長年の疑問
花見を前に客が続々とやって来る。
俺は転移門で彼らを出迎える事にした。
「ようこそ、妖精の箱庭へ」
「いらっしゃいませ。祭りまでゆっくりして行って下さいね」
そして、出迎えには転移門の管理をしてくれているマリーも一緒になってしてくれる事になった。
「やぁ、世話になるよ。ユーリ君、マリーさん」
「いらっしゃい。和王様……お義父さんの方が良いかな?」
今も彩音の祖父である和王が転移門からやってきた。お忍びという事もあって、彼は洒落た花柄の着物を身に纏っている。
そこには王の威厳はなく、孫たちに会いに来たアロハシャツの好々爺の様だ。
「そうだのう。お義父さんだとお主には多過ぎる故に"彩鬼"と呼ぶが良い」
「了解です。彩鬼さん」
「……それで彩音とひ孫は元気かな?」
「今、ミルクの時間なので彼女の自室に行けば会えると思いますよ? 私が案内しましょうか?」
「いや、それは結構。前回のことがあるからのう……。なぁ、ユーリ君」
「あはは……」
「………?」
意味が分からず不思議そうにしているマリーに俺たちは苦笑いを浮かべるのだった。
あれはとても悲しい事件だったよ。
ことの起こりは数ヶ月前。
お忍びで遊びに来た和王へひ孫を見せたついでに、俺が気をきかせて彩音の元へと案内した。
自室にいた彼女は俺の使用済みのシャツだけを身に纏いベットの上を転がり回っていたのだ。
俺たちに気付くと顔を真っ青に変えて正座したので、本人に聞いてみることにした。
本人曰く、育児中に禁断症状が出たので俺の匂いを補給に来たのだと。
禁断症状って……俺の匂いは薬物か何かなのだろうか?
そんな孫娘の行動を見ていた和王は……悟りきった良い笑顔になっていたよ。
「夫婦円満なのは良い事じゃな。………再発したか」
最後にボソリと言ったのは聞き逃さ無かった。
彩音よ。君は昔にもやらかしたのかね?
「なので、談話室で待たせて貰うよ。彩音に会ったら伝えておいてくれ」
そう言うと和王は談話室へと去って行った。
「さて、一通り来たし。これで全員かな?」
「そうですね。後は、ラファエラさんが来るかどうかですね? 何やら里の方で揉めているとラズリちゃんに聞きましたよ」
「揉めてる? 里で何か問題でもあったのか?」
「すみません。流石にそこまで込み入った話はしてなくて……」
うちで最も相談役にされるマリーも知らない様だ。
という事は、そこまで切迫した事ではないのだろう。
「まぁ、必要になったら声かけられるよな。ラファエラさんのことだし」
「あっ、ユーリさん! 噂をすれば転移門が起動しましたよ」
マリーの言葉でエルフの里の転移門を見ると彫刻が発光し起動しているのが確認出来た。
「ラファエラさんが来たの……」
バンッ! ゴロゴロッ!!
「「わっ!?」」
転移門の扉が勢い良く開くと一人のエルフが俺たちの近くまで転がってきたので俺たちは慌てて飛び退いた。
「ん? ロロ?」
改めて飛び込んで来た者を見ると、その正体はロロであった。
「イテテッ……勢いを付け過ぎてしまったか」
「お前……何してんの?」
「あっ、ユーリ! 貴様に聞きたい事がある!!」
立ち上がったロロは今にも俺へ掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってきた。
そして、彼からは予想外な文句を言われる事になる。
「ラズリが……あの子が妊娠したなんて、俺は聞いていないぞ!!」
「はい? 聞いてない?」
自分の記憶を探ってみると、俺は確かにロロへは伝えていない。
しかし、奥さんであるラファエラにはしっかりと伝えているのだ。
おかしいな? ラファエラさんは伝えると言っていたけど忘れたのかな?
「ラファエラさんには教えたぞ? 彼女から聞いてないのか?」
「えっ、聞いてない……」
ロロの様子からマジで聞いていない様だ。
何処ぞの竜王みたいに忘れているのかな?
「いえ、ワザと教えてませんでした。ラズリからも頼まれたので」
「「あっ」」
いつの間にか、笑顔のラファエラさんがロロの背後に立っていた。
「らっ、ラファ? それは本当なのかい?」
「ええ、本当です。全ては貴方が原因ですけどね」
「どういうこと?」
ラファエラさんに聞いてみると、ロロが暴走して王様たちに迷惑をかけないか心配しての事だった。
「………」
話を聞いたロロは、何も言えずに黙り込んでしまった。
「まぁ、振られたのにアプローチするお前が悪いわな。嫁さんと娘にこれ以上嫌われない内に諦めれば? というか、諦めろ」
「しかしっ……!!」
どうやら、まだ諦めきれない様だ。
「傍から見ている私からしても確かに異常ですね。何か、原因が有るのでは?」
「っ!?」
「「図星か……」」
とりあえず、俺はロロの背後に回って羽交い締めにした。
ラファエラさんは何やらロロに魔法を刻み始めた。
「離さないか! そして、ラファ! それは偽言刺の呪いでは!?」
「そうですよ。嘘をついたら針に刺された様な激痛が走りますね♪」
針千本飲ますを魔法で再現したものの様だ。便利そうなので教わろうと思った。
「……それ、後で教えて頂けませんか? ちょっと使ってみたい相手がいますので……」
マリーも俺と同じく知りたいらしい。
でも、俺を見て言ってるのは何故かな? まさか、俺に使うとか言わないよね?
マリーの可愛らしい顔が一瞬だけ怖いと思うのだった。
「という訳で、白状せよ」
「くっ、クソォオォォ!」
観念したのか、ロロは素直に喋ってくれた。
どうやら魔物の毒で目が見えなくなった所を介護してくれた女性がいたそうだ。
その人の優しさに触れて、惚れてしまったのだと。
「再び見える様になって真っ先に目に入ったのは彼女だった。その時、この人が優しく介護してくれた人だと確信したよ。だから、彼女を自分のものにしたいと思ったんだ!」
「………」
それを聞いたラファエラさんは何やら考え込んでしまった。
やべぇ、これが原因で離婚とかになったら……。
横を見ると気まずそうなマリーと目が合った。彼女も俺と同じでやってしまったと感じている様だった。
「……ねぇロロ。それって幼少期に大人に黙って入った森でヒドラに噛まれた時の件?」
「あぁ、そうだ。……今思えばヒドラを追い払い、搬送してくれたのも彼女だった。運んでくれる時、彼女のいい匂いがしたのを覚えている!」
「貴方、それは……リリィじゃないわよ?」
「ふぇ?」
「なるほどね。あの時は既に目が見えてなかったのね……」
「なっ!? 君は彼女が誰か知ってるのか!? いや、それ以前にリリィじゃ……ない?」
「うん、知ってる。そして、それはリリィじゃないわ。だって、彼女は他里に用があって出かけていたもの。本人に聞いてもそう言う筈よ」
「なっ、なんだって!?」
ロロはショックのあまり膝から崩れ落ちてしまった。
「所で話は変わるけど。その人の匂いって覚えてる?」
「匂い? そうだな。……ラファに似ていてとても癒やされる匂いだった気がする」
「うふふっ……そうなのね。だから、私か……これは良い事を聞いたわ♪」
とてもいい笑顔になったラファエラさんはロロに掛けられた呪いを解くと放置して階段へと向かった。
「ちょっ、ラファ!? 知ってるなら教えてくれないか!?」
「教えな〜い♪」
悪戯っぽく笑うラファエラさんをロロが追いかけていく。
「「………?」」
放置された俺たちは意味が分からず、ただそれを見守るのであった。
後日。
「それは多分、ラファよ。だって、その日は外に用事があって、私は里に居なかったからね」
「えっ?」
今回の件をリリィに尋ねてみるとアッサリと答えが返ってきた。
「話を聞いて思い出しけど、あの日、ラファは森で狩りをしていたらしいのよ。そこでヒドラを見付けて射ろうとしたら前にいるロロを見付けてね。外すかもと射るのを躊躇したの。そしたら、目の前で噛まれてしまったそうよ。だから、罪悪感から率先して彼の看護をしていたのよね。
あっ、ちなみに治療していたのは薬師である我が家だったから勘違いに拍車を掛けたのかもね?」
これでラファさんの機嫌が良さそうだった理由が分かった。
「ん? という事は、それをロロに伝えれば、私は今後迫られる事はなくなるのでは?」
「可能性は高いな」
「ちょっと試して来るわね!」
リリィも迷惑していたのか、直ぐに伝えに行ってしまった。
その後、とある男エルフが自分の奇行を振り返り絶叫する事になるのであった。
弄って戻して弄って戻して、何を書こうとしたのか途中で忘れた時は辛かった。
あとタイトル付けが一番辛いです……。
投稿がかなり遅れ気味で迷惑かけています。
なるべく本来のペースに戻したい所です。




