日向ぼっこ
冬になり外が寒いせいか温室になっている植物園へ足を運ぶ事が多くなった。
植物園は花樹妖精のアミュウが住み着いた事も有り、以前より植物が活き活きとして手入れもしっかりと行き届いている。
「あぁ〜〜〜っ」
そして、そこを訪れた俺は何をする訳でもなく一面の芝生にシートを広げてゴロゴロするのだった。
「温かい……そして、眠ぃ……」
今日は外が晴れている事も有り日差しが植物園に降り注いでいる。元々温室として程良く温かい室内とガラス越しに降り注ぐ優しい光は一瞬で睡眠魔法宜しく俺を眠りへと誘うのだった。
「………」
なので、日課と成りつつある植物園でのお昼寝に到るのは自然な事だと思う。俺は陽気に包まれながら自らの意識を手放すのだった。
トサッ。
どれくらい寝ていたか分からないが突然俺の上に乗っかって来た衝撃に目覚めた。
「にゃ、にゃ〜……めっ、目が覚めたか……にゃ?」
「………」
俺はたどたどしく猫っぽく喋る声に誘われゆっくりと目を開けた。
するとそこに飛び込んで来たのは四つん這いになったアウラだった。ご丁寧に遊びで作ったネコミミを装着し、片手は猫の手みたいに曲げているのだった。
「何してるの、アウラ?」
俺は疑問に思いアウラに尋ねてみた。
「あっ、アウラ? だっ、誰それ? わっ、私知らない。私は猫型獣人のアウラだ……にゃ」
無理に"にゃ"を付けて強調するアウラだった。それが逆に偽物だと主張している事に気付いていない。
それに自分でアウラと名乗っているが気付いていないのだろうか?
「そうか。それでアウラちゃんは俺とどういう関係なのかな?」
とりあえず俺は面白そうなので乗ってみることにした。
「アウラじゃないって……にゃ。私はユーリの……旦那様の……ご主人様の……。うん、コレだ。ご主人様のペッ、ペットだ……にゃ!」
一応言っておくが嫁をペットだと思ってないよ。マジで。
「ほうほう。俺のペットねぇ〜。アウラちゃんの猫型獣人という自己申告も怪しいのに?」
「うっ、嘘じゃないわよ……にゃ! こっ、コレが証拠だもん……にゃ!」
彼女は俺の方へお尻を向けるとスカートの中から細長い尻尾が生えていた。
位置的にどんな風に繋がっているか気になるが突っ込んだら最後暴走しそうなのでスルーする事にした。
「尻尾が生えてるね」
「しっ、信じてくれたのね……にゃ」
「ああ、分かった。百歩譲って君が猫型獣人のアウラちゃんで俺のペットだと言う事が分かった」
「改めて聞くと凄いキャラよね?」
お前が言い出したんだよ!と口に出さずに心で突っ込むのだった。
「それでアウラちゃんの目的は何かな?」
一応黒幕自体は分かっている。
アウラを観察した時に周囲を魔力感知で探ってみた。そしたらリリィと出血で倒れているエロースを見付けた。
「もっ、目的か……にゃ?」
「そうだよ。わざわざ腹に乗って来るのには訳が有るんでしょ?」
「……めよ」
「うん、何?」
アウラの声は小さくて聞こえなかったので聞き返した。
「私に〜かまえよぉ〜」
「えっ、え〜〜っ!?」
かまえと言って俺をポコポコ叩き出したアウラ。彼女からは既に語尾の"にゃ"が消えていた。
「かまえって……だから、そんな猫っぽくしてるのか?」
「だって、こうでもしないと存在アピール出来ないんだもん!!」
「存在アピールって……」
「私なんて声が綺麗でそこそこ魔力が有るだけだから嫁の中だと影が薄くて……。だから、リリィさんに相談した……にゃ」
「つまり、存在アピールして俺の気を惹こうとしてくれた訳か?」
「うん。そうなる……にゃ」
なるほどね。嫁さんたちには1人1人気を配っていたつもりが良く見れていなかった様だ。
「アウラはアウラでいるだけで良いんだよ。わざわざそんな格好してペットだと言わなくても俺はアウラから目を離さないからね」
「ユーリさん……」
俺が手を伸ばして撫でると彼女はその手にスリスリと頬を擦り付けた。どうやらアウラは安心してくれた様だ。
「とはいえ、今のアウラは俺のペットらしいのでそれ相応の対応を取ろうと思います」
「なっ、何をするのだわさ!?」
俺が無理やりアウラを抱き寄せると彼女は耳を真っ赤にして動揺した。
「いや〜、一緒に寝てくれる相手が欲しかった所なんだよ」
「まっ、まさか!? ここでするつもりなの!?」
「う〜ん、似てる様で似てないかな? 抱き締めたまま寝るつもりだからアウラもリラックスしてね」
「ねっ、寝るってお昼寝っ!? 私はなんて勘違いを……っ!?」
「アウラが望むなら後でしても良いけど、今はこのまま眠らない? 気持ち良いよ? ほ〜ら、よしよし」
俺は子供を寝かし付ける時の様に頭を撫でながら背中を一定のテンポでゆっくり"トントン"叩くと次第に彼女の目が細くなる。
「あっ……本当に眠く……」
そして、アウラはうつらうつらと眠りに落ちて行き、そんな彼女を抱き締めながら俺も再び眠るのだった。
「あらあら、気持ち良さそうね」
2人が寝たのを見計らってリリィたちは起こさない様に近付いた。
「なんか、アウラちゃん。スッキリした顔してますね。コンプレックスの問題は解決したんでしょうか?」
「どうなのかな? 私はアウラちゃんがそこまで存在が薄くないと思っているからか相談にかこつけて遊んでただけだし」
「それは私も同じです。彼女はもっと自分が魅力的な女の子だと自覚すべきなんですよ。だから魅力を増す様にネコミミも用意した訳ですしね」
だから、2人は遊び半分で今回の提案に乗る事にしたのだった。
「……しかし、それにしても気持ち良さそうね」
「……私たちも添い寝しますか?」
「……丁度良い所に私レジャーシートを持ってるの」
「奇遇ですね。私も持って居るんです」
「「………」」
2人は無言で目配せするとユーリたちの隣に新しいシートを敷いて添い寝するのだった。
その後、植物園を訪れユーリたちの光景を目にした者は一人また一人と添い寝した。
そして、ユーリが目覚めた時には周囲で足の踏み場も無いほど沢山の嫁さんが寝ていたのは言うまでもない。