どっちがアクマなんだか……?
「あれ? レンお兄ちゃんとナミエルお姉ちゃん。こんな所で何してるの?」
辿り着いてた最下層には、何故か妖精の箱庭にいる筈のエリーちゃんが待っていた。
「エリーちゃん? 何でここに……?」
「あの、良かったらお姉ちゃんたちに教えてくれないかな?」
「あのね。エリーは、リリンお姉ちゃんから"悪い人たちがフェイ君を虐めに来るからここに隠れてなさい"って言われて隠れてるの!」
どうやら彼女をここに連れて来たのはリリンの様だ。
「お兄ちゃんたちがここに来たって事は……まさか、お兄ちゃんたちが悪い人?」
ペットのフェイ君を抱き締めて、つぶらな瞳でそう尋ねてくるエリー。
「お兄ちゃんたちがそんなことする訳ないじゃ……」
「レンさん!レンさん!」
否定しようとした時に、何かに気付いたナミエルが慌てた様子で裾を引っ張った。
「フェイちゃんの尾っぽをよく見て下さい!」
「尻尾?」
俺は言われるがままにフェイ君の尾羽を観察した。
「なっ!?」
なんと、フェイ君の尾羽根が今回の目的である羽根だったのだ。
「えっ、エリーちゃん? ちょっとフェイ君の尾羽根を触っても良いかな?」
「ダメっ!」
怖がらせない様にそろりそろりと伸ばした手をピシリと跳ね除けられてしまった。
「やっぱりお兄ちゃんたちが悪い人たちなんだ! リリンお姉ちゃん、言ってたもん! 特に尾っぽは毟られるかもって!」
その瞳には涙が溜まり、いつ決壊してもおかしくない。
これには俺たちもどうしたら良いか分からず困惑してしまった。
「ちっ、違うんだ!?」
「そっ、そうなの! 違うのよ!? ちょっと、そのフリフリした尻尾が気になって手を伸ばしただけなの!!」
「うぅーーっ!」
猫みたいな唸り声を上げて警戒するエリー。
今の行動が仇となって、どうやら完全にやらかしてしまったらしい。
「アハハハッ! そうよね! 幼気な幼女から羽根を奪うなんて普通は出来ないもの!」
「「この声は!」」
声のした方を見ると透過したリリンが映し出されていた。
「さぁ、どうするのかしら? 羽根を手に入れないと昇級試験は終わらないわよ? 無理やりにでも奪うかしら?」
「クソッ、この悪魔!!」
「何という鬼畜!! こんな子にさせるなんて!?」
「何とでも言えばいい! エリーちゃんに手を出した瞬間、貴方たちも同類なのだからね!!」
そういうと彼女は言うだけ言って姿を消した。
「「チクショー!」」
だが、貰わない事には試験が終わらないのは事実。
俺はエリーちゃんと交渉する事にした。
「エリーちゃん! どうか、フェイ君の尾羽根を2枚下さい!!」
「「土下座!?」」
ど・げ・ざ!
それはプライドを捨てる事で得られる交渉における最高の切り札。幼い彼女でも知っている筈だ。
そして、それを初めてみるだろう彼女にも俺の思いが伝わる……。
「わぁ〜っ、土下座だ。ユーリお兄ちゃんがお姉ちゃんたちにする以外で初めてみたよ!」
「ユーリさん!?」
アンタ、何やらかしたんですか!?
幼いエリーちゃんが土下座を目撃してますよ!?
「俺……無理かもしれない……」
大人ならまだしもこんなに幼い子と交渉はした事がない。
金銭。無理そうだ。
まだ、理解してない気がする。
食べ物。イケ……るか?
正直微妙。妖精の箱庭で手に入るものに比べたら見劣りする。
どう考えても俺はお手上げなので助けを求める様にナミエルの方を見た。
彼女も悩んでいる様だが、何かひらめいたらしくこう切り出した。
「ねぇ、エリーちゃん。……新しいペット欲しくない?」
「新しいペット?」
「そうそう。例えば乗れるやつとか。フェイ君も大分大きいけどエリーちゃんが大きくなったら無理でしょ?」
「乗れるやつ……ギンカちゃんみたいなの?」
「あそこまで大きいのは無理だけど、馬位の大きさなら……」
「欲しい!」
「なら、フェイ君の羽根2枚取っていい?」
「良いよ」
「ピッ!?」
あっさりと引き渡されたフェイ君。
この裏切りには当のフェイ君も絶望して悲鳴を上げた。
子供というのはなんて残酷なんだ……。
「ナミエル……本当に毟り……」
俺はフェイ君を心配しながら尾っぽを触るナミエルへと声を掛けた。
「うぅ……残念。抜けそうな羽根は無いわ」
「ほっ……」
それを聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「ごめんね、エリーちゃん。抜けなかったから返すわ。だから、騎乗出来るペットもごめんね」
「え〜〜っ……」
「でも、フェイ君と同じ子を上げるから勘弁してね」
「やったーーっ!」
貰えないと聞いて落胆した様子から打って変わって「お友達が増える〜」と元気にはしゃぎだすエリー。
ナミエルの子供の扱いの上手さにお手上げだ。
「あっ!」
はしゃいでいたエリーは何かを思い出した様にポケットを漁る。
「そうだ。コレあげる」
「ありが……」
「うん、どうした?」
エリーから何かを受け取り硬直したナミエル。
何を受け取ったのか気になって手元を見ると……。
「羽根!?」
フェイ君の尾羽根であった。
「一本だけ持ってたんだ! あげるね♪」
嬉しそうにニコニコしているエリー。
それに対して壊れた機械の様にナミエルは振り返った。
「どっ、どうしましょう……。これ……」
羽根は一本。
クリア出来るのは一人だけ。
「ここはレンさんが……」
「いやいやナミエルだろ? 貰った本人だし……」
「いやいや、それこそこのチームリーダーのレンさんが先に……」
「いやいや、何言ってるんだ。先にナミエルが得た。なら、君のものさ!」
「いやいや、でも……」
押し問答が何度も続き、俺はハッキリと宣言した。
「猫ゴーレムから奪うから大丈夫!倒すじゃないから余裕! 安心して帰ってくれ!!」
これを聞いて、ナミエルはやっと納得してくれた。
その選択は絶対に嫌だったが、羽根を譲り受ける訳には行かない。男の意地という奴だ。
「分かりました。それじゃ、先に戻ってますね」
そう言って彼女がタグを取るとユーリさんが転移で迎えにきた。
「ユーリさん! ナミエルを頼みます!!」
「おう、頑張ってな〜」
「レンお兄ちゃん、頑張って!!」
「レンさん!お気を付けて!!」
俺は3人の声援を受けて、猫ゴーレムの待つ死地へと赴いた。
「レン!帰ってきたか!!」
「おう、俺も参加しますぜ!!」
辿り着いた時には、既に猫ゴーレムと冒険者たちの戦いが始まっていたので参加した。
「ニャゴォオオーーッ!!」
「「「「ウォオオーーッ!!」」」」
人数による攻撃の手数は十分。猫ゴーレムは確実に追い詰められていった。
しかし、この時に気付くべきだった。その手数が災いして羽根は殆ど残っていないことを……。
その後、当然ながらレン以外に最下層へと行く者は誰も居らず、目先の羽根をかけて冒険者同士のバトルロイヤルが起こったのは言うまでもない。
レンが去った後。
「なぁ、エリー。なんで目薬で嘘泣きしてたの?」
「あぁ、バレた?」
「ええっ!?」
しれっとポケットから目薬を出すエリーにナミエルも驚きの声をあげている。
「私みたいな子の嘘泣きは交渉の場? で、有利なんだって!」
「アイツらは、なんつう事を教えてるんだか……。しかも羽根は何本も持ってるよな?」
「うん。ユーリお兄ちゃんにクッション作って貰おうと思ってね。ほら、こんなにあるよ♪」
「なっ……!?」
一本どころでなく、両手一杯の羽根の山。
「なっ、なら……どうして、あの時に……」
「だって、焦らすと色々プレゼント貰えるってリリンお姉ちゃんたちに教わったもん!しかもパーティを仲間割れ出来るとお小遣いもくれるんだって!! おかげで得しちゃった♪ナミエルお姉ちゃんのプレゼントも期待してるね♪」
「………」
これには完全に空いた口が塞がらないナミエルなのであった。
「全く……とんだ小悪魔さんだ事で……」
エリーの事に苦笑しつつ、どう嫁さんたちをお説教しようか悩むユーリなのであった。