イチャイチャはカップルの特権
俺はレンたちの事が落ち着いたので、バルトたちに報告する事にした。
「出会って、共闘して、解呪して……結婚?」
「そうなんだよ」
「まぁ、レンの様子から何かあるとは思ってましたがね……」
俺たちの視線の先にいるレンは老人の様に杖を付いてフラフラしており、その顔は何かをやり遂げた様ないい顔をしていた。
ナミエルの呪いが解けた後、愛を確かめ合って2人はその日の内に結婚報告してきた。
それを聞いた俺が"祝いに何か……"と言い掛けた所、ナミエルからハネムーンに平穏なる小世界を貸してくれないかと頼まれた。
その時の有無を言わせぬ圧力と言ったら、うちの嫁さんたちの比では無かった。
特に予定も無かった俺は数日ほど貸す事にした。すると2人はその日の内から引き籠もり今日になって出て来たのだ。
ここだけの話。
例の鎧には自身の性欲を封じる効果もあったらしい。
その枷が無くなった今、ナミエルの性欲は津波の様に押し寄せた。
1度目は我慢……したのかな?
獲物を油断させて、確実に仕留める場を用意する為に。
2度目からは邪魔する者がいない事で貪欲な獣へ変わったナミエルが牙を向き、レンへと襲いかったのだろう。
その結果が今のレンという訳だ。
外で数日。実際の時間は……もう言わなくても分かるよね?
「それにしても結婚って早くないですか?」
「アレだよ。少しでも早く自分のものにしないと誰かに取られるとでも思ったんじゃない?」
「確かに、アレだけの上玉ですからね」
本来の姿に戻ったナミエルは奥さんのいる俺たちからしても目を奪われそうになる程だった。
そのせいか、彼女の周りには既婚者だと伝わっていても声をかける男性が後を絶たないでいた。
「でも、アレはどうにかならないものですかねぇ……?」
丁度、ナミエルが空いてるテーブルに弁当を広げ終えて、レンを呼んでいる。
そして、始まるのは2人だけのイチャイチャ空間。
「レンさん。あ〜〜ん♪」
「あ〜ん!もぐもぐ……今日も最高!!」
「ありがとうございます!頑張って作ったかいが有ります」
ナミエルの手料理を食べて褒め食べて褒めるレンとそれにとても嬉しそうな笑顔を浮かべるナミエル。
「クソッ!羨ましいっ!!」
「なんで、レンの野郎がっ!?」
「うぅ……俺も彼女が欲しい……」
ナンパ防止対策として始まった見せ付け作戦は順調の様だ。
ナンパは少し減ったらしい。
でも、嫉妬から血の涙を流す独り身連中が出来てしまったがそれは仕方ないよね?
「アレは……仕方ないよ」
俺も最初の頃はよくしてた訳だし……。
というか、レンに薦めたのは俺だったりする。
「ですが、ここは一応冒険者ギルドですよ。風紀ってものがですね……」
「でも、そのかいあってチームの注目は高まっていますよ。ナミエルさんの人気に、レンへの嫉妬。フフフっ……、良い宣伝塔です。もっと稼がせて貰いましょう」
レンたちの注目度からチームへの仕事が増えているらしい。
「それにユーリさんたちに比べたら優しいものです。比べたら悪いですよ」
「おいおい、失敬な。俺がレン以上にたちの悪い見せ付け行為をしているとでも?」
「どの口が言いますか! 私達からしても目に毒なんですから! さっさと連れ帰って下さい!! 気付いて前屈みになってる人もいるじゃないですか!!」
「ぴゃん!?」
コムイが強く言ったので、握る手に力が入り懐から小さな悲鳴が上がった。
「ほら、コムイのせいで加減間違えたじゃん」
「私のせいですか!?」
俺の懐では頬が紅潮した卯月がぐったりしている。
「そうだよ。これでも自重してるんだよ? 声だってあまり漏れない様に指入れてるのに……ねぇ?」
「んっ、んんっ!!」
口の中の指を少し動かすと卯月は"止めて!"と言いたそうな涙目で訴えてきた。
この場所は角席、周囲から俺の懐が見えない様に背を向けて座っている。
その為、膝に座る卯月に気付くのは同じテーブルに着いた者たちか、俺が偶然振り返った時にこちらを見て気付いた者たちくらいだろう。
「そもそも……兄貴は卯月さんをどうしたいんですか?」
「う〜んと……お仕置き?」
「お仕置き? 彼女が何かしたので?」
「旦那さんを放置して研究に没頭してました」
ここ数週間、自身の魔法研究に熱中しているのか?
日中は食事以外は自室に引き篭もり、夜も部屋へ来ることが無かった。
なので、今回の騒動で出て来た所を捕まえて、それ以降はお仕置きと称して色々我慢させているのだ。
「焦らして焦らして……美味しく食べる♪」
「ないわ……」
「少し卯月さんに同情します……」
何故か、正直に話したらドン引きされてしまった。
「バルトも彩花を呼んでイチャつけば良いんだよ?」
「嫁は仕事中です。それに俺は家だけで間に合ってます」
「え〜っ、外でしたくない? こんな風に奥さん抱いてるとそう思わない?」
「ははっ、冗談を! 流石に外ではしないでしょ!」
「あははっ、そうですよ。バルトさん。何を言ってるんですか? そういうのは本の中か、お金に困った娼婦だけですって!」
「「………」」
「………えっ? 冗談ですよね?」
「……世の中には便利な魔法があるんです」
笑い合っていたバルトたちは俺たちの反応に何かを察した様だ。
「全く兄貴ってお人は……」
「ええっ、全く……」
「「後で教えて下さい」」
お前たちもなかなかにいい性格をしてると思うよ。
「お疲れ様です……」
そこへトードがやって来た。
その姿は元気がなく、お通夜ムードを漂わせていた。
「おいおい、元気ないな」
「彼女に逃げられました……」
この前まで彼女の事で浮かれていたトード。
どうやら元気のない理由は彼女と別れた事にあるらしい。
「何だ何だ。もう破局か?」
「でも、同棲まで漕ぎ着けたんですよね? 彼女にガッ付き過ぎて振られたとか?」
「それはドンマイだな!」
「いえ……コレを見て下さい」
そう言ってトードは一枚の依頼書を見せてきた。
「どれどれ……『人探し! 彼女の情報求む!!』」
内容は、金を持ち逃げした女性を捕まえたいので情報を募集中といったものだ。
「張り出されたコレにいち早く気付いて、問い詰めに帰りました。そしたら、家にある金目の物が全部無くなり、彼女は姿を消してましたよ……」
「「「………」」」
あまりの悲惨さに俺たちはかける言葉が見付からない。
「大丈夫ですよ、トードさん。竜王国の騎士団は優秀なので直ぐに捕まえてくれる筈です。それに魔導師はヒーラーより人気があるので自信を持って下さい」
しかし、それを打破するのは癒やしの専門家コムイ。
彼の励ましにより落ち込み伏せていたトードの顔が上がった。
「流石はヒーラー。仲間を癒やすのはお手のものだな」
「当然の事をしたまでです」
「いや、癒されてませんが? というか、今気付いたんだけどさ。俺の彼女はコムイの彼女からの紹介だから……お前もヤバくない?」
「「えっ?」」
「ははっ、そんなまさ……ちょっと家に帰ってきます」
笑っていたコムイだが、何か思い当たる事でもあったのか?
コムイは一旦家に戻ると数十分後に出直して来た。
「我が家ももぬけの殻でした……」
そう言ったコムイはトードと一緒になって落ち込んでしまった。
「ヒーラーは誰が癒やしてくれるでしょうか?」
彼の言葉が虚しく響き渡った。
結局、今回進展したのレンだけだったという訳さ。
その後、結婚詐欺集団とバルトたちが戦いを繰り広げるのだけど……それはまた別のお話である。