表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

370/484

クーナ

 俺には何故か無性にカレーが食べたくなる日がある。

 しかし、そういう時に限って全くカレーを作る予定が無かったりするのだ。

 だから、素直に自身で作ることにした。


「林檎と蜂蜜……溶けてる〜♪」


 某CMのフレーズを口ずさみながら俺は甘口のカレーの作製に励む。

 個人的には辛いカレーの方が好きなのだが、うちの嫁さんたちの大半が中辛でギリギリ大丈夫といった感じなので素直に甘口という訳だ。


「うん。完成だな」


「ええ、これだけ有れば2日は行けます」


「2日……持ちますかね?」


 朝に思いたってからラズリとスルーズを交えて3人で作ること半日。しっかりとしたとろみと甘みの備わったカレーが入った鍋が3つ完成した。

 しかし、正直な話明日の晩まで残れば良いかなと思っている。うちには大食いのお嬢さんが沢山いるからな。


「尽きたら尽きた時さ。その時は別にメニューを考えるだけだよ」


「それもそうですね」


「もしもの時は魚でしょうか? 今週は肉料理の方が多いので……?」


 そんな風にメニューの話などをしながらテーブルにお茶とお菓子を用意して3人で密かに楽しんだ。


「……そろそろ時間だな」


 お喋りの途中で時計を見ると晩飯を食べるには良い時間となっていた。


「ユーリさん。今日はカレーだからお客さんとかも来るんですよね?」


「あぁ、ガイアス爺さんたちは当然だし。リリィがメーアを誘うかもしれないよ」


「でしたら、ユーリさんは転移門の前で皆さんを出迎えてあげて下さい」


「そうですね。準備は私たちでも十分ですから」


 別にわざわざ出迎える必要はないのだが、たまには出迎えてもバチは当たらないだろう。俺は彼女たちの好意に甘える事にした。


「ありがとう。そうするよ。困った事があったら直ぐに戻るから言ってね」


「「はい」」


 俺は2人に後を任せて転移門のある地下へと降りるとロッキングチェアにはマリーの姿は無かった。

 魔力感知で上を見てみると両親と一緒に晩飯を今か今かと待っている姿が見えた。


「後、帰ってきてないのはリリィたちか」


 俺はロッキングチェアに座ると読書をしながら彼女たちが帰って来るのを待つ事にした。

 読書を初めて数分後、薬屋テリーゼとを繋ぐ転移門が起動した。

 俺はこちらへ向かって来る人の気配に気付いて本を閉じた。それから顔を上げるとリリィたちは見知らぬ女性を連れていた。


「うん? リリィ、その人は?」


「この子の名前は、クーナって言うの」


「はっ、初めまして……」


 クーナと呼ばれた女性は恥ずかしそうに挨拶すると直ぐにメーアの後ろへと隠れてしまった。


「クーナさんはちょっと訳ありでして……ご飯食べた後で良いので相談に乗って頂けませんか?」


「ユーリ君。私からもお願いするわ」


「……分かった」


 2人の神妙な面持ちから何かしらの深い事情がある事が伺えた。

 俺は話を聞く約束をしてクーナも一緒に晩飯へ招待する事にした。


「っ!? アルラウネ!!」


 食堂に入るとクーナが驚愕の表情を浮かべ虚空から処刑刀を彷彿させる様な大きな剣を取り出した。

 女性が振るうには余りある剣を彼女は片手で扱い食堂にいたドライアドたちに矛先を向けた。


「そこまでして私を同族にしたいのっ!」


 今にもドライアドたちに斬り掛かりそうなクーナ。


「待て待て!」


 俺はそんな彼女からドライアドたちを庇う様に立ち塞がった。


「彼女たちはドライアドだぞ!? 何かと勘違いしてないか!?」


「ドライ……アド?」


 俺の言葉を受けてクーナは改めてドライアドたちのことを見た。


「花が……何処にもない。それじゃあ、アルラウネじゃない?」


 すると自分の間違いに気付いたらしく彼女は剣を降ろしてくれた。


「すみません。私の勘違いです。大変お騒がせ致しました」


「………」


 どうやらクーナはアルラウネに対して強い恨みでも持っている様だった。


「はいはい。辛気臭いのは終わり! 皆でカレーを食べましょう♪」


 一緒にいたリリィが空気を呼んで話題を変えてくれた。


「クーナは私たちと食べるからユーリ君は……」


「ドライアドたちの所で食べるよ」


 もう大丈夫だと思うが何かの拍子に彼女たちを襲われたら困るので俺が近くにいる事にした。






 俺たちが帰って来たことで全員揃い晩飯となった。

 皆和気あいあいと甘口カレーに舌鼓を打つ。既にあちらこちらからお替りの声も聞こえ始めた。


「「「お替り!」」」


「いや、食い過ぎだろ!」


 俺の隣でカレーを食べるトレミー、トレア、トリシャの3人は既に3杯目へと突入していた。

 カレーは沢山作ったので足りると思うがこのペースだと難しいかもしれない。


「トリスは良いのか?」


 姉妹の中で一番食べていない四女へと聞いてみた。


「私はパドラと共生しているので姉たちとは違い色々足りてますから」


「そう言って貰えると嬉しいわね。はい、トリス。あ〜ん♪ 私の蜂蜜たっぷりよ!」


 パドラは恋人同士の様にトリスに食べさせていた。相変わらずの仲睦まじい光景に見ている俺は和まされた。


「ユーリ様。私たちに食べ過ぎと言いますがあのクーナという女も同じですよ」


「えっ?」


 俺はリリィたちの所を見ると凄いスピードでカレーを食べるクーナの姿があった。

 そこには先程までの消えてしまいそうな儚げな雰囲気は一切感じられず、どことなく血色も良くなっている気がした。


「……明日はカレーパンとかにしたいから5杯……6杯目までにしてね」


「「「カレーパン」」」


 カレーパンと聞いたドライアドたちはいつもは気怠げにしている目を輝かせた。


「「「了解しました!」」」


 それからドライアドたちは元気な返事をしたので多分カレーが尽きる心配は大丈夫だろう。

 俺は食後にクーナ関連で色々と大変な事が起こりそうだなと思い元気を付ける為に自身も3杯目のカレーを頼むのだった。

 後、現在この場にいない他のドライアドたちにはカレーパンを作って直接届ける事にした。俺の頼みで出張してる訳だしね。


「どうぞ、お替りです」


「ありがとう!」


 食事中なのにアレコレ考えて疲れたので俺もドライアドたちみたいにカレーにだけ集中する事にした。

トレミー 〜 四姉妹の長女。性格は温厚で髪型はロングヘアーで先を1つに束ねている。


トレア 〜 四姉妹の次女。姉妹の中で唯一髪型が良く変わる。基本はお下げで編み込みとかもしている。


トリシャ 〜 四姉妹の三女。露出過多。色々な秘部を隠す気が殆どない。


トリス 〜 四姉妹の四女。見た目は長女の生き写し。常にパドラが隣を付き纏っている。


パドラ 〜 クイーンべスピナと呼ばれる蜂型の魔物。アイリスの存在がトラウマになってる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ