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和解と帰還

 クーナを追って行った先には膝を抱えて座るアルラウネのアミュウの姿があった。


「見付けたわよ!」


 クーナがそう叫ぶと俯いている彼女に向かいスピードを上げた。


「クー……はにゃっ!?」


「うおっい!?」


 そして、クーナに気付き顔を上げた彼女に対してなんと跳び蹴りをかましたのだ。

 ギャグ漫画の様に弧を描いて飛んで行くアミュウ。

 そんな彼女を俺は瞬時に肉体を活性化させて加速し必死にキャッチへ飛んだ。


「せっ、セーフ……」


 俺はスライディングすることで落下する前にギリギリ受け止める事に成功した。


「ふしゅぅ〜〜っ!」


 そして、背後から聞こえるクーナの呼吸にビクビクしながら彼女を連れていった。

 クーナにアミュウを見せると有無を言わさず腕の中から奪い取り彼女を前後に揺らして問い詰め出した。


「貴女ね! 私がどんなに苦悩したか全て見ていたなら知ってるでしょ! 何で真実を告げないのよ!? 何で記憶を改竄したのよ!!? 両親が殺されたことに同情したの! それともこの手を血に染めた事を後悔しているのっ!! さっさと答えなさいよ!!」


「ちょっ、クーナ!? ストップ、ストップ!!


「なんですか、ユーリさん! 今忙しいので後にして下さい!!」


「アミュウのライフはもうゼロだよ! 完全に目を回してるよ!?」


「えっ?」


「はにゅ~~っ」


 クーナに揺らすのを止めさせて見るとアミュウは完全に目を回していた。

 どうやら跳び蹴りと揺さぶりによるダブルパンチが効いたらしい。


「「………」」


 それからアルラウネの回復を待って改めて話し合いをすることになった。

 しかし、2人の間に漂う空気はかなり重い。2人共気まずさも有って目を合わせようともしない。


「えっと……アミュウだっけ? 君に尋ねたいんだけど……クーナを助ける為に彼女を眷属化させて自身の一部と同化させたで合ってるのかな?」


「……大体あってるよ、ユーリ」


「……何で俺の名前を知ってるの?」


「私は全部クーナの中で見てたから。貴方たちがクーナに優しくしていたこともね」


「でも、アルラウネ化したクーナは俺も攻撃対象にしてましたが?」


「それは貴方が敵であるマルコスを咄嗟に守ったから自動防衛として残していた一部の意識が敵だと認識したんだよ。ごめんね」


 どうやら俺たちの考察は大体合っていた様だ。


「……本当に私を助ける為だったんだね。それなのに私は……」


「それは仕方ない。記憶の改竄だけでなく、想いを増幅させて私たちを憎む様に仕向けた節も有る。だって、幼いクーナは何かにすがらないと死にそうだったんだもん」


「それほどまでに生きて欲しかったんだね」


「クーナは怯えていた私に色々教えてくれた友達だもん。助けるのは当然だよ」


「………」


 クーナはゆっくりとアミュウに歩み寄って彼女を抱き締めた。


「貴女は今でも私を友達だと思ってくれているのね……」


「うん。私の一番の友達はクー……痛い痛い痛い!? なんでこの状況で力一杯抱き締めるのさっ!?」


「一番の友達ということは親友で良いのよね? なら、何でそんな親友に苦行をしいたのかな?」


「だ・か・ら、それはクーナが生きるために!?」


「記憶改竄まで出来るなら街中で暮らすなり、アルラウネは同族だと思わせて森で暮らすなり有ったじゃない!! お陰でマルコスだけじゃなく色んな人に珍しい生き物だと追われたじゃない!!」


「そっ、それは……ちゃんとアルラウネ化して追っ払ったから……大丈夫……」


 クーナの抱き着きがどれ程きついのか分からないが目の前のアミュウはどんどん血の気が引いていくのだった。


「それに貴女は私を助ける為と言うけど本当は純粋にヒトの生活をして見たかったのよね?

 だって、今でもたまに記憶が消える事が有ったけどそういう時は必ず財布からお金が消えてるんだもの。そして、調べるといつもお菓子を買って食べた事になってるのよね。なんでかな?」


「そっ、それは……」


 アミュウの視線が凄く泳いでいる。それが事実で有ることを示していた。


「はぁ~っ、相変わらず嘘が下手なんだから……」


 クーナは長いため息をついて後にやれやれと手を上げていた。


「まぁ、私を救いたかった気持ちも嘘じゃないのは記憶を見たから分かるわ。それに貴女が私に全てを話してくれたら喜んで貸したのよ?

 私にも残った物があると分かるもの。………だから、貴女を許さないわ」


「えっ……」


 ショックを受けるアミュウにクーナは微笑みがら頭に手を置いた。


「許して欲しかったらこれからも一緒に居てね。私は知っての通り寂しがりやなのよ」


「ああっ……!! うん、居る! 居るよ! クーナがもう嫌だって言うまで一緒に居るよ!! だから、その時まで許さないで!!」


 泣き出したアミュウの頭をクーナが撫でると彼女はより一層泣き出すのだった。





 アミュウが泣き止んでからもお互いの会話は尽きる事が無く続いている。

 しかし、アイリスと念話により連絡が取れたので俺は仕方なく彼女たちに声をかけた。


「それじゃあ、そろそろ帰ろうか」


「えっ、もうそんな時間なの?」


「ユーリさん。そもそもどうやって戻るのですか?」


「それはね。アレだよ」


「「なっ!?」」


 上を見上げた俺につられて見た彼女たちはその光景に絶句した。


「蜘蛛の糸ならぬスライムの触手ってね」


 空から垂れて来たのは光輝く青くて透き通ったアイリスでお馴染みの触手だった。


「原理はよく分からないけどこれに掴まれば帰れるらしい」


「そっ、そうなんですね。ほら、アミュウも掴まって。一緒に帰ってお菓子を食べに行こうね」


「………」


 アミュウは触手を掴もうとして躊躇している。


「どうしたの? 怖い?」


 アルラウネだけどパドラみたいにスライムに対して何かしらの恐怖でもあるのだろうか?


「……ねぇ、ユーリ。君はクーナにエリクサーを()()()飲ませたんだよね?」


「うん、飲ませたよ。口移しで」


「はいっ!? 聞いてないんですけどっ!?」


「安心しろ。責任を取れというならうちの嫁さんたちみたいに責任を取る!」


「堂々とハーレム宣言とか引くのですがっ!?」


「……良かった。なら、安心だよ」


「何がっ!?」


「クーナには私の他にも支えてくれる人がいる事だよ。ユーリ。今後ともクーナを宜しくね♪」


「おう、任せろ!」


「私をスルーして話を進めないでくれないかな!?」


 アミュウのノリに付き合うとクーナは子供の様に激しく反応するのだった。

 それからアミュウも触手を握ったのを確認してアイリスに念話で合図を送った。


「それじゃあ、上げて貰うよ。なんかスピードが出るかもだから気を付け……うおぃ!?」


「「きゃあぁぁーーっ!?」」


 触手はもの凄い速さで登っていく。あまりのスピードに俺たちは悲鳴を上げながら必死に掴まるしか出来ないのだった。







「「ハッ!?」」


「あっ、2人共起きたんだね」


 目を覚ますと俺を覗き込むアイリスと目が合った。


「アイリス……ただいま」


「うん♪ お帰り。約束はちゃんと守ってくれたんだね」


 上体を起こすと狂乱の小世界(カオスコスモス)の復活ポイントと思いきや何故か植物園だった。

 夜のため周囲は薄暗いが温室のお陰で冬なのに暖かい。隣を見ると普通の人に戻った様に見えるクーナがいた。


「アイリスさん……」


「クーナちゃんもお帰り。なんか身体が色々変化したから直ぐに動けないと思うけどゆっくりで良いからね」


「はい。……そういえば、アミュウは?」


「アミュウ?」


「私と同化していたアルラウネです」


「………」


「アイリス。大丈夫か?」


 クーナの言葉を聞いてアイリスがとても悲しそうな顔になったので心配して声をかけた。


「うん。大丈夫。そうだね。2人には知る権利があるよね。彼女は……」


「彼女はこうなりましたよ」


 アイリスの言葉を遮り、ダフネが何かを抱えて見せてきた。


「「っ!?」」


 ダフネが見せたのは枯れてしまった花だった。

 それが何かを俺たちは知っていた。その花びらの色合いはアミュウの頭に有ったのと被っていたのだ。


「そっ、そんな……っ!!」


 ショックのあまり泣き出したクーナ。


「ユーリ様。彼女は森の住人です。私たちに預けてくれませんか?」


 そう言ったダフネの背後にはドライアドたちと何故かブラウニーが立っていた。土も森の一部だということか。

 ダフネの言葉を受けて俺は泣いているクーナの方を向いた。


「アミュウは自身の森に帰りたがっていました。彼女の森は遠いので無理ですがせめてここの森に」


「……だそうだ。ダフネたちに任せる」


「お任せを」


 ダフネたちにアミュウを託すと朝日が登って植物園に光が満ちる。それが俺たちの長い1日の終わりを告げるのだった。

思いの外長くなったし時間もかかりましたが、今回のお話はここまでです。

次回は後日談を一回挟んでまたほのぼの兼イチャイチャに戻る予定です。

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