呼ばないとは言っていない
ラブレターを人質にメギストスから尋問し終えた頃、ヨーゼフの雇い主であるシュヴァルツ公爵がやって来た。
「お初にお目にかかります。私はシュヴァルツ家の当主ウォルターと言います。この度はヨーゼフたちがお世話になりました。部下たちに代わってお礼を言わせて下さい」
「タイミングが良かっただけですよ。それにヨーゼフなら多分どうにかしたでしょうし」
彼の実力は俺が保証しよう。彼の弓を使った戦い方は今まで出会った弓使いの中で一、ニを争う程だ。
それに突然の襲撃だったとはいえ、部下たちから怪我人が出ていない。指揮の高さも兼ね備えているとは驚きだ。
「そんなに買いかぶられても困るけどね」
ヨーゼフはそっぽを向いて頬を掻いた。彼も満更ではない様だ。
「………所で、こちらの方は?」
シュヴァルツ公爵は、とある男性を連れて来ていた。
公爵やヨーゼフの反応からなかなかに立場が上な人間だという事は分かった。
しかし、そんな雰囲気を一切感じさせない普通の人だった。
「彼は気にしないでくれ。ちょっと訳ありの人でーー」
「いや、挨拶くらいは大丈夫だろ? 挨拶が遅れて済まない。メルヘン公国第二王子のヒューカスという者だよ」
「あっ、貴方が……っ!」
それはこの国ではとても有名な王子の名前だった。
民からの信頼は厚く、農民たちと一緒になって畑を耕すといった事をされていると聞いていた。
「メギストスが襲撃して来たと聞いて止めに来たけど……要らなかったみたいだね。君にあっさり倒されたと聞いたよ。凄いね」
「ありがとうございます」
「そんな君に聞きたいんだけどさ……」
彼が向けた視線の先では、項垂れて燃え尽きた灰の様になっているメギストスの姿があった。
「何でメギストスはこんなになってるの? それに彼の部下たちも何故かげんなりしていたし」
「それはちょっとばっかし朗読というお仕置きをしたからですね」
「朗読?」
「ふふっ、コレですよ。コレ。メギストスの自信作です」
「んっ?…………こっ、これはっ!? うわぁ〜……」
俺が手渡したのがラブレターだと分かり驚きつつも王子は読み進めていった。
そして、読み進める内にその表情がげんなりしていく。彼もまた俺たちと同様にドン引きしてしまったらしい。
「……なるほど。コレを君が部下たちの前で読んだ訳か」
「いえ、俺は読んでないですよ。そういう約束だったから」
「えっ、そうなのかい? それじゃあ、誰が?」
「読んだのはーー」
バタッン!
「ユーリ君!可愛い男の子見つけた!持って帰っていい!!」
勢い良く開かれたドアからアディさんが部屋に駆け込んできた。
その脇には半ズボンを履いた従者見習いだろう幼い男の子を抱えていた。
「元あった場所に返して来なさい」
「えぇ〜っ!そんな子供を諭す親みたいに言わなくても〜」
「ごめんなさい! 直ぐに返させます! 本当にうちの母がごめんね、ユーリ君! 幼い君もごめんなさい!」
背後から遅れてやってきたエロースがアディさんを捕まえると皆に謝罪した。
その間、男の子を絶対に離そうとしないアディさんはある意味凄かった。
「いえ、お客様を満足させるのも従者の務めですので……というか、見た目が幼いだけで僕は人間族の20歳で成人ですよ。妻もいます」
『マジでっ!?』
この発言には部屋で聞き耳を立てていた殆どの人がツッコミを入れてしまった。世の中の不思議を垣間見た、そんな瞬間だった。
「なので、お客様とはいえ遠慮して頂けると……」
「あら、独り身じゃないなら君で色々することは出来ないわね。今解放するわ」
そう言って抱えていた従者を床に降ろした。
一体彼で何をするつもりだったのだろうか?
とりあえず、帰ったらローシュにチクろうと思う俺だった。
「母さんにはお説教が有るので再び失礼します」
「え〜〜っ」
不満そうなアディさんをエロースが引きずって再び部屋を後にした。
「彼女はまさかラブレターの宛主かい? なら、読んだのは……」
アディさんを見て王子も色々察しがいったらしい。
「ええ、そうです。しかも読み終えてから「気持ち悪いわね」というトドメの一言付きで……」
アディさんの朗読でメギストスのライフはゼロになった。
そこへお願いしていないが彼女の発言。それが完全な決めてとなってメギストスは召されてしまったのだ。
そんなオーバーキルに俺は少し同情してしまったよ。
「……さて、この後なんだけど。良ければメギストスと一緒に王城へ来て貰えないかな? 国王も話を聞きたいそうなんだよ」
という事で王子たちと一緒に王城へと行く事になった。
「お主。そこまで落ちていようとは……」
報告を聞いたメルヘン国王は深い溜め息を漏らした。
「違法植物の持ち込み栽培。魔物の輸送。貴殿は国の為に尽力してくれたが、どれを取っても重い処罰なのは変わらぬな」
「そんな………」
メギストスは青褪めて、それ以上言えない様だった。
「シュヴァルツ公爵。植物の件は冒険者ギルドと協力して手を回してくれて助かった。物が物なだけに他の貴族からの反発は無かったか?」
「ご安心を。依頼主の名を部下たちにして分散させましたので。それに回収した物は冒険者たちに悪いですが、眼前で燃やすという行為を取らせて貰いました。
また、森に残っていた物は彼の手で処理も終わってます。一応調査はする予定ですが大丈夫でしょう」
「それなら安心出来そうだ」
メルヘン国王はそれを聞いて、ホッとしたらしく顔が緩み好好爺然とした風貌へと変わっていた。
「ユリシーズ殿たちやエドワードには大変な迷惑をお掛けした。全ての処理が終わるまで王城でゆっくりして下され。歓迎いたします」
「それではお言葉に甘えさせて頂きます」
メルヘン国王の好意により王城へと宿泊する事になった俺たち。
まさか、それがあんな事になるとは、この時俺たちは思いもしないのであった。
今までで一番間が空いた気がします。
慣れない話に日々の仕事。休みの日くらいは頑張りたいものです。