検診……やましくないよ
クーナを連れてドライアドたちの所へ向かう前に彼女をわざわざ農業試験場へと案内した。
「ユーリ君。何で畑に行く前にわざわざ農業試験場に寄ったの?」
「それはここに置いてるマジックアイテムを使ってもらいたいからさ」
「「「マジックアイテムを?」」」
「うん。実は中央大陸にあるソルシエールに行った時にネフェルタの許可を貰って魔女たちが秘蔵した多数のマジックアイテムを持ち帰ったんだ。その事をリリィは知ってた?」
「えっ? 一緒に行ったのに知らなかった。あの人数の中よくバレなかったわね」
「そこはお得意の空間魔法でちょちょいのちょいとね。一応、冒険者ギルドの人は知らないし、嫁さんたちの中にも気付いてない子が多いよ」
「内緒でそんな悪いことしてたのね」
リリィは秘密を共有した悪友のように悪い笑みを浮かべていた。
「ちゃんと持ち主の許可を貰ったからセーフで~す。それに世間では管理のために竜王国が全て回収した事になってるからね」
「あっ、それなら合法ね」
俺はガイアス爺さんやレギアスさんから竜王国の国庫にある宝物を自由に使う許可を得ているので持っていても問題なし。
まぁ、売っぱらうとかしたら話は変わるだろうけどね。
「その中の1つにCT検査みたいなマジックアイテムがあったのさ」
「CT検査?」
「簡単には言うと物体を透過して内部を立体的に見るんだよ」
「なるほどね。それを使えばクーナの身体の中で何が起こってるかを直接見れるということかしら?」
「理解が早くて助かる」
軽く話しただけで理解出来るリリィを改めて凄いと思った。
「それで目的の物がアレだよ」
目的のマジックアイテムは入国ゲートの様な形をしている。起動した状態でゲートを潜ると隣にある結晶から3Dグラフィックのような物が表示されるのだ。
「ささっ、クーナ。思いっきり通ってみよう」
「はぁ……」
何が起こるのかまだ良く理解していないクーナは訝しげながらゲートを通った。
「おっ、来た来た!」
「すっ、凄いです! 内臓とかもこんなに鮮明に見れるなんて!」
結晶の上に表示された霊体の様に透過したクーナのミニチュアを見てメーアは感動の声をあげた。
しかし、それに対してリリィは別の反応を見せた。
「まぁ、本当に凄いわ♪ 着痩せするタイプなのかしら?」
「「えっ?」」
俺たちはリリィの言葉で再びミニチュアを見た。
表示されたクーナは内部が透過しているとはいえ、外枠のフォルムもしっかりと表示される。その為、彼女のプロポーションを知ることが出来た。
「みっ、見ないで下さい!!」
当然この場にいる唯一の男性である俺は顔を真っ赤にしたクーナに目隠しされた。
「あの~っ、クーナさん? 俺が結果を見れないんだが?」
「嫌らしい目で見るつもりでしょ!」
「いや、あくまでも医療の為だよ。医療の為。さっきも言われるまで気付かなかったでしょ?」
重要なので二回言った。別に堂々と見るための口実じゃないんだからね!
「……分かりました。百歩譲って信用します。もしもやましい気持ちが有ったら剣を振ります」
「……オーケー。それで行こう」
ということなので気を取り直して検診します。
「……クーナさん」
「はい」
「胸触って……どわっ!?」
俺は急いでしゃがむと元々頭の有った位置を処刑刀が通過していった。
そして、避けたからなのか今度は真上から振り下ろして来たので渾身の白羽取りにて受け止めた。
「約束した側からセクハラですか!?」
「違う違う!ミニチュアの胸を見て!胸を!!」
「胸ですか?」
彼女もミニチュアに目を向けたので説明する。
「花から伸びた根が胸の穴でも塞ぐ様に集中してるだろ? 君の筋力が高いのは手足に伸びた根のおかげなら胸の根は何の為かと思ったんだよ!」
「それならそうと言って下さい」
クーナは理解してくれたのか剣を下げてくれた。
「確かに触診は必要よね? お姉さんがじっくり見てあげるわ」
指を嫌らしく動かしながら近付くリリィにクーナは少し悩んで言った。
「チェンジ。……メーアさんで」
「私っ!?」
指名されたメーアは自身を指差しながら驚きの声をあげていた。
「メーアさんが一番やましくなさそうなので」
「あ~っ、なる~……」
色々リリィに対して思い当たる事が有るのか彼女は納得した様だった。
「そっ、それじゃあ、触るわね」
「どうぞ……んんっ」
「ふわっ……ハリが凄っ……」
「「………」」
触診をするために俺たちから見えない位置に移動した為、俺とリリィは終わるまで体操座りしてしょぼ~んとするのだった。
「触診終わりました。……凄かったです」
メーアは少し興奮しているのか自身の手を何度も握々していた。
「それでどうだった?」
「クーナさん。ちょっと恥ずかしい話をユーリさんたちにするので離れていて貰って良いですか?」
「……分かったわ。あまり変なことは言わないでね?」
「ええっ、約束しますよ」
メーアはクーナが離れたのを確認すると先程のだらけた表情とは一変して真剣な面持ちで話始めた。
「クーナさんの胸の中心に刺し傷の様な物が有りました。それから状態を見るために背中を見ると更に大きな傷です。恐らく背中から胸へ刃物が貫通したのかと?」
「なら、根はそれを埋めている感じなのか?」
「恐らくはそうです。触った感じ普通の人肌なので内側だけでしょうけど」
「まるで彼女を生かす為に身体の一部を補ってるみたいね」
俺もリリィの感想に近かった。
アルラウネとして生かす為にしてるのか、それとも別の目的があってなのか?
今の俺たちには判断の仕様がなかった。
「やはり、トレミーたち頼りか」
「予定通り彼女たちに直接声を聞いて貰えば真意も分かるかもね」
「それじゃあ、私はクーナさんを呼んできますね」
その後、俺たちは予定通りドライアドたちのいる畑を目指した。
すると屋敷の方から駆け足で近付いてくる集団がいた。
「ユリシーズ卿!リリアーヌ嬢!それからメーア嬢!三方共、ご無事ですか!!」
「「「えっ?」」」
集団の正体とは血相を変えたクラウス率いる騎士団とギルさんの連れた冒険者たちだった。
「クーナ・テンペスト!! 貴女を大量殺人の容疑で逮捕する!!」
「クーナが殺人? どういう事?」
「その子が指名手配犯らしくてな。薬屋セリーヌに入ってから出て来ないと聞いたから此処だと思い急ぎ来たんだ。そういう訳だから店の転移門を使わせて貰ったぞ」
「詳しくは後程説明しますので、彼女を一時拘束させて貰います」
「あっ、ちょっ!?」
「っ!?」
クラウスの指示の元、俺が止める間もなく騎士団によりクーナは拘束されてしまった。
「幾らなんでも横暴じゃ無いか!? 彼女の監視が必要なら俺がいるだろ!?」
「ううぅ……」
無理やり押さえつけられているからかクーナからは苦悶の声が聞こえてきた。
「仕方有りますまい。その魔物はあまつさえ私の弟の娘を操り周囲を騙すのです。この私も騙されて襲われたたのですぞ? しかも私の息子は既に殺されております」
「………誰?」
突然見るからに意地汚そうな男から気軽に声を掛けられて混乱した。
「その娘の親族らしい。今回の情報は彼からの物だとクラウスに聞いた」
どうやらクーナを殺人犯と言っているのはこの男らしい。
それを言うだけの証拠でも持ち合わせているのだろうか?
俺は拘束されたクーナをニヤニヤ顔で見る男に無性に腹が立った。
「お前は……うぐっ!?」
「クーナ?」
「ううぅぅ〜〜っ!?」
男を見ていたクーナは突然呻き出して拘束していた騎士たちを吹き飛ばした。
「うわっ!?」
「なっ、なんだこの力はっ!?」
突然の出来事に周囲では混乱が広がった。そんな中、クーナの花は成長を始め花から伸びた蔓がクーナを護る鎧の様に身体を覆い始めた。
「アルラウネ……」
最終的にはクーナを中心にした巨大な花の化け物の姿へと変わってしまうのだった。