そして、祭が始まった
長い長い準備期間。
それがやっと終わり、冒険者の為の祭典が始まった。
会場は首都の大闘技場を含む周辺部で行われ、町の各所には参加者の動向を映す空中スクリーンが設置された。
また、それを見ようと集まった物見客を狙って多くの店が建ち並び、町は大きな賑わいを見せていた。
「皆様、こんにちは!!」
スクリーンにマイクを持ったアンナさんが大きく映し出された。
「戦いある所に"アンナ"有り! 昨年の竜王祭に引き続き、私が進行を務めさせて頂きます!!皆、期待しててね♪」
「「「アンナ〜〜っ!」」」
アンナさんがウィンクすると観客席や選手たちから声援が飛び交った。
「……相変わらず、アンナのファンクラブは凄いな」
「ファンクラブ……?」
確かによく見ると『アンナラブ!!』と書かれたタスキを肩から掛けている人がちらほらいた。
「それでは今回の解説ゲストに移ります!」
映像は横に流れ、司会席から解説スペースへと移り変わった。
「イベント的にも当然ながらこの人! 冒険者を取り纏めるマスターたちのトップであり、次期竜王候補のギルフォード様です!!」
「名を上げるチャンスだ。頑張ってくれ」
「さらに、冒険者ギルドからSランクにして昨年の竜王祭優勝者のユリシーズ様です!!」
ギルさんに引き続き、俺にまでマイクが向けられた。
どうやら一言くらい喋らないといけないらしい。
「……帰りたい」
今の気持ちを素直に言ってみた。
「何故に?」
「それはギルさん。隣にコイツが来たせいで、……イケメンに挟まれたからだよ!!」
俺は隣に座るクラウスを指差した。
「君は相変わらず、私に対して辛辣だね」
「今まで色々迷惑掛けられたからね」
そんな訳で解説席はイケメンに挟まれるフツメンの俺という状況。
それは映像からも分かる通り、かなり浮きまくっているのだ。
「大体、なんでアンタがここにいるし!?」
「特別ゲストとして騎士団を代表しクラウス様に来て頂きました。あと、こう配置すると面白いかなと思って」
俺の疑問に答える様にアンナさんが暴露していった。
「まぁ、騎士団として冒険者と密接な関係にあるし、来てもおかしくないだろ? 諦めたまえ」
「知ってたら出店周りしてたのに……」
事前説明や打ち合わせでも解説は俺とギルさんで行う事になっていた。
クラウスが来るという話は挙がっていなかったはずでは……?
「あ〜っ……伝えるの忘れてた……」
「ギルさん……」
「悪い。許せ」
ギルさん曰く、実は3日前には決まっていたそうだ。
しかし、3日前というと俺はナミエルやレンの騒ぎに手を焼いていた。
なので、落ち着いたら伝えようとして忘れていたらしい。
「席替えでもするか?」
「したらしたで余計に目立ちそうだから諦めるよ。どうせ始まればスクリーンに意識がいくだろうし」
そんな訳で解説席でひと悶着あったが、このまま進行して貰うことになった。
「それでは最初の競技は街に住む住人の皆さんに預かって貰っているアイテムを回収し、ゴールに辿り着く順位を競って貰います。配布されたヒントや周囲への聞き込みで見付けて下さいね」
ヒントの先は各自で異なり、住人が持っているアイテム数も違うそうだ。
情報の収集と解析、移動スピードが鍵となるだろう。
「それではよ〜い、スタート!!」
数分後。
「……そういえば、ギルさん。回収するアイテムってどんなの?」
「そういえば、俺も知らないな。クラウス殿は?」
「いえ、私も知らないです」
ふっと疑問に思ったのでギルさんたちに聞いてみるも知らない様だ。
「アンナさんは目的のブツが何か知ってますか?」
「ええ、それはもう当然知ってます。だって、私が集めたーー」
「ユーリ♪」
「ご主人様」
「アレ? 2人はまだ行かないの?」
会場を見渡すと彼女たち以外に残っていた冒険者たちの姿は見当たらなかった。
「うん。もう終わったからね。ちゃんと回収してきたよ」
「「「「えっ?」」」」
終わったって……まさか、もう回収してきたのか?
いや、ギンカとアイリスが組めば有り得るな。
アイリスが皆の行動を把握して先回り、ギンカはその場所からヒントに付いた匂いで追い詰めたという所かな。
「はい、ご主人様。こちらの封筒が目的のモノです」
「封筒?」
ギンカから渡されたのは少し厚みのある封筒だった。
回収目標のアイテムが封筒だった事に拍子抜けしながら中を開くと数枚のブロマイドが入っていた。
「………」
それを見た俺は硬直した。
「ほう、可愛い娘たちじゃないか」
「えぇ、なかなか可愛い娘ですね」
「そうでしょ? 可愛い子たちだよね!」
ブロマイドに映る子たちが褒められると自分が褒められた様に喜ぶアイリス。
「えっ、嘘っ? 本物!? もう回収されたんですか!?」
そして、それを見たアンナさんは驚きの声を上げていた。
どうやらこれは本当に目的のモノで間違いないらしい。
「燃えろ……」
俺がブロマイドを消し炭にするとアンナさんが悲鳴を上げた。
「なんて酷い事をっ!? 巷で噂の謎の美少女たちを撮ったブロマイドがっ!? 人気でそうそう手に入らないのに!!」
「人気なのっ!?」
そんな情報は知りたく無かった……。
下手したらそのブロマイドがおかずになってるという事だ。
「酷い。あんまりだ……っ! この鬼っ!!」
「鬼です!」
「そうだったね!!」
そもそもアンナさんご自慢の情報部は気付かなかったのだろうか?
ブロマイドに写っていたのは何処からどう見ても女の子……に見える女装した男の子だった。普通の者なら恐らく気付かないだろう。それくらいによく手が込んでいる。
なのに、どうして俺が気付いたのか?
簡単な話だ。ブロマイドに写っていたのが俺を含む妖精の箱庭の男性陣だったからだ。
背景に僅かに映る光景から酔った女性陣に女装された時の物だろう。
というか、そんな物を配ってよく俺たちが燃やさないと思ったものである。
「なっ、ブロマイドが消し炭にっ!?」
「しっ、失格になるぞ!?」
「「「覚悟の上だっ!!」」」
案の定、スクリーンでもブロマイドに気付いたうちの男性陣が他の冒険者たちから奪い燃やしていた。
その結果、回収するだけの競技で大量の失格者が出る異例の事態になったが、俺たちに後悔はない。一番の問題は俺たちの女装写真を撮った者だ。
同人誌に継ぐブロマイド……。
後日、犯人探しを行った俺たちはその犯人にショックを受けるのであった。