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コタツには勝てないね

 コタツを出して数日が経った。その為、今日も談話室は大盛況だ。俺も早速空きを見付けて取られる前に滑り込んだ。


「ああぁぁ~~~っ」


 コタツに入るとポカポカとしてきて身体の力が抜けていき自然と声まで出てしまう。


『はにゃあぁぁ~~っ』


 去年、コタツの魅力を知ってしまった人たちもコタツの魔力にやられて気の抜けた声を上げていた。


「ユーリ様。先日からこの光景をよく目にしますがこれは一体……?」


 シオンの妹であるシシネがメイド服に身を包み数人のエルフたちと共にやって来た。


「そっか。シシネたちは今年来たから知らないんだっけ? シオンに何か聞いてないのか?」


「いえ、姉さんからは何も……」


 どうやらシオンは何も教えていないようだった。

 そういえば、彼女は冬前の最後のクエストに行くと言ってラグス王国にいったっきり帰って来てないんだった。

 一応、近況を知らせる定期連絡をくれるし、見捨てられた訳でないと思いたい。

 ……後で寂しいと送っておこう。彼女の様な辛辣なツッコミも俺には必要だ。


「シシネ。これはね。俺の故郷に伝わる暖房器具なんだよ」


「暖房器具ですか?」


「そうだよ。遠慮せずにこっちへ来て入ってみるといい」


 俺が手招きすると彼女たちは俺のいるコタツへとやって来た。


「我が家のルールとしてコタツの席が埋まっている時は諦めるか、あぶれた人の中で小さい人を誰かの膝の間に座らせる事にしているんだけど……」


 何故こんな事を説明するかというと俺の使用しているコタツにシシネたちを入れるとなると1人溢れるのだ。

 そして、その中で一番小さい人はというとシシネになる。


「さぁ、俺の所が空いてるよ〜」


 俺はシシネを迎え入れるべく手を広げて招いた。


「……遠慮します」


「なんでっ!?」


「私はその……他の皆さんと立場が違いますので……」


「………」


 どうやら彼女は未だ俺に対して遠慮している様だ。

 俺は彼女の周りにいるエルフたちに目配せした。


「「「………(コクッ)」」」


「えっ? えっ? ええっ!?」


 彼女たちは頷くとシシネの両脇を持ち上げて俺の膝まで連行してきた。


「いらっしゃい〜♪ シシネ、捕まえた」


「!?!?」


 シシネは仲間を信じられないという目で見詰めていた。


「シシネ様は遠慮し過ぎなのです」


「もう少しユーリ様に甘える事をして頂かないと私たちまで遠慮する必要が有るじゃ無いですか」


「仕事は終わったのですから後はゆっくりして下さい」


 という事なので、俺はシシネとコタツを堪能する事にした。




 数分後。


「はにゃぁ〜〜」


 俺の手の中には溶けきったシシネの姿がある。

 そこにエルフの巫女やリーダー役としてのしっかりした姿はなく、年相応の女の子だった。


「この子のこんな状態を初めて見た」


 隣に誰かやって来たので振り向くとシオンが立っていた。


「一体どんな手管を使ったの?」


「シオン! いつ帰って来たんだ? 随分と速いな? ラグス王国に行ったんじゃないのか?」


「どれもこれもラグス王の持つ転移門のおかげ。アナタ、いつ渡したの?」


「ベルの件の時にちょっとな」


 ベルの件でなんだかんだと世話になったのでラグス王に緊急避難用として渡したのだ。

 しかし、まさかシオンの帰りに使って貰えるとは思わなかった。


「コタツ。今年も出したんだ」


 シオンの目線はコタツに向けられていた。

 耳がピコピコ揺れていたから彼女も待ちに待っていた様だ。


「隣空いてるよ」


「入る」


 俺がコタツの布を捲るとシオンは直ぐに入ってきた。


「はぁ〜っ、力が抜ける……」


 シオンも気持ち良いのか。コタツに頭を預けて寛ぎ始めた。


「はっ!? シオン姉様!?」


 蕩けきっていたシシネはやっと姉の存在に気付いた様だ。


「シシネもコタツには勝てなかったのね」


「うん。勝てなかった……」


「私も皆と同じ様にコタツには弱い。だから、皆みたいに全て預けたいとさえ思う」


「シオン姉様もなんだ」


「そう。だから、貴方がだらけるのは仕方ない」


「………」


 どうやらシオンはシシネに対して遠回しに気を張るなと言いたいらしい。全く素直じゃないお姉さんだな。


「でも、そこでだらけるのはオススメしない」


「「ん?」」


「ユーリに食べられる。それはもう人前で声が出せないのを良い事にあんな事やこんな事まで」


「!?」


「おい!待てや!流石にここではしないぞ!?」


「しない? 帰って来た時に近況を聞いた。その時に嫁たちの間でそういうゲームが流行ってるって言ってた」


「はいぃぃっ!?」


 道理で最近嫁さんたちからイタズラさせると思ってた。

 まさか、ワザとやっているとは思ってもみなかった。


「ユーリ様……」


 シシネが怯えた様な表情で俺を見てくる。


「優しくして下さい……」


「しないからねっ!?」


 まるで俺がイタズラする事前提みたいに話を進めないでくれませんかね!?


「そうそう。するならちゃんとベットで。外で寝ると背中が痛い」


「えっ?」


「うぉい!?」


 恐らく彼女は花園でした時の事を言っているのだろう。一応その時は下に服を敷いていたが汚れないだけで痛かったみたいだ。


「よし、シオン! このアイスをやるから少し黙ろうな!!」


「有り難く貰う」


 俺はアイテムボックスから取り出したアイスクリームを口止め料としてシオンに支払った。

 コタツで食べるアイスクリームは最高だ。アイスを頬張るシオンはとても満足そうだった。


「シオン姉様。今の話は……」


「……野宿で地面に寝るのは辛いねという話だよ」


「ユーリ様とシオン姉様は冒険者だから外で寝た事が有るのは当たり前でしたね」


 シオンがアイスに夢中で喋らないのでなんとか誤魔化す事が出来た。シシネが素直な子で良かったよ。

 恐らく彼女とは外でした事が無いのも幸いしたのかもね。


「俺も冷たい物を食べるか」


 生憎アイスクリームのストックは無かったので代わりに氷属性の短剣を取り出した。

 それをコタツに乗っているミカンを取って突き立てた。ミカンは短剣の氷結効果によりあっと言う間に冷凍ミカンへと早変わりした。


「相変わらず属性剣を無駄使いしてる」


「良いんだよ。使える物は使わないとね」


 この程度の属性剣は地下の倉庫に溢れているのでどんどん使うに限る。


「……そのミカンを私にも頂けませんか?」


「私も食べたい」


「今、アイスを食べてましたよね?」


 俺は2人の分の冷凍ミカンも作り、3人でのんびりと過ごした。


「あっ、ズルい!冷凍ミカン食べてる!!」


 その後、冷凍ミカンをアイリスに見つかった事で皆の分も作る事になるのはお約束なのだった。

シオン ~ 嫁の一人で冒険者チーム『ローゼンセフィア』に所属する女エルフの弓兵。


シシネ ~ シオンの双子の妹。エルフの巫女を務めていた。

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