新しい商売始めます
召喚配達。
向こうではお馴染みのサービスを魔法技術で再現してみた。
「これがその起点なるカードね」
俺はカリスさんを含む協力してくれた皆へ試作品のカードを数枚差し出した。
そのカードの表にはまだ決めていない店の名前を入れる空白と配達員とのやり取りを行う為の念話の魔法陣、裏には和国の魔法技術である口寄せの魔法陣が施されている。
「……話は分かりましたが本当に可能なのでしょうか?」
「まぁ、そこは試験的なものだし。気軽に試してみてよ」
「ほう。なら、私が試そう」
そう言って真っ先にカードを受け取ったのは和王だ。
今回の口寄せ技術を使わせてもらう代わりに利益の3割を和国へ渡す事になった。
本来なら利益の半分以上でもおかしくないがそこまで使用の規制をしていない事や身内で有ることを理由に安くして貰った。
尤も召喚配達の開始と同時に特許申請を行うので今後の"口寄せ"使用には規制がされるようだけどね。
「これで念話すれば良いのだな?」
早速カードに書かれている念話の詠唱を言うと魔法陣が起動した。
「(こんにちは。召喚配達試験店です!注文をどうぞ)」
「おおっ、繋がったようじゃ! これからどうするのじゃ?」
「そうですね。とりあえず人数分の本日のオススメスイーツでもお願いします」
「あい分かった。本日のオススメスイーツを……」
和王は念話に慣れていないのか声に出してしまっていた。
「……追加で儂用にシュークリームにショートケーキ。後、特製マカロンを頼む」
この時知ったのだが和王は意外にも甘党でしかもメニューを知っていることに驚いた。
「(承りました。準備出来次第ご連絡致します。お客様にはそれまでにカードをある程度広く安定した場所に置いて下さい)」
「ある程度広い所と言われたぞ?」
「それはカードを起点に召喚陣を展開する為ですよ。最低でも2m四方は確保して下さい」
「なら、机の前で良いな」
和王様がカードを机の前の地面に置いてから数分後。
「(お客様。配達の準備が完了しました。カードの設置は宜しいでしょうか?)」
「(ああ、いつでも良いぞ!)」
「(それではカードからお離れ下さい。魔法を起動します)」
「今から来るそうだ!」
和王がそう言ったのと同じタイミングでカードに描かれていた魔法陣が展開し光輝いた。
「こんにちは♪ 配達に上がりました~っ!!」
『おぉーーっ!』
そして、魔法陣からは現れたのは和服姿に身を包みトレイを持った鬼人族の少女だった。
「彩音!!」
「お爺様。ご注文ありがとうございます♪」
現れたのが彩音と知ると和王はいの一番に駆け寄った。何故なら配達に来たのは和王のお孫さんで俺の奥さんだったからだ。
一応言うがワザとではない。俺自身彼女が来るとは予想していなかった。
「どうしてここに?」
「お爺様が来ていると聞いて、来る筈だったエヴァちゃんに代わって貰いました。それに一度召喚される体験をしてみたかったんです。とても面白い感覚でしたよ?」
「あ~っ、分かるわ。急上昇のような激しい感覚の後、ふわふわと降り立つ感じなんだよな」
「ええっ、まるでユーリさんに抱かれて絶頂を迎えた時の様な感じでした」
「彩音さん!? 別の表現は無かったの!?」
顔を赤らめて恥ずかしがる彩音。
お願いだからこの場でそんなことを言うのは止めて!? 和王とかなんか凄い怖い目で睨んでるんですけど!?
「とっ、とりあえず片道は成功みたいだね」
「ええ、問題有りませんでしたよ」
「なら、今度は帰りをお願いしたいんだけど……彩音は大丈夫?」
「はい、ちゃんと頂ける物を頂ければ帰ります」
彼女は支払いはトレイの上にと差し出してきた。
「そういえば、この場で支払いをするのだったな。彩音。今用意するから暫し待て」
「あっ、俺が支払うから大丈夫ですよ!」
和王が支払おうと懐を漁り出したので止めに入り、俺が代わりに支払った。
「ふむ。なら、儂は孫娘へのお小遣いとして渡そうかの?」
「結局渡すんですね……」
トレイには彩音へのお小遣いとして金貨が沢山積まれて行くのだった。
「まぁ、こんなに!? お祖父様、太っ腹です!!」
「そうじゃろう!そうじゃろう!!」
孫娘の褒め言葉に和王は嬉しそうにするのだった。
「それじゃあ、彩音。よろしくね」
「はい? ユーリさん、何を仰っているのですか? 貴方様個人からの報酬は頂いておりませんよ?」
「えっ?」
「報酬にユーリさんのした「ごほん!」……は無理そうですね」
『?』
恐らく何時ものノリで下着とでも言おうとしたのだろう。
しかし、如月がワザと咳き込んでくれたお陰で他の人には伝わっていないようだ。
「……でしたらキスをお願いします。ほら、今両手が塞がっているので無防備ですよ? お好きな所へどうぞ。場所はちゃんと見てますからね」
「あっ、そういうこと」
キスにはする場所によって意味があるのはご存知だろう。
例えば唇なら"愛情"、頬なら"親愛"といった具合だ。
「ちなみにオススメは太ももです。腰でも良いですよ?」
「「ぶっ!?」」
「ただ、お腹とかにされたらどうしましょう?」
「しねぇよ!? そもそもこの場で出来るかい!!」
彩音の発言にカリスと如月が吹き、俺は全力でツッコミを入れた。ちなみに、そんなご褒美を受けてしまった卯月は後で慰めておこう。
彩音の言う太ももへのキスの意味は……支配。腰なら"束縛"といったものだ。ちなみにお腹なら"回帰"だ。つまり赤ちゃんに成りたいとかそんな感じ。
……というかだよ? お嬢さん、ここが公衆の面前だということが分かってますかね?
「大体な! 彩音は立ってるからそんな所にでもキスしようものならどっちも危ないだろ!?」
「なら、椅子にでも座り……」
「そういう問題じゃないよ!? というか、一回帰って!!」
そんな風に彩音と問答していたら不思議な顔を浮かべた和王が参加して来た。
「……なぁ、彩音よ? 何故にキスを太ももにしてくれと頼むのじゃ?」
「あら、お祖父様は知らないのですか? キスにはする場所によって……」
「そういうのは夜にしましょうね? ね?」
「そうですよ。ユーリさんのハンカチをあげますから!」
「こっ、これは本物!? 分かりました帰ります」
「カリスさん!? 何で持ってんの!?」
何故か、カリスさんが俺のハンカチを持っていた。しかも、それで彩音を買収してしまった。
「それでは帰りますね♪ 帰還者!」
ホクホク顔の彩音はワードを唱えて帰って行った。
とりあえず、試験は成功らしい。実用化が楽しみだ。
「さて、カリスさん。どうして俺のハンカチを持っていたか教えて下さい」
「ユーリさん。いつになったら私の"さん"付けが消えるのでしょうか?」
「誤魔化させませんからね」
「え〜っ……」
その後、罰の悪そうな顔をして逃げようとするカリスさんから聞き出す為の戦いが始まるのだった。