逃げるぞ!!」
「「「ヒィイイィィーーッ!!」」」
そんな事を考えていると何故か観客たちが騒ぎ出し、慌てて会場から逃げ出し始めた。
また、ガイアス爺さんが何かやらかしたか?
見たくないが、見ないと戦う事すら出来ないので観念して後ろを振り返える。
「おまっ、馬鹿じゃないの!!?」
やはり、全ての元凶はガイアス爺さんであった。




