風雲急を告げる昇級試験
「それでは昇級試験の参加者は集まって下さい!」
レンとナミエルをくっつける為に色々とイタズ……後押している間に昇給試験の日がやって来た。
祭典前に行われる最後の試験とあって、竜王国の冒険者ギルドは普段の様子とは打って変わって人で溢れ返っている。
「やる気が漲るぜ!」
そんな中、やる気を漲らせているレンを見つけたので、俺は声をかける事にした。
「あっ! ユーリの旦那とアイリスの姐さん、お疲れ様です。兄貴たちだけでなく旦那たちも試験の手伝いですか?」
「そうそう、嫁さんたちと一緒にね」
ギルド職員だけでは手が回らないとの事で、俺たちのチームも助っ人で手伝う事になった。
「ユーリの旦那! 俺の点数を甘くして下さい!!」
「嫌なこった。実力で昇格しろ」
「……というか、そもそも無理だよ。だって、私たちは採点係じゃなくて救助回収要員だもん」
人数が多いだけあって試験途中のリタイアも多いらしい。
そこで転移の使い手である俺やアイリスたちが巡回しつつ回収する事になった。
「あっ、そうなんスッね。残念……」
とは言うが、全く残念そうにしていないレンなのだった。
甘く採点した結果、クエスト中の死に繋がりかねない事を良く知っているからだろう。
「あっ。でも、採点係は彼女たちがするってよ」
「ほぉ〜っ、一体どなたが……」
アイリスの指す先には、リリスたちエルフの集団がいた。
それを軽い気持ちで見たレンは硬直してしまった。
「オワタ……」
「おい……」
「だって、リリスさんたちですよ!? 絶対通常より辛口での採点するに決まってるじゃないですか! しかも、俺は直接指導して貰ったから……」
「トップは当然」
「うおっ!?」
いつの間にか、レンの背後にシオンがやって来ていた。
そういえば、レンの修行を手伝ったのでその成果を見に行くと、彼女が言っていたのを思い出した。
「私からも技術を学んだから当然可能。でも、世の中イレギュラーは付きもの。特別に……3位までなら許す。それ以外だと……」
「そっ、それ以外だと……?」
「………」
そこから先は何も語らず優しく微笑むシオン。
それがダメだった時の恐ろしさを物語っていた。
「それで返事は?」
「イエスマム!!」
「うん。いい返事。それじゃあ、期待する」
そう言ってシオンは、リリスたちのグループに合流していった。
「シオンは優しいな。3位までなら良いってよ」
「全然優しくないです……」
「でも、リリスたちなら"トップ!"と言って譲らないと思うけど?」
「確かに修行の時も……」
修行の時にも色々あったのだろう。それを思い出したのか、レンは納得していた。
「大丈夫ですよ。レンさんには私がついてますからね。同じチームメンバー同士の協力は合法です」
「「「んっ?」」」
聞こえる筈のない声に振り返ると、そこには当然の如く参加しない筈のナミエルがいた。
「あれ? なんでナミエルがいるの?」
「実は、私も参加者なんです」
アイリスが尋ねると、彼女はあっさりと参加する事を告げてきた。
「あれ? でも、今日の試験で昇格出来るのはAランクまでだよ? ねぇ、ユーリ?」
「うん。その筈だけど……?」
意味が分からず俺とアイリスは顔を見合わせた。するとそれで全てを察したナミエルが話をし始めた。
「あっ、2人とも私がAランクだと思ってます?」
「えっ? 違うの?」
「やっぱり、2人もそう思っていたのね。まぁ、私も忘れていたくらいだし勘違いするのも無理はないか……。よく考えてみて? 私が冒険者をしていたのは出会いを求めて他国を回りやすくする為。だから、実はBランクなの」
「アレ? でも、おかしくない? 昔、会った時にAランクのクエスト受けてたよね? 私の勘違い?」
「うんうん、合ってるよ。そこはアレよ? 能力的に問題無い事をギルドマスターたちは知ってるでしょ? だから、特別に高ランクのクエストを回される訳で……」
BランクなのにAランクとして活動。
基本、彼女は自身のランクに興味が無いのですっかり忘れていたらしい。
「という事で、全力でサポートさせて頂きますね!」
ナミエルのサポートがあるのなる間違いなくレンは昇格するだろう。
「レンさん。ナミエルさん。会場に入って下さい」
「おっ、呼ばれてるぞ」
「頑張ってね♪」
こうして、ギルド職員に呼ばれて中庭へと向かう2人を俺たちは見送った。
「………所でさ、アイリス」
「何かな、ユーリ?」
「この人数なのになんで試験会場が中庭? 科目は探索じゃないの?」
事前に聞いた話では、森で道中の魔物と戦いながら目標地点を目指すとの話であった。
なので、中庭からスタートする事に素直に驚いている。
「んっ? 探索でしょ? ダンジョン探索」
なるほど。確かにダンジョンなら隣町にあるので、ここからスタートしても特におかしくはない。移動スピードなども採点対象という事なのだろう。
そう思ったのも束の間、話は予想外の方へ向かっていった。
「でも、驚いたよ。ユーリはいつダンジョンなんて作ったの?」
「えっ、何の話?」
アイリスの全く身に覚えの無い話にポカーンとしてしまった。
「何の話って、ギルドに貸し出したダンジョンの話だよ。ユーリが創った簡易版ダンジョンを試験用に提供して貰ったって職員さんに聞いたよ」
「………」
どういうことだろう?
どんなに記憶を辿ってもマジで創った覚えがない。
確かにダンジョンは好きだが……創ってまで探索したいとは思えないのだ。
「あの……アイリス? 俺作ってないよ?」
「えっ?」
今度はアイリスがポカーンとする番だった。
どうやら俺の名を偽ってダンジョンを用意した者がいる様だ。
「という事は……?」
「そういう事……かな?」
思い当たるのはツインテールで悪戯好きなロリータエルフ。
ダンジョン探索に挑むレンとナミエルの事が少し可哀想になってくる俺たちなのであった。