覗き男
メルヘン国王が力を入れただけあって浴場は立派な物だった。
中央に行く程に深くなる段々のお風呂。中央には立派な獅子の顔が有り、口からは大量のお湯を吐いていた。
「ライオン……」
しかし、何故お風呂の蛇口といえばライオンなのだろうか?
そして、入るとなぜかそこに目がいくんだよなと思いつつ、身体を洗った俺は腹まで浸かる深さへと腰を降ろした。
「アイリスたちも今頃楽しんでいるのかな?」
「安心せよ。メイドたちも付けたので快適に過ごせているだろう」
「………」
「どうした? そんな何とも言えない複雑な顔をして?」
「いや、お城の風呂に入るとどうして? と……」
俺の隣にはメルヘン国王が入っている。
何故、俺がお城で風呂に入ると爺さんが付いて来るのだろうか?
アレかな? 妖精の箱庭で嫁さんたちとしか入ってないからそのギャップとかかな?
「……貴殿には本当に世話になった」
「お礼は良いですよ。背中洗って貰ったし」
メルヘン国王が付いてきたのは、俺の背中を流しつつ腹を割って対話してみたかったかららしい。
「それに長男の件で忙しくなるのでしょ?」
「あぁ、直ぐに兵を纏め出立させた。明日には息子を拘束して連れ帰るだろう。その後は……」
「王位欲しさに国を巻き込んだ罪は償って貰わないとね」
「あぁ……私はマナカスを甘やかし過ぎたのかもしれないな。あの子と共にやり直すつもりだよ」
メルヘン国王は全ての責任は正しく育てられなかった自分にあるとして王位を退くつもりらしい。
「なら、土いじりが良いよ。色々とキツいけど学ぶ事が多いから」
「ヒューカスもそう言っておったな。自分はそれで今が有るとも。……実は私も王であるが国の要だというのに触れて来なかった。もしマナカスと共にも触れさせておれば……」
育て方を間違った事を後悔している様だ。
同じ子供を持つ親として、俺もこうなりたくないなと思ってしまった。
「まぁ、"もし"とか"たら"とか"れば"とか起こった事は仕方ないさ。大事なのは明日からどうするか? まだまだ人生は長いんだ。十分にやり直せるさ」
「ユリシーズ殿……」
「それに国王すらも今やっと人生半ばでしょ?」
さっき知った事だが、国王の年齢は見た目に反して30代後半なのだ。
その息子たちに至っては20代後半。実は年齢が近かったりする。
どうやらこの国の人間は見た目と実年齢が合わない人が多い様だった。
「そんな訳で嫌な事はお湯に流して前向きに歩くことさ。これは頑張って頑張って……最後に報われた人からの助言だよ」
「流石はマレビト。説得力が有るよ」
「だろ?」
そして、俺たちはお互いに笑いあいながら風呂を楽しむ事に……。
ドォオオォォーーン!!
ドドドドドドーーン!!
「「なっ!?」」
突然の爆音の後、立て続けに音が聞こえてきてその度にお城が激しく揺れた。
「アイリスたちが心配だ! 先に見てくる!」
音の発信源からしてアイリスたちの風呂が有る方だった。
音が収まると慌てて着替えだした国王を置いて、俺は魔法で着替えるともう一つの風呂へと走り出した。
俺が風呂へと駆け込むと天井や壁は崩れ落ち、立派だっただろう風呂は瓦礫の山と化していた。
そんな中、服を着て佇む嫁さんたちを見付けた。
「皆、無事かっ!?」
『ユーリさん……』
「怪我はっ!? 鑑定!!」
直ぐに鑑定魔法で調べると何処にも異常は……。
名称:シズ
状態:健康。妊娠
うん。異常だわ。いや、違う。見当たら無かった?で良いんだよ。
とりあえず、俺は皆が無傷だという事が分かり、ホッと胸を撫でおろした。
妊娠の事は帰ってから改めて話合う事にしよう。
「良かった。無事だったんだな。一体何が……死んでる!?」
俺は風呂にうつ伏せで浮かんでいる男性に気付き驚いた。
急ぎ引き上げてみると息は有る様だがかなり弱っている。このまま死なれたら夢見が悪くなりそうなのでポーションを振りかけてあげた。
「なんでこんな事になったの?」
「ユーリと別れて風呂に入っていたら突然壁を壊して乱入して来たの……」
「挙げ句の果てに「俺の女になれ!」と言って来ましたね」
「だから、立場を教えてあげたの♪」
「従者の娘たちは転移で避難させました」
「え〜っと……覗き? ナンパ?」
意味がよく分からないが、とりあえず起きてたら殴ろうと思う俺であった。
「マナカス……」
「えっ? この人が?」
あとから来たメルヘン国王は風呂の惨事を見て絶望した。
そんな彼に容疑者の男を突出すと更に絶望してしまった。
「ああ、そうだよ。どうしてここに? 領地にいる筈では?」
俺もそう聞いていたので疑問が浮かんだ。
しかし、それは直ぐに理由が判明する事となった。
「申し挙げます! 浴場の外壁近くにてマナカス殿の兵たちが倒れているのを発見しました!!」
「なんだと!?」
国王と共に見に行くとかなりの数の兵士たちが外壁周辺に並べ寝かされていた。
外で調査していた者が国王に駆けてきて報告する。
「この場から逃げた者を発見し捕まえました。彼によるとこれらの原因は浴場から飛んできた魔法による物らしいです」
どうやらアイリスたちの魔法による流れ弾が壊れた外壁から飛んでいったみたいだ。
「また、診察した医師によりますと重装備のおかげで命は助かったとの事です」
「戦でもするつもりだったのか?」
彼らの装備は戦をしてもおかしくない程にしっかりと整えられていた。
マナカスなんかは竜鱗を使った強固で高価な鎧を身に着けていた程だった。
「ううぅ〜っ……私は……?」
そうこうする間にポーションのおかげもあってかマナカスが目を覚ました。
「おはよう。ちょっと質問なんだけど彼女たちの裸みた?」
寝起きでボーッとしているマナカスへアイリスたちを指して聞いてみた。
「えっ? 確か……見た?」
「忘れろ」
「ごはっ!?」
嫁さんたちの裸を忘れさせる為に昔から伝わる秘伝の技をやってみた。
「ちょっ、ユリシーズ殿っ!?」
「いや、強い衝撃を与えると記憶が飛ぶと聞いて……」
「それは確率が低いですから!!」
「なるほど! なら、確定するまで殴れば良いのか!!」
「辞めて下され!!」
笑顔でそう応えると必死に国王から懇願された。
「きゅ〜〜っ」
「あっ」
しかも殴った衝撃でまた気絶してしまったらしい。
仕方ないので辞める事にした。意識の無い人を嬲る趣味は無いし、一発殴って少しスカッとした。
それから再び起きるのを待って話を聞くことになった。




