魔人
家から冒険者ギルドまでの所要時間10分。
今度は、忘れず真紅のコートを着用。
これで、絡まれないはずだ。
「すみませんでした!」
冒険者ギルドに入った瞬間、土下座された。
顔の半分をガーゼで覆っているから誰かよく分からない。
だけど、思い当たるのは1人しかいない。
「えっと、バルトだっけ?」
「はい、そうです」
正解だった。
「とりあえず、立て。俺が悪いみたいじゃねぇか」
いきなり土下座したから視線が集まる。
「よろしいので?」
「ああ、前回の件は、水に流してやる。次は、気を付けるこった」
「ありがとうございます!しかし、ケジメはケジメ。何かしらの行動で返させて貰います!」
行動ねぇ〜、あっ。
周りの視線も集まってるし、丁度いい。
「だったらこれを少しでも多くの知り合いに周知してくれ」
Bランクだし、顔が広いだろ。
アイリスを自分に引き寄せる。
「このべっぴんさんの紹介ですか?」
「ああ、この娘は、俺の嫁兼従魔だ。彼女に手を出したら殺すってな」
「従魔?人間を従魔にしたんですか?」
「ほらな、アイリス。やっぱり、分からないって。一瞬だけ、変身を解除して見せてやってくれ」
「は〜い」
一旦、通常のスライム状態に戻る。
「こっ、これは!?」
「「「!?」」」
ガタッ。
動揺して椅子から落ちる者もいた。
「エンペラースライムのアイリス。人型になるスライムを相棒に連れてるって言っといてくれ」
「わっ、分かりやした」
受付に言って、階段で2階に上がる。
「マジかよ!?あの美少女がスライムだと!?」
「どう見ても人間にしか見えなかったよな!俺だけか?」
「いや、俺にもそう見えた。あそこまでいくと亜人と言っても良いんじゃないか?」
「確かに」
「馬鹿、亜人じゃねぇよ。アレは、魔人だって」
「魔人?魔族じゃなくて?」
「知らねぇのか?上位の魔物で魔物体と人型を持つ奴らを魔人って言うんだよ。竜種が良い例だ」
「そういえば、マスターは竜体と人型を使い分けてるな」
「そういうこった。しかし、嫁だって?」
「あぁ、言ってた。あれなら誰も気にしないだろうな」
「おい、しかも従魔って言ってなかったか?」
「そういえば……」
「ということは、あんな事やこんな事も……」
冒険者たちの頭に同じ事が浮かんだ。
「「「羨ましい」」」
手を出したら殺すからな。
ちゃっかり、階段の途中で盗み聞きしていた。
「アイリス。心配しなくても大丈夫そうだぞ」
「私の心配って……」
「しかし、魔人か。次からスライムって説明するより魔人って言った方がいいかな?」
「そういえば、マリーにもそう言われた気がする」
「じゃあ、そうしようか。その方が舐められなさそうだし」
会話をするうちにギルドマスターの部屋にたどり着いた。
「ギルさん!ユーリです!クエストの件で来ました!」
コンコン。
ノックすると返事が返ってきた。
「ユーリか?入ってくれ」
中に入るとギルさんは相変わらず書類に埋もれていた。
「それじゃあ、クエストの話をしようか」
仕事を切り上げて、前に座った。
「そういえば、まだ、クエストした事無いんですよね」
いきなり、Aランクになったからな。
「安心しろ。護衛とかでなく討伐を用意した。というか、適任がいなかったと言うべきか」
「何を狩るんです?」
「イビルフロッグ。巨大なカエルだな。それの集団がうちとカリーナの森の中間にある草原に現れたと連絡を受けた。何でも逃亡してきたらしい。あの辺りでは、酪農をしている。人や家畜への被害が出る前に駆逐して欲しい」
逃げてきた?
何か、原因があるのか?
「何が原因で逃げて来たんですか?」
「どうやらカリーナの森での領域争いに負けた様だ。近頃、森で変化があったようだし」
あれ?
それって、まさか。
「アイリス。俺の予想合ってると思う?」
「うん。たぶんそれが正解」
俺がゴールドアッポの木を増やした事と拠点を拡張したせいで、森の魔物のテリトリーに変化が出たのだろう。
だから、森から逃げて来たと。
「うん?何か、知っているのか?」
「たぶん、それ。俺たちが原因です」
「なに?」
「俺たち、カリーナの森に住み始めたのでそれが原因かと」
「あ〜っ、そういや親父からそんなの聞いたな。マリーもいるから近場の魔物は逃げるわな」
顔に手を当てて唸るギルさん。
「責任持って討伐してきます」
「頼む。ただ、数が多いからBランクのチームを1つ付ける」
「数は?」
「20体まで確認されている」
「了解。問題なさそうです」
「分かった。なら、いつ出発する?今日でも大丈夫だが。ちょうど下にいたし」
「それって、バルト?」
「そうそう。お前に謝罪したいから来る日を教えろって、言って来たからな。クエストもあったから呼んどいた」
だから、いたのね。
「早い方が良さそうなので、今日行きます」
「では、準備させる。移動手段は?」
「転移」
「マジで便利だな。移動時間短縮出来るのはデカい。行ける場所を増やして欲しいな。今度、護衛クエストも受けてくれ」
緊急時の移動手段に使うつもりか?
「クエストは良いですけど、竜種は使えないんですか?」
「使う必要がない。飛んだ方が楽だしな。魔力消費もないし」
まぁ、あれだけ速いならいらないわな。
マリーに乗った時を思い出した。
「では、任せた」
「「は〜い」」
初クエストは、カエル討伐に決定した。