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暴走

「ア゛ア゛ァァーーッ!!」


 雄叫びと共に禍々しいアルラウネへと変貌したクーナ。


「あの姿!あのおぞましい姿こそ奴が化け物の証です!皆様、奴を退治して下され!!」


 彼女の変容に呆然とする俺たちを余所に男は騒ぎ立てていた。


「何を呆けていらっしゃる!目の前に魔物がーー」


障壁(ソーン)!」


「ひぃっ!?」


 俺が咄嗟に展開した障壁にアルラウネの触手がムチの様に叩き付ける。


「おい、オッサン! アンタ、クーナに何しやがった!? 全ての攻撃がアンタに向いてんぞ!!」


 クーナは自身の周囲にいる騎士たちには目もくれず、ただひたすらに男だけを狙っている。それが2人の間に何かある事を示していた。


「……マルコス氏。何かご存知で?」


 オッサンはマルコスと言うらしい。クラウスは何か裏が有ると感じ取ったのかオッサンの事を睨み出した。


「しっ、知らん!儂は何も知らん!!」


 マルコスは全力で否定しているがその額には大粒の汗が浮き上がっているのが見て取れた。


「……まぁ、良いでしょ。追求は後にして貴方を彼女から逃がす事を優先しましょう」


「そうしてくれ。俺はこれ以上そのオッサンを守りたくないし。正直死んでも良いと思ってる」


「チッ、若造が……」


 俺の本音を吐露するとマルコスは周りに聞こえ辛い程に小さな声で悪態をついた。

 残念。俺には丸聞こえなんだよ。地獄耳でごめんね。クーナの前に突き出してやろうか?


「大体な。オッサンを守ったせいでクーナの標的が俺に移ってんだよ! この場は俺たちでなんとかするからそいつ連れ帰れってのっ!!」


 そうなのだ。先程からクーナは俺ばかりを狙っている。

 恐らく俺がいる限りマルコスを殺せないとでも思っているのかもしれない。


「分かりました。彼は私たちが連れ帰りますので彼女の全てをよろしくお願いします。殺さないで下さいよ?」


 そう言うとクラウスは懐から結晶を取り出した。それを見たクラウスの部下たちは彼の元へと集合する。


「それでは全て終わりましたら明日にでも騎士団へお越し下さい」


 その言葉を最後にクラウス率いる騎士団はマルコスを含めて発光と共に姿を消した。

 彼が持っていた結晶に見覚えが有ると思っていたら俺が竜王国の一部幹部にプレゼントした転移結晶だったらしい。アレは設置ポイントに帰れる片道キップの様なもので、今頃は騎士団本部に帰ったのだろう。


「というか、何しに来たよアイツら……」


 無駄に問題起こすだけ起こして帰りやがった。


「……そのユーリ。災難だったな。アイツは昔からそういう奴だ」


 何故か、ギルさんが遠い目をしてる。

 昔何かやられたのだろうか?


「さて、邪魔者はいなくなったが治まる気配がないな」


 むしろどんどん彼女の殺気が強くなってる気がする。


「とりあえず、俺はダフネでも呼んでーー」


「はい、呼びましたか?」


 今から召喚でもして急ぎダフネを呼ぼうとしたら彼女はいつの間にか俺の死角に立っていた。


「………何時からいたの?」


「ユーリ様が攻撃を防いだ時くらいですかね?」


 まんま始めからやん!?

 なんでいつもダフネは俺の死角に音もなく忍び寄り立ってるのか不思議でならない。

 しかし、今の状況的には居てくれて助かるので気にせず進めよ。


「今ダフネを呼ぼうとしたけどかなり早かったね」


「ええっ、彼女の叫びが聞こえていましたから」


「彼女? クーナのこと?」


 彼女の雄叫びは妖精の箱庭(フェアリーガーデン)中に響き渡ったので畑にいたダフネに聞こえてもおかしくない。


「いえ、依り代の娘でなく本体の方です」


「えっ?」


 そう言ってダフネが指差したのはクーナを包み込んでいるアルナウネの花だった。


「先程から『クーナを傷付けるな!』とか、『私が彼女を守る!』だとか言ってますよ」


「………」


「一応これでも落ち着かせようと話し掛けるのですが、アルラウネ自体の意識があまり無いんですよね」


「いや、今叫んでるって?」


「叫んでますよ。ただし、寝言みたいなものですが」


「寝言?」


 俺はてっきり変貌直後の叫びを聞いてやって来たのだろうと思っていたが違うらしい。


「今のアルラウネは休眠状態になってるんです。なのに暴れているのはプログラミングされた命令に従う様にクーナを守る防衛機構が働いた為かと? 何か思い当たることは?」


 ダフネの言葉で俺は少し考え始めた。

 クーナが暴走する前に起こった事といえば騎士団に拘束された事とマルコスに会ったことだろう。


「思い当たる事がいくつかある」


 一番の切っ掛けはマルコスの存在な気がするが、拘束された瞬間苦しがっていたから既に始まっていたのかもしれない。


「それで彼女助けたいんだけど何か無いか? 万能薬のエリクサーを振り掛けたら何とかなる? ガーゴイルの同化みたいに?」


「残念ながら振り掛けても意味が有りません。依り代の内部にもアルラウネの根は広がっていますからね」


 ダンジョンでガーネットたちを救った時みたいに助けられるのではと思い尋ねてみたがダメらしい。


「ですが、経口摂取した上で……」


「よし、それで行こう!」


 俺は直ぐ様エリクサーを口に含むとクーナの元へ駆け出して……。


「ぐはっ!?」


 しなる蔓に叩かれ吹き飛ばされた。蔓の攻撃は規則的な物からうって代わり不規則な物へと変わっていた。

 アルラウネに包まれたクーナを見ると心なし彼女からの悪意を感じた。


「くっ!リトライだ!!」


 俺はその後も何度か試して彼女へ近付くことは出来るもエリクサーを飲ませるには至らなかった。

 アルラウネは魔力感知でもしているのか的確かつ不規則な攻撃により何度も吹き飛ばされるのだ。


「まだまだ!!」


「頑張って下さい。口移しの後には深層意識へと潜りクーナでしたか? 彼女の意識を起こす作業が控えてますからね」


「それ聞いてませんがっ!?」


 どうやら経口摂取だけではこの状況は解決しないらしい。


「最後まで聞かないので既に知っているのかと?」


 はい。話を最後まで聞かなかった俺が悪いですね。


「ユーリさん。そんなにキスがしたいなら私が好きなだけしてあげますから真剣にして下さいね?」


「すみません。少し浮かれてたみたいです」


 笑顔で忠告するメーアは思いの外怖かった。

 そして、彼女の隣で一部始終見ていたリリィは爆笑している。だから、後でお仕置きしようと思った。


「ダフネ。深層意識にはどうやって潜るんだ?」


 生憎その様な魔法はまだ習得していない。なので、どの様に潜るのか検討も付かない。


「ユーリ様にとって馴染みの魔法なので簡単ですよ。彼女とのパスを繋ぎ、それを辿って夢渡りをするんです」


「パスを繋ぐって彼女に俺の血を飲ませるのか?」


「それか表面から血を吸収させるかですね。アルラウネはその表面からエネルギーを吸収するので」


「……つまり俺はエリクサーを飲ませた上で血まで飲ませろと?」


「そうなります」


 なかなかハードルが高過ぎやしませんか?

 近付けるけどキスは出来ない。なのに両方飲ませるとか難し過ぎる。


「ユーリさん! ここは()()()でドンといっちゃって下さい!!」


「そうね。血が飛び散るくらい派手にやるとかね?」


「全く2人は他人事だと思っ…………んっ?」


 リリィとメーアの応援を聞いていた俺はある事を思い付いた。


「アレを使えば全ての条件を満たせるじゃないか!!」


「ユーリ君 / さん?」


「ダフネ。最終確認。深層意識から戻る時はどうすれば良い?」


 夢渡りなら帰還用の陣を用意するか、自身の肉体が起きる事で戻る事が出来る。


「アイリスに引き上げて貰います」


「なら、安心して潜れるな」


 何をやるかは具体的に分からないが、アイリスがフォローしてくれるなら確実に大丈夫だと確信出来た。それにより今からやる事への覚悟も決まった。

 俺は不敵な笑みを浮かべてクーナへ駆け出した。


「クーナ! 一緒に来て貰うぞ!!」


 キス出来なくとも彼女に触れる事は出来る。俺は彼女の巨体と一緒に転移した。

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