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若き竜王

「誰……?」


 皆の気持ちを代弁するかの様な声が静まりかえった会場に響く。皆の視線は竜の仮面を持つ青年に注がれるのであった。


「きゃあーーっ! 何百年振りかしら!! ガイアスの全盛期の姿、超カッコイイィーーっ!!」


 それをブチ破ったのは黄色い声援を上げるルイさんであった。


「アナタ、素敵よぉーーっ! 今すぐ抱いてぇーーっ!!」


  目をハートにしたルイさんは、普段の上品な淑女感を何処へやら? 完全に女の顔をしていた。


 ついでに、そんな母親の近くに座るマリーや娘さんたちは若干引いてるのであった。


「「「嘘だろ……?」」」


 彼女の言葉で会場中に青年の正体が伝わり、各地でどよめきが起き始めた。


「えっ、何? 本当にガイアス爺さんなの?」


「んっ? あぁ、そうじゃよ。先程も言ったであろう? 久方ぶりの戦いじゃから、若返ってみた」


 自身の肉体の調子を確認する様に動かしていた青年は、本人だとアッサリ答えた。


「わざわざ戦うために若返る必要はある?」


「スペック自体は変わらんが気持ちの問題か、魔力の乗りは良いの」


 ガイアス爺さんがただ手を振ると自身から漏れる魔力が無数の斬撃となって飛び出し、地面にしっかりと傷を付けた。


 アレ? 俺、今からこんなバケモノと戦うの?


 楽しみにしていた反面、早まったかなという気がしてきた。


「あーっ、あーっ、2人共。準備は良いか?」


「ギルさん?」


 解説席に目を向けるとアンナさんではなく、ギルさんがマイクを手にしていた。


「アンナが興奮のあまりまともに喋れそうにないので変わる事になった」


 アンナさんの熱い視線は俺たちに注がれている。

 しかし、身体は限界らしく、ヨダレを垂らしビクビクと痙攣しながら机に突っ伏していた。

 そんな彼女の傍では、部下らしい女性たちが簡易テントで覆ったり、着替えを持って来たりと大忙しであった。


「ちと待て、ギルよ。今の強度じゃ心許無い。2人で障壁を強化するから終わったら宣言せよ。ユーリ、儂は防衛機構を強化するなら、お主は観客席を護る結界を頼む」


「了解。任せて」


 ガイアスは地面に手を触れて防御術式の強化を始めた。

 俺も観客席の障壁に手を触れ、空間魔法も加えた多層結界へと強化していった。


「まぁ、こんなもんじゃろうよ」


「そうだね。少し過敏する気もするけど……」


 闘技場の元々あった結界は無事に内側から強化された。

 しかも、外部では保険とばかりにギルさんたちも追加で張ってくれた。

 それにより闘技場の障壁は過去最高とも言える程の強度を手に入れた。


「安全なのは良い事じゃ。これなら()()にも……余裕で耐えるわな」


 その瞬間、悪寒が走った。

 ガイアス爺さんを見ると悪い笑みを浮かべいる。絶対、後で怒られる様な事をやらかす気満々なが気がした。


「準備が整った様なので宣言する。制限時間は砂時計の砂が落ちて鐘が鳴るまでだ! それでは試合開始!!」


 会場にあった大きな砂時計が返され試合は、ガイアスとユーリの両名の手に委ねられた。


「よし、それでは始めよう。剣を抜け。それもフラガラッハを」


「えっ?」


 ガイアス爺さんの発言に正気かと疑ってしまった。


 認識さえ出来ればあらゆる物を断ち切れる聖なる神剣。その前ではどんな障壁や防具も無に返し、相手を斬り伏せられる。

 現に俺の中では勢いあまって、ガイアス爺さんを袈裟懸けに切り裂くイメージが浮かんでいた。


「安心しろ。儂も剣を抜く。それにお前さんが思ってる程の事にはならんよ」


「……注意したからな」


 俺はフラガラッハを本来の型で出して構えた。


「いつ見ても良い剣だ。それなら折られる事はあっても折れる事はないだろう」


 ガイアス爺さんは空間に手を入れるとゆっくりと獲物を引き出す。

 次第に現れる紅い刀身。周囲の気温が急激に上がり、空気が乾燥し始めた。


「炎獄剣『ガイアス』。我が鱗。我がブレスを持って鍛えた剣。お主の持つ炎魔剣『イフリート』から見ると上位互換になるかのう?」


「つまり、イフリートでできる事は……」


「コレでも出来る」


 ガイアス爺さんが剣を振ると炎が津波の様に押し寄せた。


 フラガラッハを一閃すると自分に向かってきた炎を両断され、暴風が斬撃となって駆け抜けていった。


「アレ?」


 しかし、そこにガイアス爺さんの姿は既になかった。


「こっちじゃよ」


「ーーっ!?」


 近くで膨大な魔力が一点に収束するのを感じた。


 思考加速、空間制御(エリアコントロール)、身体強化、魔力収束!!


 既に剣を振りかぶっていたガイアス爺さんに、自身の強化とフラガラッハに魔力を纏わせて何とか合わせた。


「「ハァアァァァ!!」」


 交差する剣が生み出す衝撃が闘技場を駆け抜けた。

 地面は裂けて、障壁を揺らし、空がーー裂けた。


「やはり、不意討ち等による攻撃だと剣は斬られぬか。どうやら斬り裂く為には、その為だけの意識を割く必要がある様だのう。それにーー」


「そんなに斬られたいなら望み通り斬ってーーはぁっ!?」


 鍔迫り合いから反発して離れると"斬る"ことを意識してフラガラッハを振るった。

 あまりの速さに()()て見えるお互いの剣が再度交差する。

 しかし、ガイアス爺さんの剣が両断される事は無かった。


「コレも大丈夫か。意外と抜け道がある様だのう」


 ニヤニヤと意地悪そうに笑うガイアス爺さんなのであった。

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