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無双するお婆ちゃん

 祭典のメインである闘技大会『魔導演武』が始まって早二日。

 6会場で行われていた初級のフリューリングは予選を終えて、本戦出場者12名が国内闘技場に出揃った。


「ギルさん。ギルさん。アレ……大丈夫?」


 しかし、その顔ぶれの中に見てはいけない人がいた。


「………」


 ギルさんから返ってきたのは沈黙。その顔からは表情が消えていた。

 どうやら現実を受けいれられなかったらしい。


「あの色白で美しい女性……強いですね」


 伊達に騎士団長をやっていない。

 クラウスは事情を知らずとも、正確に彼女の実力を読み取っていた。


「初級のフリューリングとはいえ、あんなに若くて美しい方が残られるなんて……同じ女性として鼻が高いです!しかし、ここからは更に熾烈を極めるので心配です」


 アンナさんはそんな風に彼女を心配しているが、心配されるべきは相手の方である。


 雪の様に白く、おっとりとした大学のお姉さん風の見た目をしているが……。


「「「ルイねぇちゃん、頑張って!」」」


 観戦に来ていたうちの子たちが、お義母(ルイーズ)さんだと告げていた。


「えぇ、本気を出すわ!」


 子供たちに応援されて、ルイさんはやる気を漲らせてるご様子。

 被害が出ないように結界で観客を護ってる竜種の皆さんは、物凄く青褪めていた。


 可哀想に……。竜眼で色々知ってしまったんだね。

 彼らには同情を禁じえない。


「おい、ユリシーズ!」


 そんな風にこれから起こる事に戦々恐々としていると、突然獣人の選手から凄く睨まれながら呼ばれた。


「う〜んと……誰?」


 その顔には全くと言っていい程に見覚えがない。

 それなのにどうしてこんなに殺気混じりで睨んでくるのか理解出来なかった。


「俺の名はムスカ! 誇り高き人狼族を束ねる長の一人にして戦士だ。俺は汝に決闘を申し込む」


「えっ? 嫌です」


 きっぱりと断った。


 人狼族は実力主義。

 力の強さで物事を判断するので、一種のトラブルメーカー。それが部族の長ともなると勝敗によって色々問題なりそうなのは目に見えていた。


「安心せよ。直ぐにとは言わぬ。この戦いで勝ち残り、汝と戦うに相応しい力を見せ付けようぞ!そして、一騎打ちを行い。勝った暁にはギンカ嬢を寄越せ!」


「あぁ、ギンカ目当ての人か……」


「当然よ。彼女は我ら獣人の母の様なものだ!」


 ギンカはその容姿から人気だが、特に犬系の獣人からは好まれる。


「まぁ、勝ち残ったら良いよ。勝ち残れたら……の話だけどね」


 俺は可哀想な奴を見る目で、彼を見詰めた。


 ルイさん居るから絶対に勝てないと思う。

 まぁ、勝てたら勝てたで弱ってるのは目に見えるし、治療と称して暗殺するのが手っ取り早いかな♪


 正直面倒くさいのでまともに相手する気はない。


「その言葉、忘れるなよ!」


 そう吐き捨てて、彼は本戦の籤引きを行った。


「おぉ、1番! 幸先が良い!! トーナメント的に戦う回数が多いが、その分俺の力を示せると思う事にしよう」


 早速、第一試合からムスカの登場の様だ。

 その後も選手たちが籤を引いて対戦表が出揃った。


「「………」」


 一戦目 ルイねぇ vs ムスカ


 はい、終了。

 彼は先程、幸先が良いと言っていたが、()()()()の間違いでないだろうか?


「それでは、ルイねぇさんとムスカさん。試合を始めて下さい」


 あっ、ルイさんの名前についてはスルーなのね。

 ボーリングの時の名前みたいに好きに名乗って良いのかもしれない。


「女だからといって手加減せぬぞ! 早々に降参する事だ!!」


「あら、私に勝てる気でいるの? でも、ごめんなさい。勝たせないわ。だって、あの子たちのお願いでもあるから」


 観客席を見るとムスカの「ギンカを寄越せ!」発言に子供たちが動揺していた。


「ギンカママが取られるっ!?」


「パパがいるから大丈夫だよ!」


「でも、アレだけ堂々と言うんだよ? 悪い事考えてるかも?」


「大変だ!パパも危ない!!」


「悪い芽は早く詰まなきゃ!!」


 そして、一致団結した子供たちはルイさんにお願いしたのだった。


「「「やっちゃえ、ルイねぇちゃん!!」」」


 カーン!


 声援と同時に開始を告げる鐘がなった。


「ウオォーーッ!」


 女性だから組み倒せば終わると思ったのか、開始と同時に突進するムスカ。


「すぅ……ハッ!!」


 それをルイさんはスルリと躱し、一呼吸するとすれ違うムスカの顔へと拳を振り抜いた。


「うがっ!?」


 勢い良く来た方向へと飛ばされていくムスカ。

 最後は壁へのメリ込み動かなくなって試合終了。


「「「すっ、凄いっ!!」」」


 子供たちはそんなルイさんの戦いに目をキラキラさせていた。

 それに気分を良くしたルイさんは暴走を始める。


 第二試合。

 魔法使いの男性。自身の従えるゴーレムを闘わせ、自分は魔法で支援する戦闘スタイル。ゴーレムの強度は対戦者たちを苦しませ続けてきた。


「ゴーレムなら遠慮なく魔法が使えますね」


「えっ?」


 ルイさんがゴーレムに触れると、発光と共に灰になって崩れさったのだった。

 要を失った魔法使いは呆然と座り込み試合はそのまま終了した。


 第三試合。

 対戦者、三面六手の種族"阿修羅"。

 四手で剣を操り、二手で魔法を使って対戦者たちをまったく寄せ付けて来なかった。

 優勝者候補とも言われていた彼だが。


「ぎゃあァーーっ!?」


 ルイさんにそんなの関係なし。

 関節を狙った正確な殴打は、邪魔する魔法を弾いて、剣を砕き、関節をあらぬ方向に向いていた。


 第四試合。

 決勝の相手は戦う前から怯えていた。

 どうやら彼は竜種らしく、竜眼で色々見てしまったのだろう。


「きっ、棄……」


「ここまで来て、まさか逃げたりしませんよね?」


「ひっ!?」


 彼は問答無用で強制的に戦わされる事になった。


「来るな!来るな!!」


 恐怖のあまり、彼女を近づけさせまいと一心不乱に魔法を放つ。


「かっこいい技が見たい!」


「竜種は丈夫だし、アレをやろうかしら?」


 孫の要望へ直ぐに応えるお婆ちゃん。あの技は何だったか?

 前方から相手に跳び付いて頭部を太腿で挟むと、彼女はバック宙をする要領で回転し地面に叩き付けた。

 そして、生まれる頭部の埋まった人型オブジェ。


「「「流石にそれは……」」」


「ええっ!? ダメだった!?」


「おじさん……死んでない?」


 子供たちは人が死んだと思って引いてしまった様だ。


「ピッ、ピクピクと痙攣してるからまだ……大丈夫よ!!」


 ルイさんが急ぎ掛けた回復魔法とやって来た救護班により彼は一命を取り留めた。

 後に、彼は女性の太腿がトラウマになったのだとか。

 ご愁傷様です。


 こうして、フリューリングの試合はルイさんの優勝で幕を閉じたのであった。

土曜、日曜は投稿日。

とりあえず、そのつもりで行きたいです。

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[一言] 最後、ストファイのキャミーやんw
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