霧を超えて
俺はレン。今はナミエルと共に昇級試験に望んでいるぜ!
さてさて、今回の試験だけどよぉ……探索だった。
冒険者の基礎とも言える技術を見るから能力がハッキリするいい科目さ。おかげで俺の気合も入ってものよ。
でも、内容は今までと違い少し特殊らしい。
「皆様にはとある森へとランダムに転送いたしますので、中央に建つ屋敷を目指し貰います。
その後、屋敷にてコレと同じ羽飾りを入手すれば試験は終了です。
なお、帰りにつきましては事前に配布するタグを取るか壊せば迎えがきますのでご安心を。それでは頑張って下さい」
と言った説明が試験官からされた後、俺たちは魔法陣に乗って森へと転移した。
「見通しは最低っと……」
その森は霧が立ち込めており見通しがとても悪い。
そして、言葉通りランダムに転送されたらしく周囲には誰もいなかった。
俺は早速側にあった木へと登ると木から木へと飛び移り周囲を確認……。
「おっ!」
そのかいあって周囲確認の為に空へと垂直に飛びあがったナミエルを見つけた。
俺は直ぐ様事前に話し合っていた合図を彼女に送る。すると彼女と目が合い合流する事が出来た。
そこからはナミエルと情報を共有。それらを元に屋敷の位置を割り出して森を進み始めた。
「ナミエル。浮遊してるとはいえ注意してくれ。エルフの罠は足元だけじゃないんだ」
少し進むと森の異変に気付いた。
あちらこちらにトラップ発見!
それらはエルフが好んでよく使うものだった。直接教わった俺が言うのだから間違いなし!
「大丈夫ですよ。魔力感知してますし」
「じゃあ、そこの前方。少し広がった空間には?」
「前方ですか? 何も……」
「残念」
俺は枝を拾って、何も無い様に見える空間へ投げ付けた。
バシッ! シュルシュルシュル!!
すると案の定、枝は糸に巻き取りれてしまった。
「えっ? 魔力感知してたのに!?」
それを見たナミエルは驚愕の声をあげていた。俺も始めて知った時は同じ様に驚いたものだ。
「魔力感知で見辛い程に細い糸だよ。アラクネに創ってもらう特注品だってさ。妙に開けた空間。木々の配置から仕掛けられているのに気付いたんだ」
「そうなんですね。レンさんと合流出来てて良かったです……」
知らないままだと同じ様にトラップに引っ掛っていただろう。それに気付いて彼女はホッと胸を撫でおろしていた。
「えっ、嘘っ!? ぎゃあぁぁ!!」
「たっ、助けてくれーーっ!!」
「イヤぁああーっ!!」
姿こそ見えないが冒険者の誰かがトラップにでも引っ掛かったのだろう。
これで悲鳴を聞くのは何件目だろうか?
「私もああなりたくないものです……。助けます?」
「う〜ん、可哀想だし。俺としては助けたいけど……今回はなしでいこう」
捕まえても逃げられる可能性に重きを置いているからとてもエグい。捕まってしまったが最後、彼らがどうなったか想像に難くない。
でも、一応試験中なので各自でどうにかして貰うしかない。抜け出す事も試験の一環さ。
リタイアも出来るし、多分大丈夫だよな……?
ユーリの兄貴……信じてますよ!
「おっ、レンたちじゃないか!」
「皆さん、お疲れ様ッス」
森を無事に抜けて辿り着くと、屋敷の前には既に顔見知りの冒険者たちが数人集まっていた。
「おめでとうさん。レンもこれでクリアだな」
「んっ? 何の話?」
「あれ、レンは知らねぇのか? 今回の試験は人数が多いから移動で篩にかけるんだとよ」
「道理でやたらトラップが多い訳だ……。あっ、だから屋敷にたどり着いたらクリア?」
「そうそう。辿り着いてた時点で式典の参加券を獲得ってね。そんでここからが残りを順位付けする屋敷……もといダンジョン探索」
「ギルド職員の裏話曰く、この屋敷は地下に3層広がる簡易のダンジョンなんだとよ」
「ユーリの旦那も絡んでるらしいからマジモンだと思うぜ」
「うげぇ……さっきは何も言って無かったのに……」
ユーリさんも人が悪い。知っていたなら教えてくれれば良いのに。
「それでどうする?」
「どうするとは?」
「お前さんたちが来てそこそこの人数になった訳だ。一緒にどうよ?」
「森ならいざ知らず、ダンジョン攻略ならパーティ組んでも文句は言われないだろ?」
「そうだぜ。お前さんたちがいれば攻略の時間も短縮出来るしね」
彼らは参加権さえあれば順位はどうでも良いらしい。俺としてもこの提案は断る理由がない。
「俺は良いと思うけど……ナミエルはどうだ?」
「レンさんと私は一蓮托生ですわ。喜んで参加させて貰います」
「……よし、相方の了承も取れたみたいだしな。行くとしようか」
面子の中で最も熟練の冒険者が代表して屋敷の扉を押し開いた。
そして、俺たちは入って直ぐに出会った。
屋敷の玄関ホールの中心で、ハンマーをポールに見立ててポーズをキメた彫りの深い猫ゴーレムに。
「……リタイアしちゃダメ?」
「エルフの皆さんに怒られますよ?」
「ですよぉねぇーー!」
俺のトラウマが蘇る。あの猫ゴーレムは"ゴルゴ T "という悪魔だ。
修行中、射っても射ってもクネクネした腰の動きで全てを回避。
挙げ句の果てにはスタイリッシュにポーズをキメながら肉球のハンマーで殴打してきて、何度壁へとメリ込んだことか?
「なんだアレ? ゴーレムの一種か?」
「おい、よく見ろよ! あの野郎、頭や腰に例の羽根を付けてるぞ!!」
猫ゴーレムを良く見ると確かに羽根で作られた羽冠と腰飾りを身に付けていた。
「ラッキー! 人数がいる今がチャンスだ!」
「単体だし羽根の数も十分だ。数で押すぞ!!」
「「「おう!」」」
そう言って向かって行った皆を見て、俺は慌てて正気を取り戻し止めに入った。
「ちょっと皆待っーー"ボンッ!"」
「「「「ふぇ?」」」」
あまりの出来事に俺たちは凄く間抜けな声が出た。
何故なら猫ゴーレムが持っていったハンマーを構えたかと思うと、それは部屋を埋め尽くさんばかりに巨大化したからだ。
「ニャゴォオオーーッ!」
「えっ? えっ!? ちょっ、待っ!? 嘘だろ!?」
「にっ、逃げろっ!?」
「逃げ場なんてねぇよ!魔法で攻撃……効かねぇな、おい!? クソっ!!」
押し潰さんと迫りくるハンマー。近そうで遠い入口。
皆で協力して魔法や武器でハンマーを攻撃するもビクともしない。
「………」
アレって、めちゃくちゃ痛いけど死なないんだよな……。
俺は覚悟を決めて攻撃を受けるべく悟りを開いた。
どうせダメならひと思いに潰してくれないものか?
「レン!? 何を悟りを開いているんですか!? 障壁を張ります! 入って下さい!!」
そう言ってナミエルは俺の前に立つと障壁で俺たちを包み込んだ。
「ナミエルは知らないかもだけど、アイツの持つハンマーは……」
「そんな!? 障壁がっ!?」
案の定、ハンマーに触れた障壁は綺麗に砕け散った。
「くっ、ならっ!!」
「うおっ!?」
障壁が砕けたのを見た瞬間、俺はナミエルに引き倒されてしまった。
「いたた……ナミエル!?」
顔を上げた時にはナミエルがハンマーを押し上げていた。
「とっ、止まったぞ!!」
「皆さん。今の内に……」
「「「すまん!恩にきる!!」」」
ナミエルが作った僅かな時間に感謝して、皆は這うように逃げていった。
「くっ、肉体強化でも時間稼ぎが精一杯……。レンさんも今の内に逃げて下さい!」
「ナミエルはどうするんだ!?」
「私は……残ります。だって、誰かが犠牲にならないと……。それに鎧があるから時間稼ぎは任せて下さい!」
「だったら、ナミエルが逃げろよ!俺はそういうのが嫌いなんだよ!!」
冒険者として必要な場面もあると分かっているが俺は嫌だった。
「肉体強化ならリリスさんたちにみっちり教わったからな! 俺も十分に出来る!!」
俺は肉体強化を施すとナミエルと同じ様にハンマーを押し上げた。
「レンさん……」
「それに二人なら乗り越えられるかもな!……付き合ってくれるか?」
「……はい!」
逃げようとしない俺を見て、ナミエルも覚悟を決めた様だ。押し上げる力を一層込める。
「「うぉおおーーっ!」」
そして、俺たちの攻防は始まっーー。
「「えっ?」」
突然、圧力が消えた。
長く続くかと思われた上からの圧力が突然パタリと止み、代わりに浮遊感が俺たちを襲ってきた。
どうやら床の方が先に圧力へと負けたらしい。
「レンさん。捕まって下さい!」
いち早く状況を悟ったナミエルは俺へと手を伸ばす。
俺はそれを必死に掴むと引き寄せる様に奈落へと落ちていった。




