塩味なのは、まさかの……
無罪を勝ち取り小躍りしたくなる気分を抑えて俺は話の途中から気になっていた事を尋ねた。
「なぁ、アザラシのお肉って美味しいの?」
彼女たちにとって唯一のタンパク源だったアザラシの肉が気になったのだ。
「うん? まだ有るけど食べる? さっきくれた物のお礼に」
「良いのか?」
「良いよ良いよ♪ これなら食べやすいでしょ?」
「他の2人も食べる?」
「えっ、良いの!? 私も気になってたんだよ!」
「美少女の服を食べる……あっ、鼻血が……」
早速色々妄想したらしいエロースは鼻血で血溜まりを作り始めた。
何時もの事なので普段通り造血剤を渡しているとリナたちが動揺した。
「ちょっ、お姉さん! 大丈夫っ!?」
「どっ、どうしよう!? このままだと天使のお姉さんがっ!?」
「「「あっ、何時もの事なので」」」
「「何時もの事なのっ!?」」
姉妹らしいピッタリとしたツッコミに少し感動した。
「そうだ! お肉を食べると血にもなるって……」
そう言うとリナは立ち上がり、アザラシの皮にも変化が起きた。
アザラシの皮は内側からなら開け閉めなど自在に調整出来るらしく、リナは頭や手足を出す格好になった。
そして、ここを食べろと言わんばかりに胸元を開いて見せた。
「ちょっ、リナちゃん!? 何考えてるの!?」
流石に姉のこの行動には妹のサナも驚きの声をあげた。
「だって、少しでも血を増やさないと……!!」
「そっ、それはそうだけど……」
「それにこの形態になると胸元がキツくなるから丁度良いしね」
リナは胸元がキツい事をアピールする様に胸元を引っ張ってパタパタさせた。
それによりしっかりと垣間見える "I字"の谷間は彼女の大きさを物語っていた。
「はうっ!?」
そして、それがトドメとなる。エロースは出血のあまり勢いを増して吹き飛んだ。
「「えっ、エロースっ!?」」
「ふっ、2人とも……私のお墓には毎日欠かさず美少女の裸写真をお供えしてね……ガクッ」
倒れ伏したエロースはとても幸せそうな笑みを浮かべていた。
「いや、供えないからな」
「造血剤は私が打ってあげるね」
アイリスにポーションを渡すと、彼女はそれを飲んで指先を針の様に変化させるとエロースを刺した。
あとはアイリスに任せておけば大丈夫だろう。
俺はリナたちの方を向き直るとリナの隣から殺気が上っていた。どうやら元凶は胸を抑えたサナの様だ。
彼女からはミズキやユキと同質のオーラを感じる。さっきの発言とパタパタが原因なのだろう。
「爛れろ。脂肪……」
「なんか、サナ怒ってない!?」
リナは自身が原因だと理解していない様だった。
「いつもいつも重くて肩が凝るって言う癖に……そんなに乳が良いのか? 動けないくらい大きくなってしまえ。うふふふっ……」
サナはぶつぶつと呟きながらダークサイドに落ちて行く。
「サナっ? サナ!? 帰って来て!!」
その後、リナが必死に呼び掛けることでサナはダークサイドから帰還するのだった。
「それよりお姉さんは本当に大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だよ。アイリスが造血剤打ったから」
「そうなの? 良かったぁ~」
リナはそれを聞いて安心した様だ。
「でも、よく注射出来たね。注射って難しいから普通のお医者さんは出来ないのに」
この世界では魔法やポーションでの治療が主なので、衛生上の問題が起きやすい注射が使われる事はほとんどない。
「アイリスは俺以上に注射してるからな」
エロースが飲めないレベルの時は基本アイリスが注射をしてくれる。
「そうそう注射の扱いは得意なんだよ。1日3回くらいするしね」
「うんうん……はい?」
そんなにアイリスは注射を打っていたっけか?
「ユーリのぶっとい注射で毎日遊べば当然だね♪」
「ぶっ!?」
アイリスのあまりの発言に吹いてしまった。
俺は訂正する為に慌ててリナとサナを見た。
「凄い!つまりスペシャリストって事だよね!!」
「~~~っ!?」
目を輝かせながら無邪気な反応を見せるリナと全てを悟り顔を真っ赤にして手で顔を塞ぐも俺の下半身が気になり指の隙間から覗くサナ。姉妹なのにあまりにも対象的だった。
「量も凄くてね。毎回パンパーー」
「リナ!アザラシの肉を分けてくれないかな!? アイリスが食べたいみたいなんだ! 剥ぎ取るにはこれを使ってくれ!!」
「えっ? えっ? うん」
俺はこれ以上アイリスが口を滑らさない様に口を塞ぎ、剥ぎ取り用のナイフをリナに渡した。
リナは困惑しながらもアザラシの皮の内側をナイフで剥ぎ取りだした。
「はい。2人の分だよ」
「あっ、ありがとう!」
「俺にもくれるのか? 有り難く貰うよ」
アイリスの関心はこっちに変わったので手を離し、2人でアザラシの肉を口に入れた。
「あぁっ!? …………遅かったか」
その様子を見てたサナは失敗したかの様に顔をしかめていた。
「これはそこそこ……」
「非常食の干し肉よりもしょっぱく無いし美味しいね」
アイリスの感想通り、干し肉は保存性を高めるために大量の塩でコーティングされておりしょっぱい。
しかし、今回食べたアザラシの肉は適度な塩気で美味かったのだ。
「…………」
ただ、俺たちが美味いと言うとサナが複雑そうな顔になるのがやたらと気になった。
「リナ。この肉には何か施して有るのか? 適度な塩分で美味いのだが」
「それね。初めて食べた時からなんだよ。皮の加工で何かしたのかもね?」
「えっ? 前に言ってた事は本気だったの? まさか、だからそんなに気軽にあげれるの?」
「サナ?」
サナはリナを見ながら驚きに目を見開いていた。
「なぁ、サナ。この肉には何か秘密でも有るのか?」
「…………」
サナは少し思い悩んだ後にリナを見て口を開いた。
「アザラシの皮にはね。本来塩気なんて無いよ。加工の際に数日間水に浸してるから塩分が有っても抜けるし」
「えっ? でも、実際に……」
「リナちゃん。よく考えて。私たちが動いて体温が上がると自然としょっぱい物が出てくるよね?」
「動くと……っ!?」
リナは何で塩っ気がするのか気付いたらしく恥ずかしさで涙目になり顔を真っ赤にした。
俺たちも途中で気付き、まずそうに二人から顔を背けた。
「〜〜〜っ!」
そして、リナは恥ずかしさの限界を迎えて気絶するのだった。