冒険者カード
「フィーネ。ミルクを頼む」
「はい、只今ご用意します」
最初は、彼女のミルクに抵抗があったが、一度飲んだら抵抗がなくなった。
美味しいからかもしれない。
初めて飲んだとき、あまりの美味しさに衝撃を受けた。
今まで飲んだミルクの中でダントツだ。
濃厚なコクと程よい甘さ。
後味すらスッキリとして最高だった。
2日おきに搾乳する必要もあるので、量もある。
料理に使うのも有りかもしれない。
お菓子に使ってみたが、有りだった。
当然、普通に飲むのもいい。
糖分が欲しくなる疲れた時や頭を使う時には最高だろう。
そう、今みたいに。
「アイリス、マリー。詳しく聞こうじゃないか?どうしてこうなってるんだ?」
「それは……」
「ですね……」
2人の目が泳いでいる。
俺の手には、冒険者ギルドのランクカード。
Aランクになった事もあり、金色のカードになった。
が、名前の所に注目。
登録者名:ユリシーズ・
ユリシーズ……。俺の名前は、ユーリ・シズ。
繋がって、発音も変わってる。
登録者名は、任意だから偽名でも大丈夫。
だけど問題はそこじゃない。更に、注目。
登録者名:ユリシーズ・ヴァーミリオン
はっはっは、ヴァーミリオンだってよ。
ヴァーミリオンというからには竜種が関わっているのが分かる。
ヴァーミリオンを名乗るという事は、竜種に喧嘩を売るのと同じだからな。
「ギルさんが、アイリスたちに聞けと言っていた。な、ん、で、かな?」
笑顔で2人に問いかけた。
********************
「まさか、来てそうそう絡まれるとは……」
アイリスたちが採寸や調整で時間かかるから、俺はギルドカードを受取りに来た。
ギルドに入り、冒険者受付に向おうとしたら、このオッサンに絡まれた。
「おう、兄ちゃん。お前、冒険者だな?」
「はい、そうですけど?」
何か問題でも有るのだろうか?
「だというのに、俺への挨拶が無いとはどういうこった?」
そもそも誰?
「今更ですが、どちら様で?見覚えがないのですが?」
何処かであったかな?
城?市場?雑貨屋?
「何ぃ!?俺を知らないだと!?」
「忘れてるだけかも知れないので名前お願いできますか?」
顔を覚えるのが苦手だしな。
「俺は、バルト。Bランク冒険者だ。実力ランクB+なのに知らねぇのか?」
Bランク。俺より下だ。
だけど、実力ランクはB+になるのか。
冒険者ランクは、2つの項目の総合になっている。
1つは、実績ランク。どんなクエストを受けたか?
クエストポイントの合計でランクが決まる。
俺の場合、総合はAだが受けた事が無いので最低ランクのEだ。
もう1つが、実力ランク。どれ程の戦闘技能があるのか?
俺は、これがAだな。
この2つの総合によって冒険者ランクは決定する。
ただ、クエストを振るとき実力ランクを優先する。
実績ランクは、単純に数をこなしたり、高難易度クリアで稼げるからだ。
だから、実力ランクを気にする者も多い。
余談だが、SランクやAランクは次元が違うとされ、実力ランクのみになっている。
クエストも実力ランクBでは、到底無理なものばかりの為だ。
「やっぱり、初対面か。どうりで思い出せない訳だ」
「ホントに知らねぇか!?」
「うん、知らない。というか、退いてくれません?」
「先輩に対する口の聞き方学んだら通してやる」
通ろうとすると立ち塞がる。うざいな。
「おや?あれは、何です?」
適当にテーブルの物を指さした。
「あん?どれだよ」
視線が外れたすきに転移して受付へ。
受付のお姉さんに要件を伝える。
「ギルドマスターに、ユーリがカードを受取りに来たと伝えて下さい」
「あら?ユーリさん?コート姿しか知らないので、一瞬分かりませんでしたよ」
それで絡まれたのか。次から着て来よう。
「今、服を買った帰りなんですよ。要件お願いします」
「なるほど。では、直ぐに伝えますね。後ろの方が待っているみたいですし」
怒ってる気配がビシビシくるよ。
まぁ、会話に乱入されないだけマシか。
「ここでの暴力規定ってどうなってます?」
「殺傷でなければ許されますよ。各自の自己責任なので。そもそも、アイツ調子に乗ってるのでやっちゃって下さい。いつもいつも殺意が湧いてきりがないですし」
なにか恨みがあるようだ。
「なんでまた」
「最近、ランクが上がって浮かれてるんですよ。いい機会です。ランク上位者に喧嘩売ったんです。実力の程を知るべきです。他のギルドならいざ知らず、うちにはBランクがゴロゴロいるのに……」
「分かりました。恐怖を与えるだけにしておきます」
「残念です。顔を腫らすくらいをお願いしたいのに」
「寧ろそれだと彼の仕事に影響出そうですしね」
スカイダイビングの刑にしよう。
後ろを振り返ってオッサンに言う。
「オッサン。とりあえずーー」
バン。
左頬に少し痛みが走る。軽く殴られたようだ。
「無視するとはいい度胸じゃねぇか?俺が差を教えーー」
「お姉さん、前言撤回。一発殴る」
顔だけ後ろに向けて言う。
お姉さん、指を立ててゴーサイン出している。
「お前、なに言ってーーぴぎっ!?」
ベキッ!
と、鈍い音を立てて建物外に吹き飛んでいった。
骨の潰れる感覚がしたから鼻は折れただろう。
「下手に出てりゃいい気になりやがって、少しは反省しろ」
「ざまあみろ」
背後からお姉さんの声が聞こえて来た。
振り返ると「ユーリ様。ギルドマスターが上に来る様にとの事です」と、凄い晴れやかな笑顔でそう告げてきた。
「下が騒がしかったが何かあったのか?」
「絡まれて殴られたので、殴り返しました」
「あぁ〜、それは災難だったな。結構いるんだよ。格差を付けたがる奴ら」
ギルフォードさんは、呆れて溜息をついている。
「これ、カードな。ランクが上がっただけで特典も変わらん。むしろ、受けられる所が増えたくらいか」
特典とは。
ギルド提携宿の利用料割引。
冒険者は、拠点を置く者も多いので役に立つ。
それと通行手形だ。
国に入るとき通常ゲートとは違い、貴族エリアから入れるので速く入国出来る。通常ゲートだと、5時間待ちとかザラらしい。
「それじゃあ、項目に誤りがないか確認してくれ」
金色のカードを受取り、記入内容を確認する。
「………」
即刻、間違いに気付いた。
ギルフォードさんが気付かないのがおかしい程のやつ。
わざとか?ここまで堂々と書いてあるのに?
他人のかもと思ったが、従魔欄にエンペラースライム。
名称、アイリスと書いてあるから俺のだな。
「ギルフォードさん、この名前ーー」
「言い辛いだろ?ギルで良いよ」
「ありがとう、ギルさん。で、この名前何?」
ギルフォードさん、改めギルさんに問う。
「マリーとアイリス君に聞いた方がいいな。これは俺が言える事ではないし」
「そこをなんとか教えて下さい!」
「大丈夫。帰ったら分かるよ。それに冒険者は偽名を使う者も多い。それに、竜種が認めたんだ。悪い話ではないさ」
それから何度聞いても、苦笑いされながら流された。
なので、帰ってから2人に問いかけたのだ。