マナカスという男
少し前の話からしよう。
マナカスの屋敷にメギストスがやって来て、とある計画の密談が行われた。
その内容とは凶悪な魔物を国王の領内で解き放ち、そこへ兵を引き連れたマナカスが颯爽と現れるといったものだった。
「……では、手筈通りにお願いしますよ」
「ふふふっ、メギストス。お主も悪よのう。抜かるでないぞ?」
「ご安心を。大量に用意させましたとも」
魔物騒動が起きれば冒険者ギルドが真っ先に動くが、その量が多ければ周囲に救援を求めるのは必然的な流れだ。
そんな中、起こる事を事前に知っていれば誰よりも早く辿り着く事が出来る筈だった。
しかし、現実はそうはならない。雇われ傭兵たちのミスによって予定より早く魔物たちは開放されてしまったのだ。
「嫌な予感がしたから予定より早く出て正解だったな。待ってろ!俺が格好良く登場してやるぜ!!」
マナカスは強く意気込み、冒険者ギルドが防衛線を張った場所へと向かった。
「はい? 終わった?」
「ええっ、優秀な冒険者がこの国に来ていたので……」
しかし、マナカスが辿り着いた時にはリリスたちの手によって全てが終わっていた。
「ところで、救援要請はしていない筈ですが……?」
「っ!?」
救援要請を行う前に解決してしまった為に冒険者ギルドが周囲へ通達する事は無かった。
その為、マナカスが理由も無く兵を動かした事がバレてしまった。
「ごっ、合同演習の為だ! 我々はメギストスの領地へと移動中だったのだ!!」
「これは申し訳有りません。ただ主犯が貴族様の様なので……」
「急ぎ駆け付けた我々にその態度は何だ!……しかし、俺の寛大な心で許してやろう!!」
ギルドマスターや冒険者たちから向けられる疑惑の目に耐えられず、逃げる様にマナカスは兵を連れてその場を離れた。
「領地には戻らぬ! 我らはメギストスの領地を目指す!!」
『ハッ、御命令に従います!』
そして、その足で今の話を真実にする為にメギストスの領地へと向けて進軍する事にしたのだった。
「不味い!不味いぞ!!メギストスと話を擦り合わせねば!!」
何処から話が漏れるか分からない。
マナカスはメギストスに直ぐにでも知らせ話を合わせるために部下に書簡を持たせて先行させた。
首都メルトローナからメギストスの屋敷まで丸1日かかるが、早馬なら上手く行けば昼前には着くだろう。
「メギストスが逮捕されただと!?」
しかし、またしても予定はズレる事になった。
マナカスたちがメギストスの領地に差し掛かった頃、遣いに出した筈の部下が慌てて帰ってきたのだ。
そして、メギストスが逮捕された事が伝えられる。
「……しかもメギストス様は部下たちの証言で罪が明らかになり、お城へと連れて行かれたとの事です!」
「なんだと!?」
メギストスの罪が明らかになればマナカスの関与も必然的に判明する訳で……。
「こうなったら俺は国王に……親父に反旗を翻す! 首都メルトローナに向けて進軍せよ!!」
マナカスは兵の進路を再び変更し、首都メルトローナへと向けた。
「やはり名乗りは必要だよな? 親父はこの時間風呂に入ってる筈?」
それが全ての始まりだった。
首都に着いたマナカスはそのまま強襲すればいいものを父である国王に面と向かって宣言する事にした。
「だが、どっちに居るんだ?」
マナカスは浴場が2つ有り、国王が日替わりで入る事を知っていた。
だが、それが今や天国と地獄を分ける選択になっていようとは知らなかった。
「こっちか? 魔法班! 浴場の外壁を破壊せよ!!」
その結果、地獄を引き当てた。
『………』
「うほっ!ここは天国かっ……!!」
突然の出来事に裸のまま固まるアイリスたちを他所にマナカスは続ける。
「良い女が集まってるじゃないか!! 親父の女か? まだまだお盛んなこった。よし、お前たち!今日から俺が国王になる!!俺の女になれ」
『…………(ニコッ)』
「そうかそうか!喜んでくれーー」
そして、再び時間は動き出す。
マナカスの宣言にアイリスたちは直ぐに魔法で着替えると慈愛に満ちた微笑みと……魔法の応酬で返した。
「ウォータームーブ!」
「ジオグラビティ!」
「「エアハンマー!」」
「ゴボッ!? ぐふっ!? あががっ!?」
水魔法がマナカスの身体を包み込み天井へと打ち付け、重力魔法が落下に加わり激しく激突。そこへ左右から圧縮された空気がぶつかり押し潰される事となった。
「きっ、貴様ら……私が誰だと……」
「えっ? 手加減したけど無事なんだ?」
「この竜の鎧でなければ死んでいたぞ……?」
「なるほど。竜鱗を大量に使用した鎧な訳ですか」
「凄い強度だね。アレだけくらって大丈夫なんて」
「……当然だ。金に物を言わせて作ったからな!」
荒れていた呼吸を整えたマナカスは鎧の事を褒められてドヤ顔で自慢した。
『なら、遠慮なくもっと攻撃しても良い訳ね』
「えっ?」
聞こえてきた言葉にマナカスは絶望した。
本能が逃げろと呟いてくる。マナカスは身を翻し外壁へと走り出した。
「ほらほら、逃げないの!」
「ひゃあっ!? ……やっ、ヤバっ!?」
後ろから飛んできた水弾を避けようとしたらマナカスはコケた。
少し前まで自分のいた場所を水弾以外にも大量の魔法が通過して外壁の外へと飛んでいくのが見えた。
その後、外からは兵士たちの悲鳴の数々が聞こえてきたのだった。
「逃げない様に取囲もう。それから徹底的に……ね?」
出口へと転移したアイリスが逃げ道を真っ先に塞ぎ、それを皮切りにマナカスはユーリの嫁たちに取り囲まれるのであった。
「あははっ……」
アイリスたちの怒りに触れた事を知ったマナカスは乾いた笑みを浮かべた。
その後、ユーリがくる直前まで鎧の耐久テストをする様に前後左右から魔法の応酬を受ける事になるのであった。
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「ーーという事が有りました」
簀巻きにされて吊るされたマナカスは人が変わったかの様に素直になって洗いざらい話してくれた。
「もう王位を求めません! 二度と反抗しないので許して下さい!!」
どうやらアイリスたちにボコボコにされて反省したらしい。
「本当かな〜っ? 反省もしてる?」
「ひっ!? 本当に反抗しません! 反省もしてます!! だから、魔法で攻撃しないで!!」
どうやらアイリスたちによってマナカスはしっかりと躾られた様だ。
「奴隷の様に働く事も厭わないので許して下さい!!」
「なら、うちで働いて根性入れ直して貰おうか?」
「はい?」
アイリスの提案を聞いて俺は驚いた。
「ほら、召喚配達の人手が足りないって言ってたじゃん。だから、こき使って反省させよ?」
「なるほどな。メルヘン国王もそれで良いかな? 半年もしたら返すからさ」
「……お任せしよう」
という訳で、マナカスには予定を変更して貰いデリバリーの方で頑張って反省して貰う事となった。