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空間魔法の習得

 冬の農業は雪があまり降らないカリーナの森でも他を見習い雪を理由に月単位でお休みとしている。多くの者たちは家に引きこもるか、転移門を使用して他国へ遊びに出掛けていた。

 その為、後者は良いが前者は不味いと考えたのだろう。


「それでは鈍っている身体を鍛える為に訓練を開始します」


『は~い』


 出掛けている者たちを除いた住人たちは自発的に狂乱の小世界(カオスコスモス)へ集まった。

 そして、リリスが号令をかけると各自で模擬戦をしたりランニングを始めた。


「さて、俺たちは空間魔法の訓練をするとしよう」


「私とギンカも協力するから頑張ってね」


「全力でサポートします」


『は~い!』


 時間が有るので希望者を募って空間魔法の勉強をする事になった。とはいっても学ぶ魔法は空間転移だったりする。

 その為か希望者は外部からもやって来て思いの外多く集まった。


「それでどんな事から学ぶのですか?」


 嫁の中で一番魔法が大好きな卯月が目を輝かせながら聞いてきた。


「そうだね。空間魔法のレベル1からかな?」


 魔法には系統毎に習得レベルというものが存在する。レベルが上がる度に習得が困難となるのだ。

 基本的に魔法は5段階評価となっていて空間魔法だと以下の通りとなる。


 レベル1 入れ替え(チェンジ)

 レベル2 転移(シフト)

 レベル3 空間把握(トレース)

 レベル4 空間隔離(アイソレーション)

 レベル5 転移門(ゲート)


 しかし、魔法というだけあって各系統には神域と呼ばれ常人では一生掛かっても習得が困難という理由で省かれた最終レベルが存在する。それがレベル6だ。


 レベル6 領域(フィールド)


 空間魔法の最高峰とも呼ばれるこの魔法は任意の空間を生み出す魔法だ。分かりやすく言うとイレーネコスモスやカオスコスモスを作る時の根本となった魔法ということだ。


「空間魔法はその様に分類されているのですね。記録が少ないので初めて知りました。メモメモ……」


 卯月は俺の話を洩らすまいと一字一句をメモるつもりで筆を走らせていた。


「ですが、私たちの習得目標である空間転移はレベル2なんです? てっきりレベル4もしくはレベル5だと思ってました」


「それは空間転移と転移門には大きな違いが有るからだよ」


「違いとは?」


「分かりやすく言うと双六かな?

 転移ってのは双六のマップにおけるマス移動だね。それかマスの駒の入れ替えとも言える。

 それに対して転移門だけど双六のルートを新たに書き加える様なものなのさ。だから、マスを避けるとか通るとかも考えないといけなくなるよね? そんな風に把握する事が多いから難易度が上がるって訳だよ」


「なるほど。確かに転移というのは大規模な入れ替えとも言えますね」


「そういう事」


 今の卯月とのやり取りを聞いて皆も納得したのか頷いていた。


「そういう訳だから"入れ替え(チェンジ)"の勉強から始めようか」


 俺は手短な物を持ってきて皆の前で入れ替えを見せた。

 初めて見る人はその光景を手品の様に魅入り、以前にも見た者たちはアレを人でやるのかと言っていた。


「とりあえず、詠唱しながらで良いから入れ替える感覚を掴もう。それから詠唱して転移出来れば完璧だよ」


「最初のコツは物体を見えないシャボン玉で包むイメージをお薦めします」


 という訳で本格的な空間魔法の練習が始まったのだ。





 数時間後。訓練状況に顕著な差が出始めた。


「う~ん、入れ替えが発動しないよぉ……」


「私もダメそうです。ちゃんと詠唱した筈なのに……」


「えっ? 私は触れないと無理だけど無詠唱で出来るまでになったよ」


 このように出来る者は無詠唱で行える者まで出始めたが、出来ない者は詠唱しても出来ない様だ。


「やはり空間魔法の習得には他の魔法以上に相性があるのでしょうか?」


「でも、見てる感じそれだけじゃ無さそうだね」


「どういう事だ、アイリス?」


「一番出来てる子達……マリーたちを見て。彼女たちには共通点があるでしょ?」


 アイリスの言葉で彼女たちの共通点を探す事にした。

 一番進んでいるのはマリーたち竜種。ついでエロースと言った天使族に如月たち天狗族だった。


「高魔力保持者という事か?」


「う~ん、惜しいね。だったらイナホちゃんも出来るんじゃないかな? 今の魔力量だと若い竜種並みに多いから」


 イナホを見てみると詠唱により出来てはいるが、そこからあまり進展していない様にも見えた。


「私が見つけた共通点は皆飛行能力を持ってるって事だよ」


「飛行能力?」


「うん。空を飛ぶからさ。空間認識に長けているのかも?」


 アイリスの話は突拍子も無いものだったが聞いている内にあり得る気がしてきた。


「ちょっと試してみようか」


 俺は早速条件に当てはまりそうな人を連れて来ることにした。





「……それで私ですか? エロースも来たから何かと思えば。これでも私は忙しいのですよ?」


「ごめんね。でも、仮説通り習得出来ればトリシャの為にもなるよ? だから、ルイさんも許可をくれた訳だし」


 俺が連れてきたのはエロースの元上司トリシャさんだ。

 天使族なので飛行能力をもっていて高魔力保持者だ。


「トリシャ、ちょっとくらい仕事休んでも良いじゃん。そんなんだから婚期逃しているんだよ?」


「何処ぞの欲情魔が寿退社したからですけど?」


「痛い痛い痛いぃ!?」


 エロースは青筋を浮かべて怒るトリシャさんにアイアンクローをかまされて泣かされるのだった。

 彼女は一人で三人分の仕事をしていたからその抜けた影響は今だに響いているようだ。後で差し入れでもしておこう。

 それにしてもエロースは自業自得だな。一言余計だと思うよ。トリシャさんが居るお陰で仕事から開放されてる訳だし、そもそも美人さんである彼女が望めば相手なんて直ぐに見つかるさ。


「それじゃあ、お仕置きは止めて始めようか」


「そうですね。時は金なりと言います。直ぐに始めましょう」


「止めるならもっと前に止めてよぉ……」


 グロッキーなエロースを放置して教えようとしたら腰に抱き付かれたのでアイリスたちに任せて介抱する事にした。





 その後の結果を話そう。アイリスの仮説はあながち間違いではないらしくトリシャもかなり早い段階で習得出来た様だ。

 しかし、皆が行ける最大距離はせいぜい1km程度。それなら翼で飛んだ方が断然速いという結論に到ってしまったらしい。皆からやる気を感じられずお喋りしたり、ジョギングに行ったりし始めた。どうやら今日はここまでらしい。


「残念です。転移を商売に活かせないかと考えていたんですけどね」


「そうですね。私も物資の配達が楽になると期待したのですけど……」


 そんな中、カリスと如月の話が聞こえてきて俺はある事を閃いた。


「これは……イケる!」


 俺はさっそく工房に籠り試作品の作成に勤しむのだった。

卯月 ~ 如月の妹。天狗族で魔法好き。姉よりさきに嫁いだ。

トリシャ ~ エロースの元上司。マリーの母親の右腕とも云える。

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