バルトの記録
冒険者ギルド2階。
ギルドマスター室にて、「ーーという感じで討伐完了しました」と結果報告をする兄貴。
「悪い。数に関しては、俺のミスだ。報酬は、増しとくから勘弁してくれ」
「あざ〜す」
「殆どが消し炭とはいえ、まともな物もあるのだろ?」
「ええ、4体ほど。追加でポイズンスネーク亜種もいます」
「今ならラックの手が空いてると思うから出して来るといい。その間に、バルトから話を聞くから」
「そうですね。ちょっと席を外します。アイリスも来る?」
「そうだね。暇だし行くよ」
兄貴は、姐御も連れ立って倉庫へ向かった。
2人の足音が遠ざかるとギルドマスターは話を切り出した。
「バルト。単刀直入に聞く。2人の実力はどうだった?」
「……次元が違い過ぎます。Aランクとは何度か共闘もしましたが比べようがない程強いです」
「それは、アイリスがか?」
「2人共です。アイリスの姐御は、当然。ユーリの兄貴は、未知数です」
姐御は、エンペラースライムってだけでAランク以上は確定だ。
あの魔法も後で聞いた話、手加減したものの様だし。
「未知数なのに、強いと?」
「これは、経験というか、カンですが、兄貴はポイズンスネークを狩るのすら手を抜いていた感が有ります。……いや、違うな。手を抜いたというより買取りに影響が出ないように調整したって感じか?」
「あり得るな。ポイズンスネークを見ても、主要部位に傷が付かないように一撃で仕留めている。皮は、傷がない程買取り金額上がるしな」
買取り部位が多い頭部と皮が人気の胴体。
毒牙や硬質な鱗が原因で、討伐の際にどうしても傷だらけになる。
「本人に聞いた話だと空間魔法による攻撃も持ってるようですよ」
「空間魔法の使い手が攻撃魔法持ってない訳ないよな……」
少し考え込むマスター。
「Sランクでやれると思うか?」
「どうでしょう?俺には、判断の仕様がないので……」
俺は、Aランクになれるかなれないかくらいだしな。
「なら、Sランクのクエストを振ってみて判断するしかないな」
Sランクのクエストとなると今回以上に危険度が上がる。
「2人ならやれそうですけどね」
「確かにな」
********************
「……帰って来るの遅くないか?」
色々話している内に、20分くらい過ぎた。
「料理でもしてたりして」
「料理?」
「いや、何ね。兄貴が、イビルフロッグの卵をゆで卵にするんだって持ち帰ったので」
「えっ、アレって食えるのか?」
マスターも知らない様だ。
「姐御曰く、食えるらしいですよ」
「それは、スライムだからでは?」
「湯煎すると白いゼリー状になるって兄貴が」
「マジか」
「「ただいま〜」」
噂をすればなんとやら、2人が帰ってきた。
「遅かったな」
「ちょっと料理してて」
マジで料理してたよ、この人。
「ほれ、これバルトの分。他の奴らには今渡してきたよ」
目の前に置かれたのは、白いゼリーが乗せられた皿。
それからほんのりと甘い匂いが漂ってきた。
「これもかけようぜ」
アイテムボックスから容器が取り出された後、黒い液体をかけられた。
「ギルさんもいる?」
「……貰おうか」
マスターも挑戦する気になったらしい。
「はい、どうぞ。そして、これがアイリスの分」
「わ〜い!」
「黒蜜いる?」
さっきの容器をマスターと姉御に見せている。
黒い液体の正体は、黒蜜らしい。
「少しかけて」
「俺もそれで頼む」
俺と同じくらいかけている。
「じゃあ、いただきます」
手のひらを合わせて祈る兄貴。
兄貴流のお祈りの様だ。
そして、自分の皿に手をかけた。
「「「いただきます」」」
俺らもそれにならってスプーンを口に運ぶ。
「はは、ヤベぇな!これ!」
「!?」
「ほわぁ〜♪」
「美味っ!?」
四者四様の反応を見せた。
俺は、衝撃のあまり声が出なかった。
美味い!
なんだ、この美味さは!!
ほのかな甘さがあり、ぷるりと砕ける触感。
野郎の俺ですら美味いと感じる甘味だ!
でも、それだけでは無い。
黒蜜と合わさることで更に美味さの段階が跳ね上がった。
「兄貴!これ卵だけなんですか?」
「そうだぞ。湯煎した事で匂いはかなり落ちたがな」
「でも、糖度は前より上がってるよ!」
「匂いが弱まっているから魔物もあまり寄り付かないだろう。これは、儲けれるのでは?」
イビルフロッグの卵は、壊すだけだ。
それが食材になるとしたら価値が出る。
イビルフロッグは、危険度B-。
Cランク冒険者でも狩れなくない。
彼等の仕事も増える。
「これは、当たりだな。数確保して正解だった」
そういえば、大量に保存してたな。
「兄貴。少し分けて貰っても……」
「え〜っ、どうしようかな?」
確かに、この味なら嫌がるのも分からなくはない。
「他の奴等にも食わせてやりたいと思いましてね? もし可能ならなんですが……」
嘘ではない。
俺ばかりがいい思いするのもなと思ったのだ。
「良いよ。そもそも一緒に回収した奴だし。量も有るからな」
元々分けてくれる気でいたのか、呆気らかんと容認された。
「あっ、でも容器がないな。すぐに造ってやる待ってくれ」
兄貴は、アイテムボックスから黒い石の塊を取り出すと魔法によるものなのか、一瞬で容器を創りあげた。
「ほら、出来た。手持ちの材料に石が余ってたからそれで作ったわ。なるべく薄くはしたけど重いのは我慢してくれ」
そう言って渡されたのは、黒くて美しい器だった。
「待て待て待て!」
しかし、それを見たマスターの表情が一瞬で凍り付く。
「お前、なんてもので容器造ってるんだよ!」
「はい?」
意味が分からないって顔をする兄貴。俺も何が起こっているのか理解してはいない。
「それ、黒星石じゃねぇか!!」
「ぶっ!?」
さすがの俺も吹いてしまった。
顔をそらしていて正解だったな。
黒星石と言うのは、魔剣や魔導具の材料に使われる希少金属だ。
ミスリルと同等の価値があり、魔力が馴染みやすく人気の素材だ。
だいたい、金額にして大金貨3〜4枚程の価値がある。
「えっ?マズかった?」
「知らなかったのか?」
「結構持ってるから綺麗な黒石程度にしか思ってなかったんだけど。加工すると星空みたいになるし」
それが理由で、貴族様にも人気だしな。
「それで机とか造っちゃってたしね」
マジですか。
貴族様ですら皿とか花瓶なのに。
「………」
ほら、マスターも絶句してますぜ。
「まぁ、気にしてもしょうがないしな。自由に使えよ。ゼリーは、もう中へ入れといたからな」
「どっ、どうもです」
食べたら容器をどうしよう?
もしもの時の為に売って金に変えとくか?
黒星石の容器なんて珍し過ぎるので、高値で売れることは間違いない。
おかげ様で、俺は容器の扱いに凄く悩まされる事になってしまった。