クラウディア
皆様、お初にお目にかかります。
私の名前はクラウディア。魔王国ではそこそこ名の知れた貴族にして、三大魔法学校に数えられるアルスマグナ魔法学校に通っております。
更には、母親譲りの美貌と父親譲りの頭を持って向かう所敵無しですわ。
しかし、そんな私にも勝てぬ相手というのは存在します。それは学年主席であるエミリア様です。ちなみに次席は私でしてよ。
さて、それではどう勝てないかを話しましょう。
まずは、竜特有の身体。
筋力や魔力量は魔族の私でさえ手も足も出ません程に開きが有ります。
容姿なんかは出る所は出て、引き締まる所は引き締まり、私の美貌は影を潜めます。
次に知識量。
竜の叡智を幼少期より教え込まれたそうで勉学では常に満点を取っています。そこに満点からの加点が付く事も有ります。
満点取っても引き分けにならないとか、マジでないですよね?
なので、私は2番に甘んじる事とします。なんせ2番こそが一般レベルのトップですから!
「はぁ? えっ? 10位? あははっ、嘘ですよね?」
貼り出された成績表を前にショックを隠し切れません。成績を落として一桁ならまだしも二桁の10位なのですからね。
常に次席を目指していた私がそこまで落ちぶれる訳がないという自負も有ります。
「アレ? そういえば……」
ここで私は有ることに気付きました。今回の筆記試験で私は一問ミスしただけなのです。
コレはきっと先生方の記載が間違っていますのね。
教えて差し上げないと!
早速担任であるベルフォート先生の元に行くとしましょう。
「いえ、10位で間違い有りませんよ。主席のエミリアさんと同列が8人居ますから」
「同列1位!?」
どうやらベル先生曰く、同列1位が9人居るから私が10位になったそうだ。
「イナホさんたちですから当然の結果といえば当然の結果ですね」
その瞬間から私には新たな強敵が生まれました。その日から彼女たちへの挑戦が始まったのです。
とある日の戦闘訓練の授業。私は彼女たちのリーダー格であるイナホさんと一緒に組む事になりました。
勉学では、あれ以来彼女たちに勝ててないのでここで見返す事とします。
「魔族と獣人の差を見せてあげますわ!」
「よろしくね」
魔力による身体強化。
亜人の中でも身体が丈夫で魔力との相性が良い魔族がそれを行えば他種族を凌駕する事は容易だと言われている。
「筈なのですが……」
今、私は空を仰いでいます。息切れは酷く、身体中が痛いです。
理由はイナホさんに負けたからです。彼女は私を軽く上回る身体強化で圧倒してみせました。
「ごめん、痛かった!? 強そうだったからあまり手加減出来なくて!!」
「嘘っ!? これで手加減してたの!?」
どうやら手加減されたらしいです。
何故か、泣けて来ました。最近、メンタルが弱くなってしまった様です。
「ごっ、ごめんなさい! 泣かないで! なっ、何か出来る事はある?」
突然泣き出した私にイナホさんは困った様子だった。
「……友達」
「えっ?」
「友達になって」
この瞬間から彼女たちと友達になりました。
実はこれも作戦の一部。
とある軍師曰く、『相手を知れば百戦危うからず』だそうです。
なので、勝つ為に彼女たちを知る事から始めようと思います。むろんちゃんと友達として接しますよ。
それから数ヶ月後。
「「このケーキ……頬が蕩ける!」」
「ユーリさんにエミリアさんやクラウディアさんを交えてお茶会をすると言ったら特別に作ってくれました」
「ユーリさんは相変わらず良い旦那さんね」
「貴方たちの旦那さんが羨ましい」
ここ数ヶ月で彼女たちの間に私はすっかり溶け込んでしまいました。
「クラウディア。ほっぺにクリームが付いてるよ」
「あっ、取ってくれてありがとう。モカ」
特にモカとは親友と言っても良いほど親しくなりました。
何故だか、彼女には近親感が湧いて来るのです。まるで将来の自分でも見ている様なそんな感じが……。
でも、そんな風ですが調べることは調べています。
分かった事といえば、彼女たちの全員が旦那持ちなこと。そして、歳が近いのにもかかわらず既に子持ちもいるということ。
どの娘も努力家で前向きであること。
旦那に対して異常なまでにベタ惚れなこと。
旦那の名は"ユリシーズ"で、学園に現れた魔獣の飼い主なこと。
旦那は一流の冒険者、薬師、料理人、鍛冶師なこと。
旦那は貴族の領主なのに畑仕事や店のオーナーもしていること。
旦那は小国の国家予算並みに金を持っていること。
……何故、私のメモ帳には旦那情報の方が多いのかしら?
少し考えて直ぐに分かりました。彼女たちに旦那さんの話を振ったり同調しようものなら永遠と惚気話を聞かされるからでした。
「そろそろ妖精の箱庭では花見の季節よね? 今年も行っていいかしら?」
「花見?」
「うちの里でパーティをするんです。良かったらクラウディアさんも来ますか?」
「へぇ〜っ、里で……」
これは身分の違いをはっきりさせる良きチャンスだ!
私は直ぐ様行くことをイナホへ伝えた。
それから数週間後、待ちに待った日がやって来た。
しかし、当日行く事になったのは私たちだけではなかった。
「何故、こんな大勢なのでしょうか?」
「ユーリ君の許可も降りたし。良い機会なので本当の危険を経験しましょう」
「………?」
何処から話を聞きつけたのか、校長の提案で学校の林間学校という事になり大勢で押しかける事になりました。
これには彼女たちの実家が不憫でしかありません。
「まぁ、良いわ!今度こそ彼女たちを見返せるのですもの!!」
そして、私は用意された転移門を意気揚々と潜り抜けた。
「ひぐっ。ひぐっ……ひぐっ……」
恐怖、安堵、恐怖のコンボにより、私のメンタルは崩壊し泣いてしまいました。
辿り着いた森で出会ったトレント。
擬態していたトレントたちに取り囲まれ、次々に生徒は捕まり捕食されそうになりました。
一部の魔法しか有効でないトレントに未熟な私たちでは成す術もなく、死も覚悟しました。戦い慣れているイナホさんたちがいなければ被害が出たかもしれませんね。
『ようこそ! 妖精の箱庭へ!!』
『ほっ』
彼女たちの護衛で無事に里へと辿り着きました。
優しそうな人たちと長閑な風景に緊張が解けてホッと一息ついて安堵しました。里というよりは街ですが、平和そうで良い所です。
「うっ、嘘だろ……ドライアドが……しかもこんなに……」
『!?』
気付きたくない事に気付いてしまいました。村にはドライアドが群れで暮らしていたのです。
ドライアドはトレントなどとは比べ物にならない程に強力で危険な魔物。それがこれだけの数いるのですから泣くのは当然だと思いますね。
その後、温泉に入って癒やされなければ復活しなかったでしょう。
「良し、次こそは!」
私は気持ちを新たに温泉から立ち上がりました。
『ハァ……ハァ……なんて子たちなの……?」
まさかのまさか。風呂上がりの私たちはこの屋敷に住む子供たちの襲撃を受けました。
そして、まさかの蹂躙。子守ってこんなでしたっけ?
私たちは良いように弄ばれてしまいました。あのまま続いていたらどうなっていたか考えたくも有りません。
「私が直々に指導して差し上げましょう」
『そんなまさかっ!?』
「良いマジックアイテムが有るそうなんですよ。それも借りましょう」
アダムス校長のスパルタ指導は学校で知らぬ者がいない程に有名なのです。それを行うというのですから血の気が引きました。
「まっ、まぁ、噂は噂ですし……」
そう、噂として語られていますが実際に体験した者は今の生徒には数人しかいないのです。
だから、きっと大丈夫な筈よ! 頑張れ、クラウディア!!
私は自分を鼓舞してアダムス校長の指導を受ける事になりました。
「お願いします! 助けて下さい!! ユーリ様のお力で校長をどうにかして! 奥様たちとは仲良くしますし! 何なら私を好きにしても構いませんから!!」
「ちょっ、服を脱ごうとしないで!? 何とかしてあげるからねっ、ねっ?」
私はアダムス校長のスパルタに耐えられずに逃げ出し、彼女たちの旦那さんに泣き付きました。
叔父さんから頂いていた転移のマジックアイテムのおかげで逃げ出せましたが、無理したおかげで服はボロボロになり色々見えそうです。
それもあって旦那さんには受け入れて貰え、校長を宥めて貰う事も決まり安心しました。
私の進退については後日にイナホさんたちと相談という事にしましょう。