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2人の生活

 妖精の箱庭(フェアリーガーデン)にレンとナミエルが滞在し始めてそろそろ一週間ほどになる。

 2人の生活が心配になった俺はゲストハウスを訪れる事にした。


「んっ……あっ……ダメっ……」


「………」


 家に入ると誰も居らず、ナミエルの部屋からは喘ぎ声の様なモノが漏れていた。

 その為、部屋に入るのを躊躇われるが、聞こえて来る声がレンのものだから心配になってくる。俺は意を決して扉を開いた。


「あっ……そこそこ。そこが良い」


「ここですね」


「んっ……ふうぁ……」


「……なかなかの凝りですね。うんしょっ!」


「くぅ!きっ、気持ちいい!」


「今日もお疲れ様です。頑張ったんですね」


「おうよ。1人でAクラスの魔物を狩れる様になったわ!レンジャーなのにな!」


 レンジャーでも狩れるに越したことはないだろ。

 うちのシオンたちなんてSランクの魔物を1人で狩るぞ。


「でしたら、今日の晩ごはんはレンさんの好きな"生姜焼き"にしましょう。スルーズさんに作り方を教わりました。既に何回も作ったので完璧です」


「マジで!? 凄ぇ楽しみ!!」


 そういえば、今日の昼飯は生姜焼きだった。

 焦げたものとかが少し多かったので気になっていたが、きっと彼女の練習にでも使われたのだろう。


「……というか、何この状況?」


 部屋に入るとレンがナミエルにマッサージされた上に、今日の献立を話し合っていた。

 話を聞くにレンはもう骨抜きにされとるやん。


「あっ、ユーリの旦那。来てたなら言って下さいよぉ〜」


「いらっしゃいませ、ユーリ様」


 呆然と部屋の入口に立っていると2人はようやく俺の存在に気付いたらしい。


「2人共……仲良いな?」


「えぇ、概ね良好な関係を築けていますわ。最近では毎食一緒に過ごしてくれる様になりました」


「……レンは彼女に骨抜きにされてるじゃないか。見返して振るとか言ってたよな?」


「いやいや、誰のせいだと思ってるんですか? 誰の?」


 レンは俺に分かるように順を追って説明し始めた。




 ***********




 ユーリの旦那やその嫁さんたちに鍛えられて数日が経ったが、1日を倍に出来るマジックアイテムにより体感としては半月は有に超えた。


「ユーリさんの言うとおり、Aランクのクエストを受けていただけあってレンジャーの下地は完璧に出来ていますね。後は、技術を植え付けるだけです」


 修行の内容は旦那の嫁さんにはエルフが多いだけあって弓の指導がメインになった。


「矢をどれだけ小型化し、数を持ち歩いても戦っていれば何れは尽きます。森だと入手も可能ですが、加工に時間がかかります。そこで魔石や魔力で矢を作り出す方法を学びましょう」


 魔力の扱いに難がある俺には難しかったが、大きなメリットの方が多い。


「この様に速射に曲射、空中待機の時間差……果ては濃縮して爆散させる爆射などが行えます」


 単一火力の向上。支援するだけでなく、単体での討伐も視野に入ってくる。

 また、属性を持たせる訳でもなく、魔力放出の一貫というだけあって単純作業。数を熟せばそこそこ型になってきた。

 なので、コレに多くの時間を割くことになったのだが……なかなか進展しない。


「成長が芳しく有りませんね。なので、もっと必死さを出す為の工夫を用意しましたよ」


 痺れを切らしたエルフたちは複数で謎の鉄箱を運んできた。

 そして、1人のエルフを残して皆が去っていった。


「このサイズとはいえ生け捕りは苦労しました」


「れっ、レッドボアッ!?」


 残った者が箱に付いたロープを握り、かなりの距離を離れた時点でおかしいと思った。

 ロープが引かれ鉄箱の扉が開くと、中には幼体とはいえ凶悪な魔物がいた。知識からコイツには普通の弓では全く歯が立たない事を知ってる。


「ブルルッ!!」


「ひっ!?」


 しかも近くには俺だけがいる状況だから直ぐにターゲットにされた。


「さぁ、殺される前に倒して下さい」


「うっ、うぉおおーーっ!!」


 死にたくないあまり必死に戦った。

 その結果、冷静かつスムーズに矢の生成と射撃が行える様に嫌でもなった。


「技術は申し分有りません。あとは実戦経験を積み重ねましょう」


 ということで、バルトさんたちに合流しクエストに行く事にした。

 俺のいない間は活動自粛だろうから申し訳ないと思いつつも、久しぶりの再会に胸を踊らせて行ったのだが……。


「ナミエル! アンタ、凄ぇな!! なんだよ、あの戦闘力と動きは!?」


「確かに! 攻撃魔法の多様性と見た目に反したアクロバティックな動きには私も驚かされました!!」


「しかも攻撃面だけでなく強力な防御魔法まで完璧とは!! おかげで安心して支援が出来ます!!」


「褒めて頂き嬉しいですわ。でも、これくらいは仮にも天使なので当然です」


「レンの代わりが務まるか心配だったが……全く問題ないな!」


「「確かに!!」」


 いつの間にか、俺の代わりにナミエルがチームメンバーになっていた。しかも仲間たちの声からしてかなり好評。


「仲間が寝取られた!?」


 まるで俺が要らない子みたいじゃないですか!?


「おう、レンじゃないか! 戻ったのか?」


「久しぶりです」


「元気にしてましたか?」


 俺に気付いたバルトさんたちは直ぐに近寄ってきた。

 そして、彼らはナミエルに聞こえない様に耳打ちする。


「レン。彼女の気がお前に向いてる内に意地でも落とせ!」


「そうです! 彼女の力は実に欲しい……。呪いが解ければ美人ときている。何を躊躇する事があるんです!」


「その為に協力出来る事があったら言って下さい。何でもしましょう」


「………」


 うちのメンバーは彼女の味方になっていた。

 完全に外堀は埋められているんですけど!?


「レンの代わりをユーリの兄貴に相談して良かったわ」


 全ての元凶はユーリの旦那にある様だ。


「とりあえず、レンは彼女の人柄を知るべきです。彼女とは1つ屋根の下……最近全く帰ってない様ですがここには居るという事は違うのでしょ?」


「えぇ、あとは経験の蓄積という事で午前に修行して午後からクエストとかを熟す事になりました」


「なら、空いた時間は彼女と過ごして人となりを知る事を始めて下さい」


「そうです。見た目で判断はダメですよ。彼女はかなり良い人なんですから!」


 そんな風に仲間たちから延々と説得された俺はナミエルと一緒に過ごす時間を増やす事にした。




 *************




「ーーという訳なんです」


「それで今に至ると? そのマッサージや食事も?」


「そうです。修行とクエストで疲れた俺を見かねたナミエルが提案してくれたんです!」


「えぇ、私を知って貰うにはこれが一番かと思いまして」


 もう完全にナミエルの手のひらの上ではないか。

 色々と面白半分に手を貸したが、それをナミエルは上手く利用してしっかりと取り入っている様子だ。

 レンも外堀を埋められて諦めたのか、最初の勢いはない。陥落するのも時間の問題だろう。


「あっ、本来の用事をすっかり忘れてた……。そういえば、2人に伝える事があって来たんだったわ」


「なんです?」


「祭典の前の試験日程が決まったよ。だから引き続き訓練を頑張れ」


 俺は2人に試験日程を伝えてゲストハウスを後にした。

 予想以上に仲が良好で安心したが、同時にとある違和感が生まれていた。

 ナミエルから聞かされた話だと、今までの彼氏も今のレンと同様またはそれ以上に親密な関係を築けていた様だ。

 しかし、いざ解呪の瞬間になると全員逃げ出したのである。これに何かある気がした俺は内緒で少し動いてみる事にした。

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