職業スキル
「職業スキルとは、複合スキルの名称でね。例えば、魔道師なら最低でも魔力増加C・詠唱加速B・思考加速なんかが付く。だから、欲しい効果に適したモノを提案しよう」
言語に肉体と来て、特には……あっ。
「向こうは、こっちとは食材なんかも違うのですか?」
「あぁ、違うよ。モンスターを解体してその肉を食べたり、植物なんかも魔力の影響でこっちと形状が違う物もある」
「では、それに関するものを下さい。知らない食材を解体したり、調理したりしたいので」
「それなら……料理人はどうだろうか?鑑定で食用可能か見られるし、香辛料等の知識や加工が出来る様になる。ついでに簡単なレシピも取得出来る」
「それをお願いします」
「これは、決定だね。なら、コレをあげよう。包丁にも武器にもなるから役に立つだろう」
何も無い虚空に手を入れると白銀の結晶を取り出した。
「手を出して」
言われるままに手を出すと掌の上で溶けて消えた。
「!?」
「よし、じゃあ、包丁の形をイメージして」
手元に白銀の包丁が現れた。
「消えろと念じれば消えるよ」
消えろと念じると、フッと音も無く消えていった。
「これで出し入れ自由だし、離れていても消せば、手元に戻って来るよ。イメージ次第で形状が変化するから武器にもなる」
「いいんでしょうか?こんな良いモノを貰って」
「私が良いと言っているから良いんだよ。倉庫にしまっておくより誰かに使われた方が、武器も嬉しいだろうさ。後は、4つだね。次は、どうする?」
やはり、食に関する事だろうか?
加工出来る様になったから、加工前の物を栽培したい。というか、農業って少し興味がある。
「野菜や果物の栽培がしたいです」
「それなら、農家が1番だね!ついでに薬師はどうかな?」
「薬師ですか?」
「薬草の知識とポーションの作成技能が付いてくるし。手に職を持つと助かるのは経験済みだろ?」
確かに手に職があった方がいい。それは、異世界でも同じなのだろう。
「では、それで」
「これで3つ決まったね。後は、2つ。この調子で決めちゃおう」
普通に暮らす分には十分な気がするが……暮らしね。
「建築関連はどうでしょう?家を建てるという意味で」
「う〜ん、こっちと違って、あの分野は細かいからなぁ。ならいっそ関連を纏めて、新しく創るか?そうだ、そうしよう」
「そんな手間かけなくても大丈夫ですよ」
「良いの良いの遠慮しないで。では、創る人というスキルを用意したよ。名前の通り、色々な創るを混ぜた新しい職業スキルだ」
なんと、わざわざ俺の為に新しいスキルを創ってくれたらしい。
「後、1つどうしようか?」
食う・寝るは、満たされてるから特に思い付かないんだよね。
「う〜ん、流石に思い付かないです。暮らすには十分なモノを貰いましたし」
「なら、最後はこっちで戦闘モノを入れとくよ」
「お願いします」
こればかりは任せた方が無難だろうと思う。
「これで準備完了かな?いや、自分の適性魔法くらいはサービスしないと」
そんなにサービスして大丈夫ですか?
心の中で思ったが、そこは神様。全てが聞こえていた様だ。
「良いんだよ。私は、実は偉いし。さて、君の属性は、空の様だね」
空? 知識の少ない俺でも始めて聞く属性だった。
「空間魔法の事だよ。魔法としては、空間の転移や入れ替えが定番なアレだね」
それって、“時“に次ぐ有名なチート属性なのでは?
「現象をイメージ出来ないのが原因だね。そのせいで、呪文を知っていても使えないんだ。
君は、あまり見る余裕が無かったとはいえ、アニメや漫画で馴染みがあるから簡単なイメージくらいは出来るだろ?
だから、使えるんだけど、こっちの子はそれすらも出来ないんだよね」
イメージと言われても、一瞬で消えて違う場所に現れるとかそんなイメージしか思い浮かばないのだけど。
「魔法ってのは、結局、イメージだから出来ないモノは詠唱する事で形を造るって流れになるんだよ。だから、人によって詠唱が違う事も多々あるね」
「そうなんですね」
凄い重要な事を聞いた気がする。
「それじゃあ、はい」
ポンポンーーと、頭を軽く数回叩いた。
「ーーッ!?」
意識が一瞬、知識の濁流とでもいうものに流されかけた。
「ついでに、ルーン文字っていう簡単な魔法も付けたよ。空間魔法だけじゃ、心許無いからね。さて、最後は行き先だね。街の中……は、無理だから郊外なら大丈夫。それとも森にでもする?」
それには、しっかりとした希望がある。
「森がいいです!」
「森ね。分かった。細かい要望はある?」
思い付いた事を全部言う。
「街から離れ、人の少ない所がいいです。後、食料が豊富で気温が安定していると助かります」
とりあえず、人から距離をおいて落ち着きたい。それと、お腹が減るのは辛い。寒いのも、辛い。
暑いのはまだなんとかなるが、これらは経験から来る避けたいものたちだ。
「……いくつか候補はあるけど、スキルとの相性を考えるならここかな?
カリーナと呼ばれる森がある。人は、いないけど亜人が少し隠れて居るよ。周りを山が覆っているから街もないし。スキルを使えば山を超えて側の街に行けるだろう。
しかもこの土地は、大昔の地殻変動前は海だったから土から塩を採取出来るし、岩塩なんかも山に近付けばあるよ」
「そこでお願いします。人には、水と塩は重要なので」
「分かった」
言い終わると虚空に文字を書き出した。足下が輝き始める。
「君の第二の人生が良きものとなる事を祈っているよ。
お金が必要なら冒険者ギルドにモンスターを狩って持って行くといい。一般でも買い取って貰えるから大丈夫だろう。
本当は、現物を渡せたら良かったんだけど持ってなくてね。
それじゃあ、ここから先は手を出せないからごめん。でも、見守ってはいるから頑張って」
「ありがとうございます!」
十分過ぎる程に色々頂いた。感謝の念に自然と頭が下がる。
頑張って! 本当に、そう思ってくれている様だった。
そして、光に包まれた。光が弱まると俺は森の中へ佇んでいた。
服装がいつの間にか、病院服から変わっている。特に高そうな真紅のコートを着ていたのだ。触り心地はとても良く、着ていて気持ちいい。
名称:神衣・真紅
レア度:S
性能:自己修復。気温調節。防刃。防水。防魔。
後で確認したらポケットに、"心配なので、これをオマケで付けます"と書かれたメモ紙が入れられていた。
晴れ渡った空、久しぶりの日光は眩しく感じる。
第二の人生。応援してくれるヒトもいる『頑張ろう』そう思えた。