アダムスよ……永遠なれ
嫁さんのクラスメイトが助けを求めて来たので、アダムスが指導に使っている『狂乱の小世界』へ様子を見に行くことにした。
「……訳なんだが」
「血がっ! 我が身に刻まれし血が駆り立てる!さぁ、生徒たちよ!もっと我を楽しませろ!!」
何処の厨ニ病ですかってくらいにアダムスが暴走していた。
あんな口調の人だったけ?
「何であんなになってんの?」
俺たちは物陰に隠れて事情説明の為に連れてきた生徒に話を聞いてみた。
「え〜っと……私たちは子供に圧倒された事が原因でアダムス校長から直接指導を受けていたのですが……」
最初はまともに魔法の訓練をしていたそうだ。
しかし、それでは他の所で指導するのと変わらない。ここでしか出来ない指導をすべきだとアダムスは考えた。
「実戦は何十回分もの訓練に及ぶと仰られて、提案されたのが鬼ごっこでした」
最初は馬鹿にしていた生徒たちだったが、鬼ごっこの詳細を聞いて血の気が引いた。
何故なら彼が提案したのは、アダムスという吸血鬼に襲われない様に逃げるといったものだったのだ。
死なない空間にいるので勿論捕まってしまえば生徒といえども容赦なく……。
「そして、ヤルからには吸血鬼らしくいこうと言い出しまして……」
吸血鬼の特性を発動。
吸血に霧化。獣化などで生徒を追い詰めた結果、吸血鬼の本能に飲まれてしまったらしい。
「しかも1日だけって仰ったのに……もう3日目ですよ!!」
「あ〜っ……それって」
「なるほどね。とりあえず、事情はよく分かった。俺が出ていってアダムスを一回殺せば大丈夫なんじゃないかな?」
バカも一回死ねば治ると言うし。本当に治るか分からないけどね。
「まぁ、一回リセットされる訳ですし。確かに可能性は有りますね」
ここに来る前に合流したベルからも賛同が得られた。これならイケると思ったが、それを生徒は否定してきた。
「……それなんですが、恐らく無理です。校長は生徒たちの手で一度は倒す事には成功しましたが変わりませんでしたので」
「えっ、マジで? よく生徒たちで倒せたね。ベル、アダムスって弱い?」
「そんな訳ないです。むしろ私たちと同レベルです。なので、私も純粋に驚いてますよ。貴方達、どうやったの?」
「そこは死なない事を活かして、爆弾を抱えた有志の生徒たちが校長に襲いかかり自爆を……」
「「自爆!?」」
アンタ、生徒になんてことやらせてんの!?
自ら死にに行くなんて大人でも簡単に出来る事じゃないぞ!?
「あとでそれをした子たちには俺の授業での単位を出すと伝えてくれ」
「私からも単位をあげるとします」
俺たちは彼らの勇気を讃えて何かしらの報酬は必要だと思った。
「それでその生徒たちの活躍も虚しくアダムスはあんなだと?」
「はい、そういう事です」
「う〜ん、どうしようか? 今の話を聞く限り、俺が出ていって倒しても意味がなさそうなんだよね?」
「あっ、それなら私から良い案が有りますよ。校長の弱点を突くんです」
「「弱点?」」
思い当たるのは吸血鬼の苦手とされる十字架やニンニク。
しかし、俺の記憶が確かなら十字架のペンダントを身に着けていたし、ペペロンチーノとかニンニクが入ってるものを美味しいと食べていた。
「大丈夫です。彼女ならなんとかしてくれますよ!」
自信満々にいうベルに俺は任せる事にした。
それから数十分後。ベルの頼みでとある人物を呼んできた。
「お久しぶりです。ユリシーズ卿。旦那がいつもお世話になっています」
「ユーリさん。改めて紹介しますね。アダムス校長の奥さんで天使族のキョウカさんです」
「こんにちは、キョウカさん。お手数をおかけします」
「いえいえ、こちらこそ。アダムスが迷惑をかけた様で……直ぐになんとかしますわね」
「んっ?」
気のせいだろうか?
今の一瞬だけルイさんを前にした時のヤバさに似た感じがした気が……?
「彼女はアダムス校長の奥様の中で最も長く連れ添っている方で正妻なんです。しかも天使なので校長とは色々相性が良いんです」
「でも、今のアダムスは殺しても死なない状態だぞ?」
「あら、今のアダムスには何かしら秘密があるので?」
「実は……」
俺はキョウカさんにアダムスとこの空間の事を説明した。
「まぁ、それは最高じゃないですか! それなら私は手加減する必要はないのですね!!」
「あっ、うん……」
「それでは早速行ってきますわ!」
話を聞いたキョウカさんは目を輝かせながら物陰から飛び出して行った。
「げっ!? キョウカ!?」
「うふふっ、捕まえました。もう逃しませんわ」
アダムスはキョウカさんの登場で驚いている所をあっさり捕まってしまった。
「何故、君がここにっ!?」
「貴方が暴走していると聞いて止めに来ましたわ。さぁ、お覚悟を」
「嘘だよね!? 嘘だと言ってくれ!?」
どんどんと青褪めていくアダムスに優しく微笑むキョウカさんが抱き着いた。
……その後に行われたキョウカさんの技を俺は一生忘れないだろう。
ベアバッグ。
アダムスの身体からメキメキという音が聞こえてきた。
ジャイントスイング。
ハグから開放されて地面に倒れた所を掴まれ振り回された後に空へと投げられた。
アルゼンチンバックブリーカー。
空から降ってきたアダムスの衝撃を利用していたのでその威力が計り知れない。
キャメルクラッチ。
どうやら徹底的に背骨をヤリにいくつもりらしい。
所で、何故にプロレス技?
まぁ、色々思う所はあるがアダムスには効果的みたいだった。
「無理無理無理! それ以上は曲がらないから!! 死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「安心して下さい。死なないそうですよ。だから、もっとやれますね」
「ノォーーッ!!?」
どうやらアダムスは正気に戻っている様子だが、奥さんが満足するまで続きそうだ。
「アダムスよ、永遠なれ」
「そう想うなら助けてくれ!!」
俺は何も聞こえません。
ベルと一緒に生徒たちのメンタルケアをしてあげないといけないからなアダムス夫婦を放置する事にした。




