太った原因
アイリスたちがダイエットを始めて2日が経過した頃。
「ただいま帰りました、アナタ♪」
「お帰り、カリス。ギンカも護衛ありがとうね。どうだった?」
「はい。色々と勉強になりました」
商談に出掛けていたカリスさんとギンカが帰ってきた。
「マーキングもされているのでいつでも転移可能です。あとでご案内します」
「助かる。本当は俺も行きたかったんだけどね……」
今回の商談では女性モノのみを取り扱うとの事だったので男性の護衛は付ける事が出来なかったのだ。
そこで俺の代わりとしてあらゆる場面に対応出来るギンカを秘書として同行させた。
「カリス。ギンカの仕事ぶりはどうだった? 何か問題でも起こさなかった?」
「そうですねぇ〜、問題という問題は有りませんでしたがナンパは多かったですよ。尤も彼女が背後から爪を当てると皆蜘蛛の子を散らす様に逃げ出したのでお互いに被害も出てません」
「それなら良かったよ。良く耐えたな」
ギンカは色々とやり過ぎる節が有るので注意が必要なのだ。
俺は彼女へと手を伸ばし褒める様に頭を撫でた。
「面白いボードゲームも見付けて来たので、あとで皆でしましょう」
「あぁ、楽しみにしてるよ♪」
カリスが買ってくるボードゲームはどれもセンスが良くて俺も気に入っている。あとでの楽しみに期待がとても膨らむのだった。
「……それより、出掛けている間に何か有りました?」
「ん? 何か気になった?」
「いえ、その……」
カリスは俺の顔を見て、何かをとても言い難そうにしている。
「ご主人様。生殖のしすぎでは?」
「ちょっ、ギンカさん!?」
「まるで、干からびたグレイみたいですよ?」
「どんな状態!?」
ギンカの例えは良く分からなかったが、何となく言いたい事だけは伝わってきた。
「頬が少しコケてて身体からも水分が抜けた様子。まるで午前中のグレイさんみたいだからでは……? 私たちが居ない間に何かあったのですか?」
カリスの説明で納得した俺は彼女たちに説明する事にした。
「実はカクカクシカジカで……」
「「ダイエット?」」
「今ので伝わったの!?」
まさか、冗談で言った「カクカク……」で彼女たちに全てが伝わるとは思わなかった。
「冗談ですよ。今ので伝わる訳無いじゃないですか?」
「ですね!何で知ってるの!?」
「ここへ帰って来る前にセリシールに寄ったんです。従業員の間で噂になってましたよ」
どうやら情報源はセリシールだったらしい。あそこには嫁さんも多く働いてるから聞こえてくるわな。
「しかし、それとユーリさんの状態がどう関係するのですか?」
「……上下運動はカロリーをかなり消費するし、腹筋に効くというからね」
俺はその光景に恥ずかしさから顔を背けて呟いた。
「はい?」
経験の少ないカリスにはこの意味が分からないらしく、彼女は首を捻っていた。
場所を移して談話室。
「……つまり体重計に乗ったらいつもより太っていたと?」
「そういう事らしいよ」
「……その体重計はまだ脱衣場に有りますか?」
「どうだろう? この前からアイリスが持ち歩いてるしな」
「なら、ちょっと呼んで頂けませんか? 確認してみたい事があるので」
「ok。今から念話で呼んでみるね」
俺が念話で声を掛けるとアイリスは直ぐにやって来た。
「お待たせぇ〜っ、体重計だよね? はい、どうぞ」
「ありがとうございます。早速使いますね」
アイリスが持って来た体重計にカリスは颯爽と歩いて行き堂々とその上に乗った。
「ふむ。やはりですか……」
「カリスさん。何か分ったの?」
「ええっ、アイリスさんたちが太った理由が分かりましたよ」
「「本当!?」」
「はい、本当です。ユーリさん、このサイズの魔石を持って居ませんか?」
カリスは魔石の形や厚さを指を使って説明してきた。
「今……そのサイズは無いな。カットするよ」
「お願いします」
希望のサイズの魔石が無かったので、フラガラッハでカットして用意する事にした。
「はい、どうぞ。頼まれたサイズだよ」
「ありがとうございます。早速使いますね」
カリスは魔石を受け取ると体重計の裏側を開けて放り込んだ。
「コレで良し。試しに……うん。問題なさそうです」
その後、床に置いて実際に測ってみると納得の表情をしていた。
「はい、アイリスさん。コレに乗ってみて下さい。今なら本来の数値に戻ってる筈だから」
「えっ、本当なの!?」
アイリスは驚きつつもカリスから受け取った体重計に恐る恐る足を乗せた。
「…………っ!?」
彼女は最後まで恐怖に瞑っていたがゆっくりと目を空けて数値を見詰めた。
「痩せてる!痩せてるよ!! 私の知る結果よりも!!」
「マジで?」
どうやら把握していた体重よりも痩せていたらしく、アイリスの表情は晴れ晴れとしたものになっていた。
「何が原因なの?」
「魔石の質が悪かったのとエネルギー供給が弱くなった為ですよ。そのせいで各所まで魔力を回せなかった様です」
どうやら内蔵されていた魔石が原因だったみたいだ。
「皆にも伝えてくるよ!!」
そう言うとアイリスは部屋を走り出していった。
その後、皆も呼んで測ってみると体重は本来の数値へ戻るか、もしくはダイエットが成功して減っていたのだった。
「………」
ただし、例外が1人いた。
「ユーリさん……」
泣きそうな顔でこちらを見詰めるミズキ。彼女の体重は増加仕様の体重計でも痩せていた。
つまりはその分も含めて何が減っている訳で……。
「おっぱいが……私のおっぱいが出なく……」
どうやら妊娠によるブーストが終了したらしくカップが下がったらしい。その上、子供たちが乳離れしたのでミルクの生成も止まったのだとか。
「ユーリさん! 二人目を! 二人目を作りませんか!」
「いやいや、急過ぎでしょ!?」
「だって、せっかくあそこまで大きくなったのに……!!」
「その……マッサージは手伝うからまた頑張ろうね」
これ以降、ミズキのモーションが強くなる。それが落ち着くまで半年を要するのであった。




