俺の居ぬ間に……増えてねぇ?
長らくメルヘン公国に行っていたので妖精の箱庭の畑が気になっていた。
今日はしっかりと農業に精を出すぞ!
早速エルフと悪魔を連れて畑へと向かったのだが……。
「……増えてねぇ?」
畑には大勢のドライアドたちが畑を護る様に取り囲み佇んでいた。
俺はここに来る際に擦れ違った娘も合わせて指折り数えてみると最低でも15人は居る事が分かった。
「彼女たちですか? ダフネさんが森から連れて……」
「ダフネ!カモン!!」
俺は直ぐにダフネを召喚した。
「モグモグ……お呼びでしょうか? モグモグ……」
タイミングが悪い事にダフネは食事中だったらしく、両手に果実を持って貪っていた。
「このドライアドたちについて色々聞きたいけど……とりあえず何を食べてるの?」
彼女の食べている果物はオレンジゼリーの様な塊で透き通っていた。
俺の記憶が正しければこんな果物はうちの庭に存在しなかった筈なのだ。
「……コレですか? モギたてで美味しいですよ。食べますか?」
「あっ、ありがとう」
俺は彼女がまだ食べていない方の果実を受け取った。
この果実は見た目に反して意外と固い。グミよりも少し固いくらいだった。
「うぉっ、甘っ!!」
一口食べただけで口一杯に甘さが広がった。
果実の表面はシャクリと鳴る程に歯ごたえが良く、内側はトロッとしたオレンジ色のゼリーの様にぷるんと柔らかく果汁で瑞々しかった。垂れてきた。
この果実はここにあるどの果実よりも甘くて群を抜いていた。
「これ何処から取ってきたの!?」
ゴールドアッポの様に森に生えていたのか!?
もし森に有るのなら直ぐにでも回収して栽培しようと思った。
しかし、場所は思っても見ない所にあった。
「あそこです」
「あそこ?」
俺はダフネの指差した方に目線を向けた。
「……グスッ」
「アレをモギったのっ!?」
そこでは羊の毛皮にオレンジの果実が実った様な、……そんな髪を持った女の娘たちが泣いていた。
中心にいる娘がモギられた娘だろう。よく見ると髪の果実のバランスが悪かった。
他の娘は感受性が豊かなのか、釣られる様に泣いている様だった。
名称:バロメッツ
種族:アルラウネ科バロメッツ
危険度:C+
説明:羊の様な身体にオレンジ色の果実を実らせている。果実はとても甘く病みつきになること間違いなし。
羊毛に見える毛の正体は木綿であり、魔力を宿しているので通常の木綿よりふわふわで耐久性を備えている。
「モギました。彼女たちの果実に痛覚がないのでこう……ブチッと」
「………」
ダフネさんや。そんなに強引に千切ると痛覚なくても髪が引っ張られて痛いと思うよ。
とりあえず、俺はモギられただろう女の娘の頭を撫でてあげた。
「モフモフ……」
凄くモフモフで気持ち良かった。
このままでは撫でボッするまでつづけてしまいそうだ。
『………』
視線に気付いて止めて振り返ると通りすがりのアイリスたちに見られていた。
「家族会議を行いま〜す!」
『は〜い!』
「何故にっ!?」
アイリスの宣言で皆が庭にテーブルを運び準備を始めた。
まさか、2日連続でするとは思わなかったよ……。
そして、嫁さんたちは当然ながら住人であるエルフと悪魔。当事者であるドライアド、バロメッツを招集して説明が行われた。
家族会議?
事情を知ってる嫁さんたちが居たから直ぐに解放されたよ。
俺の事を疑った娘は今日の夜覚悟して貰おうか!
「ーーという訳になります」
『!?』
ダフネの話を聞いて俺たちはとても驚いた。
「え〜っと、妖精の箱庭の拡張と狩りが原因でカリーナの森の生態系が変化したのは知ってたけど……」
森の外に出た魔物の討伐は俺たちが優先的に引き受けていたので周囲の変化も把握している。
「それにより下位の魔物が増えて食卓にもよく出てたね」
大型の魔物が減った事でアルミラージの様な小型の魔物が増えてきていた。
「でも、まさか進化する個体まで出てくるとはね……」
近頃、森で見られる人型の魔物というのは彼女たちだった様だ。
森が穏やかになった事で隠れて過ごしていた彼女たちや力の弱いドライアドが姿を見せ始めたという訳だ。
「トレントの数も減ったとはいえ、ここの方が安全なので私がバロメッツを連れて来ました」
「ドライアドの方はドライアドネットワークで救援を求めている者たちをダフネ様に回収して頂きました」
「確かにまだまだSランクの魔物がウロウロしてるもんな」
「私たちは良質な土と日光が有れば食事は要りません! それに定期的に実や毛は取って貰っても構いません! なので、ここに置いて下さい!」
「私たちもお願いします」
先程まで泣いていたバロメッツの娘たちが頭を下げるとドライアドたちも一緒になってお願いしてきた。
「まぁ、うちの事を手伝ってくれるなら良いよ」
『ありがとうございます!』
このまま森に帰すのも可愛いそうだし。女の娘が多いとうちが賑やかになるので受け入れる事にした。
「でも、ドライアドたちは間隔を空けような。畑への光が減る。それから本体を別の所に置くかだな」
「でしたら、果樹園の隣にスペースを作って住んで貰いましょう。私たちも住居スペースの近くに安心出来る森が欲しいです」
エルフたちからの要望もあって、ドライアドたちの本体は果樹園の隣に置かれる事となった。
その日の夜。
「ふっふっふ〜〜ん♪」
昼間の復讐を考えてウキウキしながら部屋の扉を開けた。
「えっ?」
『お帰りなさいませ! ご主人様!!』
部屋ではバロメッツの娘たちが待ち構えていた。
「あっ、あのっ!私たちには人と同じ所が多いです!」
「ひっ、人の行いは知らないので……その……」
「やっ、優しくして下さい!」
その後、予定を変更してバロメッツの娘たちとニャンニャンしたのだった。
『よし、セーフ!』
「(聞こえてるからね)」
隠れて様子を見ていた嫁さんたち。
当然、翌日には個別でユーリに捕まり復讐されるのであった。




