デバフ? いや、詐欺です!!
リリンを追って転移トラップに引っかかった俺は転移先で一人のエルフに助けられる。
彼女の名前はシルビア。
シシネたちが暮らしていた隠れ里『シロナ』を崩壊させた罪人とされている女性だ。
彼女と話す内に里を燃やした真実を聞かされた。それはとても悲しい事件だった。
そして、現在。
「周囲を取り囲む屈強な男たち……。何をやらかしやがりましたか、リリィ?」
いきなり襲われかけたので障壁を張り、俺は隣にいたリリィにそう問いかけた。
「あははっ、ちょっと交渉が決裂しちゃって……」
そう言って目を逸らすリリィ。どうやらこの状況は交渉が決裂した結果によるものらしい。
「とりあえず、経緯はまだ良く分かって無いけど……今は聞かないでおくよ」
「助かるわ。流石は私の旦那様♪ 愛してる♪」
「……それで幾ら積もうとしたの?」
交渉といえば金銭だろうと軽い気持ちでリリィに聞いてみるとその返答は酷いものだった。
「ゼロ。硬貨は1枚も渡さない。シルビアから手を引かないなら拳で語る事になるってユーリ君が言ったら交渉が決裂したのよ」
「そりゃあ、交渉も決裂す……俺がっ!?」
「そうそう。ユーリ君の身体でユーリ君の口からリリンちゃんが♪」
入れ替わっていたとはいえ、肉体は俺なので当然責任は全て俺へと返ってくる。
「アイツ、帰ったら覚えてろ!丸一日スライム漬けにして放置してやる!!」
「それ……彼女にとってはご褒美よ?」
どうやら俺には他人を叱る才能がないらしい。お仕置きなのにリリンを喜ばせるだけで終わりそうだ。
まさか、それが原因で俺へのイタズラを止めないのか!?
「………」
とりあえず、話を戻そう。
起きてしまった事はもう仕方ない。素直に受け止めるとして、早急にでも確認しないといけない事が有る。
「それでリリィ。どうやったんだ?」
「うん? 何が?」
「とぼけてもダメ!入替えの事だよ、入替え! 経口摂取なら確かに一瞬だけなら効くかもけど今回はどうやったんだ?」
それは入れ替わってからずっと感じていた事だ。
俺の肉体はバフは効くがデバフは直ぐに耐性が出来るので無効化される。
しかし、今回の様な強制的な入れ替わりともなるとそれはデバフの領域だ。
効果を受けやすい経口摂取であってもこれだけの長い時間解除されないのはおかしい。しかも解除されたタイミングから見て故意に解除したとしか思えなかった。
「あぁ、それね。なんて事はないわ。だって、ユーリ君の同意を得た上での個人契約によるものだから」
「ふぁっ!?」
「あっ、やっぱりユーリ君は気付いてなかったのね? キャンディの包みが妙にカラフルなデザインだと思わなかった?」
「それは思った。一般的な物はシンプルな物が多いから……」
基本には単色かもしくは水玉模様の物が主流として出回っている。
「実はそのキャンディの包みが契約書になっていたのでした」
リリィ曰く、キャンディの袋に記されていた契約の内容によるものが原因らしい。
契約にはサインして発動する物と自身の行動により発動する物がある。今回は後者の様だ。
そして、内容なのだが包んであった2つのキャンディをお互いに同意した上で1つずつ食べている事が必要だったらしい。
そうする事により魔法は発動。キャンディが体内に存在する間は魂を交換する事ができ、何方か片方でも欠けると解除されるものらしい。
「これが証拠よ。」
リリィは胸元を漁ってキャンディの包み紙を取り出し見せてきた。
その包み紙は正方形を四面に色分けしたもので、ピンク色と青色が斜めに振り分けられていた。
そして、青色の方を良く見ると……。
「詐欺じゃん!?」
それはピンクの紙に青文字で書かれた単色に見える程の細かい文字の羅列であった。
「そして、同意は口移しで得たそうね」
普通のキャンディキスのつもりでリリンから口移しで貰い飲み込んのだが、まさかそんな狙いが有るとは思いもしなかった。
「ユーリ君はギンカちゃんの事を"キス魔"って言うけど、貴方もそれに負けないくらいキスが好きだものね。お陰で上手く行ったわ」
リリス、リディア、リリア。君たちのお母さんは俺すらも手玉に取る魔性の女だった。面目ない。
「あと最後に質問。ここ竜王国内じゃないよね?」
花街を歩いていた時に気付いた。街の建物が煉瓦造りだけだったのだ。
竜王国では資源が豊富な為に木造建築が多い。または切り出した石とも混合して耐久を上げたものとなっている。
ここまで煉瓦を多様するともなると木や石の資源が少なく、職人である人族や獣人族の多いエリアとなる。
「ベルトリンデ王国の属国『ガルガ』。そこでベルトリンデの転覆を目論む裏組織の拠点よ」
はて? そこは奴隷商とかではないのか?
そんな俺の疑問を他所にリリィは続けた。
「彼らはクズノズク王国と手を組んで甘い蜜を吸ってたみたいね。だから、あの国が潰されて恨んでいるみたいよ」
「よし、潰そう!」
あの国絡みなら奴隷商もするわな! もう一切手加減しない!
「うちの嫁さんたちが来なかった事に感謝するんだな」
来ていたら俺以上にブチ切れていただろう。
そう思いながら俺は英雄覇気を纏って障壁を解除した。
その日、ガルガのとある街に建物を丸ごと飲み込んで天まで届く氷結が現れるのだった。
後に建物へ救助に入った者はこう告げた。
「誰も彼も膝を抱え怯えていました。凄い怖い思いでもしたのでしょう」
事情聴取にて彼らは牢屋に入る事を望み、喜んで罪を暴露した事で即座に逮捕と幽閉が決まった。
その後、証言を元に調査が進められ話にあった通りの国家転覆罪の証拠が山ほど出て来た。
しかし、有る筈の物は見つからなかった。組織によって蓄えられた財産や地下に幽閉されていた奴隷たちが全て消えていたのだ。
状況から騒動の最中に組織から逃げ出した奴隷たちの手によって盗まれたのだと処理される事になった。
「……ねぇ、リリィ。その肩に担いだ袋は何?」
「うん? 彼らが稼いだお金。国に取られるくらいなら奴隷の子たちやシルビアの慰謝料にしようと貰ってきた」
それら全てがユーリとリリィが持ち出したものだとは誰も知る由がない。




