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キャストオフ!

 レンとナミエルがキスしようと近付くに連れて匂いを放ち始める鎧。

 2人の事を最も近くで見ていた事で俺も知覚する事が出来た。


「あぁ、なるほど……」


 匂いによる幻覚の発現。

 恐らくこの匂いには、限定的な幻覚を長期間見せる作用が有るのだろう。


 俺自身は耐性が有るので影響を受けないらしい。


 さて、レンはどうだろうか?




 ***********




「………」


 正面のナミエルから匂いがする。

 最初にふわりと匂いが香ったが、それとはまた違った獣の様な匂いだ。

 どうやらナミエルに何かしらの変化があったらしい。


「レンさん……?」


「あっ、ごめん。……うん。大丈夫」


 なかなか来ないキスに怖くなったのだろう。

 怯える様なナミエルの声を聞いて改めて覚悟を決めた。

 俺は顔を横に振ってリセットし、更に彼女へと近付けた。


「にゃご? にゃーご?」


「っ!?」


 ナミエルの声が変わるのは予想内。

 でも、この声は聞き逃せない。何故なら、あの猫ゴーレムの声なのだ。


 どんだけ猫ゴーレムが嫌いなんだよ、俺は?


 コレで獣の匂いにも納得がいった。


「レン、やはり無理そうか? 無理そうなら……」


「いいえ、本当に大丈夫です!」


 頬を叩いて気合いを入れる。

 確かに嫌で逃げたい気持ちはあるが、姿を直接見てる訳じゃない。

 それにこれは事前に聞いていた話だ。目の前にいるのは猫ゴーレムじゃない。ナミエルだ。

 そう彼女も今は一緒に戦ってくれている。


 そう思うと気持ちが軽くなった。俺は荒くなりつつあった呼吸を整えた。


 ここは男らしく、一気にいくとしよう。


「ナミエル!!」


 俺は見えない彼女の唇を狙い澄まして動いた。


「んっ!」


 柔らかいモノに触れた。それと少しだけチクチクする。


「ズレてる……そこ下唇の所な。目標はもう少し上」


「「………」」


 めっちゃ恥ずかしい!

 俺はキスした位置から少しズラし、再度キスをした。


「こっ、これはっ!?」


「どっ、どうした!?」


 ナミエルの驚きの声に、俺は急いでサングラスを外した。


 解呪に成功したのか!?


 そう思いながら外すと彼女の鎧は光輝いていた。




 ***********




 レンは自身のトラウマと対峙して動きを何度か止めつつもナミエルへとキスをした。

 すると彼女の鎧にはひび割れた様な光が奔り輝き始めた。


「こっ、これは成功か!?」


 光は一段と強くなり……。


「「「「………」」」」


 収束しても変わらず、ただの鎧であった。


「えっ? なんか、ミスった? 手順はあってるよね?」


 俺は文献に作った魔導書を片手に皆の所へ相談にいった。


「「………」」


 当人たちは、そのショックからか動けずにいる。


「う〜〜ん……魔法陣はよし。キスもした。お互いの気持ち完璧。他に何かあるのでしょうか?」


 卯月の言う通り、何度も見直してもおかしな点は見付からなかった。


「実はコイツが壊れてたりして? 叩いたら直るとか?」


 ナミエルに近付き、壊れたテレビよろしく鎧を"コンコン"と叩くも変化なし。


「やっぱり、失敗したか? 仕方ない。検証の為にもう一回……がっ!?」


「ユーっ……ゴフッ!?」


「「「ユーリ!?」」」」


「レンさん!?」


 振り返った所、後頭部に強い衝撃を受けた。

 そのせいなのか、意識が遠のいていく……。


 薄れゆく意識の中、レンを見て原因を悟った。

 なんと、レンの顔にはナミエルの鎧の一部がメリ込んでいたのだ。


 どうやらナミエルの鎧が弾け飛んだらしい。

 不意打ちだった事もあり、俺は当然反応出来ずに命中。レンもショックで呆然としていたから餌食になった訳だ。

 うち嫁さんたちも"さん"付けが消えるくらい驚いてるから仕方ない事だな。


 コレが本当のキャストオフ!


 そんな事をアホな事を思いながら俺は意識を落とすのであった。








「うぅ〜ん……」


 柔らかくて温かくていい匂いがする……。

 この感触。この匂い。間違いない。目を開けずとも状況を悟った。


「あっ、ユーリ。起きた?」


「アイリス〜、寝起きのキスをして〜〜」


「いいよ♪」


 直ぐ要望に応えてくれるいい奥さんだ。


「俺、覚醒!」


「おぉ、ユーリが元気になった」


 俺はアイリスの膝枕から元気よく起き上がった。


「あれ? そもそも、何でアイリスに膝枕されてるん?」


 確か、ナミエルの鎧を解呪しようとしていた様な……。


「あっ、衝撃で忘れちゃったんだね。ナミエルの鎧が直撃したんだよ」


「直撃……。あっ、思い出した。後頭部に鎧が当たったんだっけ?」


 後頭部を触ると軽いたんこぶが出来ていた。


「ってか、レンは!? アイツが一番重症では!?」


 俺はそもそも丈夫だが、奴は普通だしギャグみたいに顔面へメリ込んでいたのでかなり心配だ。


「レンならあそこだよ」


 アイリスの指す方を見ると、そこにはバスタオルを巻いた色っぽい天使に膝枕されたレンの姿があった。


「ナミエルちゃんは無事に解呪出来たよ。レンはエリクサー飲ませたから大丈夫。その内に目を覚ますと思うよ」


 あの色っぽい天使さんはやはりナミエルだったらしい。


「なるほど。所で……何故あんなに火照ってる訳?」


 色っぽいというよりは艶っぽい。

 彼女は風呂上がりの様に火照っていた。


「そりゃあ、お風呂に入ったからね。2人が気絶した後、それはもう大変だったんだから……。」


 女の子事情で深くは話せないらしいが、何百年もお風呂に入れなかったせいで色々あったのだとか。


「そのせいで皆は今もお風呂掃除中だよ。後で労ってね」


「了解」


 風呂上がり後、こっちに一人だけ付き添って戻る事になり、アイリスはジャンケンに勝って抜け出したそうだ。


「すいません。アイリスたちには、お手数をお掛けしました」


「良いのいいの。お風呂で語り合った仲だしね」


 裸の付き合いで、彼女たちはかなり仲良くなった様だ。


「うぐっ……」


 そうこうする内にレンから呻き声が上がった。


「おっ、レンの意識も戻ったみたいだな!」


「ここは……壁っ!? いや、違う! これはっ!?」


 目を開けたレンは目の前の光景に驚愕の声を上げた。


 その気持ち、よく分かる。フィーネとかにしてもらうと特にそう思うもん。

 しかもそこから前屈みになられた時には……うん。後でして貰おう。


「良かった……。レンさん、目を覚ましたんですね!」


「この声はナミエル! まさか、君なのか!?」


「はい」


「どうよ、レン。ナミエルの膝枕は?」


「うぅ……最高過ぎる!!」


「そう言っても貰えると嬉しいです」


「ナミエル! 結婚してくれ!!」


「えっと……あの……喜んで」


「うぉおおーーっ、頑張ったかいがあった!!」


「あらあら……」


 ここに一つの夫婦が生まれた。

 男泣きしながらプロポーズするレンと恥ずかしさに困ってオロオロするナミエルを見るのはとても面白かった。

後、一話続きます。

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[気になる点] 誤字報告 俺は文献に作った魔導書を片手に皆の所へ相談にいった。 文献に作った魔導書とはなんでしょうか?
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