冬の足音
紅葉や落葉とは縁がないカリーナの森でも日に日に下がる気温が今年も冬が近付いていることを告げていた。
こんな時にこそ、アレの出番だと俺は地下室から収納された箱たちを持ち出して談話室に並べた。
「ユーリ!とうとうアレを出すんだね!!」
「あぁ、あまりのヤバさに封印したアレを解放する!」
「くっ! この日まで……よく我慢した私!今年もしっかり楽しむよ!」
「だが、まずは組み立てないとな。途中から安全性を考慮したからパーツ多いし」
「大丈夫。皆も使いたいから協力してくれるよ!ねっ、そうだよね?」
『おぉーっ!』
アイリスたちが組み立てに協力してくれる様だ。
俺たちは箱に納められた物を次々に出していく。中に入っていたのは足の付いた木枠と円盤、それから各種違う彫刻の施された板たちだ。
まずは木枠に彫刻された板たちを特定の順番でセットする。
「ユーリさん。魔力結晶を持って来ましたよ」
「マリー。ありがとう」
それからマリーから受け取った魔力結晶を木枠の中央にある箱へと収納した。
「布を持って来たから被せるわね。去年より厚くしたから保温性もバッチリよ!」
「私も作るのに協力したよ♪ だから、耐熱性も安心してね」
エロースとアイリスの合作による布を木枠にかけて、最後に残った円盤を乗せれば完成だ。
「コタツ2号機の完成!」
『イェーイ!』
アイリスたちはコタツの完成をハイタッチで喜びあった。
「去年はずっと起動し続けて燃えたからな」
初号機は大気中の魔力を吸って起動するのでスイッチを切ることが出来なかった。その為、使わない時に熱を蓄積して燃えてしまった。
構造自体は特に問題がなかったので、エネルギーの入り切りを考えて魔力結晶を使う事にしたら成功したのだ。
「それでは早速……ゴー!」
完成するや否やアイリスがコタツにダイブした。潜った後に反対から出てコタツに頭を置いて溶ける。
「私も失礼しますね」
「布を用意したから私は当然権利が有るよね? お邪魔しま~す!」
それに続く様にマリーとエロースもコタツに入った。
「箱をユーリさんと運びました。私も入ります」
「同じく。姉さん、右隣失礼しますね」
「私も働いたんだから権利有るよね? リリス姉さんの左隣ゲット!」
コタツは円盤にしたので六人入れる仕様だが、彼女たちが入ったことで満席となった。
リリスたち三姉妹はエロースみたいにわざわざ理由を付けて入る当たり相当コタツが恋しかった様だ。
「皆、蕩けきってるな」
皆の蕩けきった表情に作って良かったと思う。しかし、実はまだ問題がある。
「なぁ、まだ全部作って無いんだけど……」
『………』
俺の前には箱が後3つ。つまり、作らないといけないコタツはその数だけ有るのだ。
「当然作るのを手伝って……くれないのね」
アイリスたちは素知らぬ顔でそっぽを向いていて目を合わせようともしない。
「その……このぬくぬくから出たくないと言うか……」
「コタツの魔力に囚われてしまったと言いますか……」
「眠くなってきたと言うか……」
といった感じで言い訳すら出てきていた。
「いや、寝るのはダメだろ? 去年コタツで寝て風邪引いた人が数人いるだろ」
「ですよね~」
去年、コタツを封印したのにはこれも理由の1つである。
「しかし、イナホたちは学校で帰って来るまで時間かかるんだよな。うちのメイドたちは自分の仕事中で手伝わせたくないし……」
ここはやはり手隙のアイリスたちにして貰う外無さそうだ。
仕方ない。物で釣る作戦に出よう。
「………アイリスたちはその未完成のコタツで満足なのか?」
『えっ?』
「コタツといえばコレもセットで初めてコタツだと言えよう」
俺はアイテムボックスに手を入れて目的の物が乗ったザルを引っ張り出した。
『ミカン!』
「そう。でも、今年はコレに加えて外にも果物は有る。リンゴに桃……隠し種の葡萄。なんならパイナップルも付けようかな? さて、これらはどれもコタツに入って乾いた喉を潤してくれるだろう」
『ゴクリッ!』
「しかし、残念だ。これは組み立てるのを手伝ってくれたお礼にと用意したのだが、今のままでは渡せそうにないな」
俺は残念そうにしながら順番にアイテムボックスへしまい直していく。
「まぁ、ミカンやリンゴ、桃は倉庫に行けば有るもんね。少し寒いのを我慢すれば良いだけだし。だけど、葡萄は諦めて貰わないとね。なんせうちでは栽培してないし、今の時期入手は困難だろう。そもそも出したら人気で早い者勝ちだもんね?」
葡萄を片付けるのを最後にして一粒食べたりして見せるとアイリスたちは声を上げた。
「作る~っ!作るからコレ見よがしにしまい直さないで~っ!」
「うぅ~っ、我慢しますから私もコタツで食べたいです!」
「ちゃんと外のも皮を剥いてくれるのよね? だったら手伝うわ」
どうやら彼女たちのモチベーションは少し上がったらしくなんとかなりそうだ。
「それじゃあ、手分けして作るから宜しく」
それからの組み立ては皆で別れて作ったこともあって数分もかからずに完成した。
その後、七人で1つのコタツに入る事になった。
しかし、人数的には多いので1人は誰かの足の間に座る事になる。だから、自然に嫁さんたちはじゃんけんするのだった。
「じゃん~けん~……」
『ぽん!』
アイリスの掛け声で始まったじゃんけんは、リディアの勝利だった。
「リディア!ここは姉である私にーー」
「嫌です」
「リディア姉さん!たまには妹へーー」
「妹は死んだ」
「酷くないっ!?」
その後も三姉妹でわいわいと言い争っていたがリディアは折れずに勝ち抜いた。
「あぁ、珍しく安らぎます……後ろから抱き締めて頂いても?」
「良いよ?」
「言ってみるものでした……」
密着した方が温かいので俺はリディアに抱き着くと彼女はそれに感動していた。
「「くっ、羨ましいぃぃ!」」
それを見る姉妹はとても悔しそうだった。
「ユーリ。後で私もしてね。あっ、桃の皮剥いといたけど食べる?」
「ユーリさん。私もお願いします」
「私もユーリ君にして欲しいな。あっ、翼は直しておくね」
「大丈夫。して欲しい人は皆にするよ」
そう言うとリリスたちの三姉妹は立場が逆転した。
「えっ……」
「「よしっ!」」
リディアはショックを受けて、リリスたちはガッツポーズしていた。
「ごめんね、リディア」
「…………」
俺が謝ってもリディアは許さずへそを曲げてしまった。
そして、仕返しとばかりに俺へイタズラを始めた。
「っ!?」
「どうしたの、ユーリ?」
「なっ、何でもない」
「……な~に、ちょっと動いた時に手が私にぶつかっただけですよ」
「そうなんだ~。あれ? リディア、ちょっと赤くない?」
「気のせいですよ」
気のせいじゃないよ!?
リディアは彼女を抱き締めた俺の手が前に有ることを良いことにその手で自身の服をまさぐり始めたのだ。
俺は急いで手を引き抜こうとしたが周りに今起こっている事がバレるのは不味いと思い我慢する事にした。
その結果、彼女が満足するまで俺は遊ばれる事になるのだった。




