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真夜中の来訪者

 誰もが寝静まった真夜中にラインヴィス孤児院の扉を叩く者がいた。


「夜分にすみません! 何方かいらっしゃいませんか!?」


 ドンドンドン!と切迫詰まった形相で叩く者は女性で、傍らには指を咥え眠そうにしている幼子の姿があった。


「お願いします! 誰か来て下さい! 追われているんです! ここが駆け込み所だと聞きました! もう私たちには頼る所がここしか……」


「安心しな!今来たよ!!」


「っ!!」


 女性の必死さが伝わったのか、扉の向こうへ伝わり女性の返事が返ってきた。


「今扉を開けるから中に入りな!」


「ありがとうございます!」


 そして、女性の言葉通り孤児院の扉は内側に開かれ、親子は転がり込む様に中へと入った。


「おっと! 大丈夫かい? そんなに慌てなくても見捨てはしないよ?」


 勢いのあまり倒れかかった母親を孤児院のシスターが受け止め、彼女に優しい言葉を投げかけた。


「追われるって言ったね? とりあえず、コレを頭から被っ……カルナっ!?」


「えっ?」


 シスターは腕に掛けていた布を母親の頭から被せようとした瞬間、その顔を見て彼女は母親の名を呼んだ。

 母親はそれに驚きシスターの顔を凝視する。そこには見知った顔があり彼女は驚きと共に目を見開いた。


「ミキ!? どうして貴女が此処に!?」


「それはここでシスターを……カルナ! コレを2人で頭から被って扉の裏に良いと言うまで隠れてな!! あと絶対に声は出すんじゃないぞ!!」


「えっ? ちょっ!?」


 ミキは布を手渡すとその手でカルナたち親子を扉の後ろへと無理やり追いやった。


「突然な……っ!?」


 その直後カルナの耳には複数の足音が聞こえて来た。

 カルナは子供を抱き寄せるとミキの指示通りに布を被り、子供の口を塞いで押し黙った。


「おい、シスター! 此処に子連れが来なかったか!?」


「おやおや、こんな夜分に大人数で物騒なこった? 騎士団の様でもないし何者だい? 相手によっては通報も視野に入れるよ?」


「余計な詮索はするな。命惜しくば我らの質問にだけ答えろ」


「お〜っ、怖っ。無闇やたらに女性へ刃物を向けるもんじゃないよ? 聞きたい事には答えてやるさ。刃物を引っ込めな」


「……良いだろう。それで何処に行った?」


 カルナには扉越しで声しか聞こえない。その為、ミキが命の危機を前に言うのではないかと恐怖に包まれた。


「アンタらが来たのに気付いて向こうに去って行ったよ」


 しかし、それは杞憂に終わりミキは嘘の情報を追手たちへと伝えるのだった。


「本当だろうな! ここが女や子供の駆け込み所だと知っているんだぞ!!」


「だったら、覗いて見ればいい。この短時間で隠れる場所は有るかい? 椅子の背は低いし、脚の隙間も有って下は見えてるだろ?」


「ムムッ、確かに……」


 布で見えないが確かにそんな感じだったなとカルナは思った。


「だが、魔法で隠れているかもしれない!」


「だったら、どうやって確認するよ? あまりにも手荒くすると分かってるだろうね? あの人を敵に回す事になるよ?」


「チッ……」


 ミキの威圧が聞いたのか、彼女を問い質していた男は悪態をついた。


「(……あの人って誰?)」


 男の態度からそうそう手を出せない相手だと分かるが、この場所を最近知ったカルナには分からなかった。


「安心しろ。その建物には目的の奴らはいない」


「ダンナ!!」


 そこへ新しい男の声が聞こえたきた。どうやらミキの前にいる男より立場が上らしい。


「……なんで分かるんだ?」


「魔力感知。それを使って建物を調べさせてもらった」


「へぇ〜っ、それはまた。アンタはなかなかの手練の様で……」


「……そういう君もだろう? コイツがその建物の境界を越えようものなら殺していた筈だ」


「えっ?」


「お前は気付いてないみたいだが、その女性は刃物を突きつけられた瞬間から半歩引いて背中の武器に手を掛けてるぞ」


「全部見通しておいて良く言うよ。でも、一部訂正。殺す気はないさ。ここは歴とした孤児院だからね。そんな汚らわしい状態にしたくないのさ」


「それは失礼。私もまだまだの様です。……今から去りますので、我らが来た事は不問にして頂けませんか?」


「それはアンタらの出方次第じゃないかな?」


「それではこれで……」


「……あぁ〜っ、煩いと思ったら酔っ払いの暴走だよ。勘弁して欲しいね」


「おい、急げ!結構時間を食ったから逃げられるぞ!!」


 その後、複数の足音と共に周囲を包んでいた空気が柔らかくなるのをカルナは感じた。


「アイツらとの距離は……問題なし。周囲への伏兵も……なし。硬貨の方も細工は無しと……」


 ミキはブツブツ呟いた後、孤児院の扉を閉めると内側から鍵を掛けた。


「もう大丈夫。アイツらは遠くへ行ったみたいだ。怖かっただろ?」


「ええっ、魔力感知で調べたと言われた時は驚いたわ」


「だろうな。でも、それを身に着けている間は気付かれないし、魔力感知では見えない様に細工されてるから一応布は羽織っておきな」


「そうさせて貰うわ。うちの子も寝ちゃった事だし」


 カルナは布に包まれて寝ている我が子を愛おしそうに見つめるのだった。


「疲れたろう? 部屋に案内するから休みな。事情は明日ゆっくり聞くからさ。お腹減ってるなら何か用意しようか?」


「そんな事までお願いしちゃって良いの?」


「うちのダンナの頼みでも有るしね。それにアタイはダンナに借りがあるから手を抜けないよ」


「……ミキは冒険者を辞めちゃったの?」


「うにゃ、辞めてないよ。たまに気晴らしでクエストに行ってるさ。……着いたよ」


「えっ!? こんな所に泊まって良いの!?」


「あぁ、ベットもふかふかだから良く眠れるだろうよ」


 カルナの目に飛び込んで来たのは、孤児院とは思えない程の家具が整えられた部屋だった。


「寝間着とかも衣装ダンスに有るから自由に使ってくれて構わない。それじゃあ、また明日な。一応隣の部屋だから何か有ったら呼んでくれ」


 そう言ってミキは部屋を去って行った。残されたカルナは子供をベットに寝かせ、自分もダイブした。


「柔らかい……」


 想像以上の柔らかさにカルナの力は抜けていった。

 そして、今までの疲労が押し寄せ沈む様に意識が落ちて行くのだった。

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