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流氷

「おっ、ユーリの旦那とその御一行だ」


「相変わらず唐突にやって来るな……」


 転移でベレチアの町に着くと衛兵たちが真っ先に気付き声を掛けてきた。


「これはこれは……凄い可愛いらしいですね。旦那の趣味ですか?」


「全くべっぴんさんたちに囲まれて羨ましい限りですな」


「それで今日は皆さんと買い物ですか? それとも流氷の件でクエストを受けに?」


「魚の買い出しに来たんだけど……流氷?」


 俺が首を傾げていると話してくれた。


「知らないのですか? 毎年、この時期になるとベレチアの港に流氷が漂着するんでよ」


「へぇ〜っ、それは知らなかったよ」


 詳しく聞いてみると竜王国の港では結構有名な話らしい。

 場所によっては流氷で港が埋め尽くされるのでそれを見に内陸部からの観光客もやって来るのだとか。

 この世界に来てから約2年。結構常識を知ったつもりでいたがまだまだ知らない事の方が多い様だ。


「……それでですね。今年ベレチアに漂着予定の流氷はとても大きいらしくてこのままだと漁に支障をきたすそうなんですよ。だから冒険者ギルドに要請が入ったそうです」


「マジか。買い物前に寄ってみるよ」


 ベレチアの漁師さんたちにはいつも新鮮なお魚で世話になっているので助けになるのなら参加したいと思った。


 なので、早速俺たちは冒険者ギルドを訪れる事にした。


「衛兵に話を聞いたので参加しに来た!」


「また唐突だな……」


 ベレチアの冒険者ギルドを運営しているギルドマスターのトカレフさんは呆れ顔を浮かべた。


「まぁ、此方としては流氷の破砕が出来るほどの火力を出せる魔導師が少なかったから正直助かるが……報酬はあまり出せんぞ?」


「でしょうね」


 今回の依頼主は町ということも有って報酬は期待出来る。

 しかし、今回の様なクエストでは人数で分配される形式を取る。その為、本来Sランク冒険者に支払われるであろう最低額を下回る可能性が有った。


「無償で良いですよ。いつも漁師さんたちには世話になってますからね」


 市場で俺を見掛けると真っ先に新鮮でオススメのお魚を紹介してくれたり、欲しい魚などを頼めば数日中に獲って来てくれるのだ。この機会に恩返しするのも悪くない。


「お前なぁ……そう易々と安価でクエスト受けてると他から苦情が来るぞ。それに俺たちギルドにも立場ってもんが有るんだからな」


「俺としては人の役に立ちたいだけなんですけどね……」


「止めろとは言わんからほどほどにな。いっそのことギルフォードさんに頼んで、各ギルドが抱えている厄介なクエストをリストアップしてもらったどうだ?」


「確かにそれなら迷惑かけないかも……」


 クエストは別に自主的にしなくても良いランクだが、冒険者ならではのクエストを楽しみたいので後日お願いしてみよう。


「とりあえず、ユーリはクエストを受けるということで本当に良いんだな?」


「ええ、お願いします」


 それからトカレフさんが机から取り出した書類に俺がサインするとそれにギルドマスター印が押されてクエストへの参加が受理された。


「それでいつ出発なんです?」


「一昨日からギルド船の運航準備してたから今日の昼に出る」


「昼って……もう昼ですよね?」


「もう昼だな」


「……船は既に出港してません?」


「出港してるな」


 もうクエスト始まっとるやないかい!


「何で受理したし!?」


「俺は本当に良いのか?と聞いたぞ? それにユーリは空が飛べるだろ? 最低でも奥さんの誰かが? 出港してそんなに時間が経ってないから直ぐに追い付くさ。あっ、クエスト放棄は罰金取るからな」


「ドンチクショウ!!」


 俺は直ぐ様ギルドマスター室を飛び出して嫁さんたちの元へと駆け出した。


「ユーリ、どうしたの? そんなに慌てて?」


「……今から空を飛んで船に追い付くことになった」


『はい?』


 皆、俺が何を言っているのか分からないという表情をしている。


「とりあえず、理由は後で話すから……。くっ、マリーを連れて来るんだった」


 マリーは諸事情により急遽お留守番。彼女がいれば全員運べたのに残念だ。

 今連れてきた面子の中ではアイリスとエロースしか空を飛べる者はいなかった。


「アイリスとエロースは俺に付き添ってくれ。他の皆はお買い物を頼む。見極めで困ったらスルーズを頼ってくれ。スルーズは皆を見てあげてくれ」


「わっ、分かりました」


 突然のお願いにスルーズは困惑していたが引き受けてくれた。

 俺は後のことを任せてアイリスたちと港へと急いだ。


「やっぱり出てるやん……」


 港にいたギルド職員に聞くと30分程前に出たらしい。

 俺は魔法で身を包み、アイリスたちは翼を出して海へと飛び立った。





 それから数十分後、沖合いで足止めを食らった船を発見した。


「……何やってんの?」


「あっ、ユーリさん!たっ、助けて下さい!!」


 俺は船に降り立つとその光景にげんなりした。

 なんと冒険者たちが魔物に襲われていたのだ。いや、正確に言うと……組しかれて愛されていた。


 種族:ネレイス

 危険度:C

 説明:生活圏を海に持つサキュバスの一種。その性格は海の様に静かで大人しいが、繁殖期に入ると嵐の海の如く荒々しく精を求める。彼女たちと交わると快楽を通り越し裸足で逃げ出す程に搾られるという。


「はっ、繁殖期のネレイスに……んっ!? 喋ってるからキスは違う所にしてくれよ!遭遇して……んぐっ!? しゅっ、襲撃されました!」


「緊張感の欠片もねぇ……」


 俺に説明しようとする間も彼は抱き着いているネレイスからキスの嵐に有っていた。

 しかし、彼はまだましな方だった。周りを見渡すとモザイクが必要だなと思える程の醜態が広がっているのだ。


「これだとクエストも儘ならないな」


「ねぇ、ユーリ。ネレイスはある程度精を与えると大人しくなるから彼らに任せて先に行こうよ」


「そうね。私もそれに賛成。だって……」


「キャッチ! アンド……」


「「リリース!」」


 そう言って二人は俺に近寄ってきたネレイスを掴むと一緒に海へと放り投げた。


「このままじゃ、ユーリも襲われるよ。彼女たちの中にユーリの上質な魔力に気付いた娘が何人かいるみたい」


何人かのネレイスが目を輝かせてジリジリと近寄って来ているのが見えた。

 

「私たちを差し置いてユーリ君があの娘たちと交わりたいなら別に良いけど?」


「ノー!!」


 俺は直ぐ様否定した。

 何故なら彼女たちの背後では鬼神が肯定を許さないとばかりに睨んでいる様に見えた気がした。


「そっ、それじゃあ俺たちは先に行くからちゃんと自制して来いよ!」


 俺はそれだけ伝えると再び船から飛び立ったのだった。

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