お夜食
普段、夜食をまったく食べない人も夜中に妙にお腹が空く事があるだろう。俺もその一人で皆が寝静まった時間に目が覚めた。
「お腹が空いた……」
目が覚めた理由はどうやら空腹らしい。
晩飯はしっかりと食べる派なので何時もは朝までぐっすりなのだが、今日は寝る前に頑張り過ぎたのかもしれない。
「とりあえず、軽く食べてから寝よう」
アイテムボックスには熱々のご飯が収納されている。俺は夜食を作る為にベットを抜け出して厨房へと向かった。
最悪おにぎりだけでも良いが他にも何かないだろうか?
「唐揚げ……卵……特製チリソース……」
厨房に行き冷蔵庫を開けると珍しい事に晩飯の残りである唐揚げが残されていた。
その他にもハムやらソーセージやら色々有ったが俺の目は自然と卵と特製チリソースに向いてしまった。
「久しぶりに鶏卵チリ丼作ろう」
夜食として丼ものはどうなのか? とも思ったが、それはそれ。食べたくなったのだから仕方ない。
「苦学生時代、毎日の様に食っていたんだよなぁ〜」
鶏卵チリ丼と言っても一種の親子丼みたいな物だ。
唐揚げを薄切りにして卵でとじる。仕上げにチリソースをかけるといった簡単な作業で完成する。
「単純だけど美味いんだよな」
唐揚げの薄切りなので親子丼よりも厚みがあって鶏肉をしっかりと堪能できる。下味は唐揚げの時についているので手間要らずだ。
また、卵でとじたとはいえ唐揚げの衣のサクサク感は十分残っているし、チリソースの辛さがご飯の進みを速くしてくれるだろう。
「頂きます」
俺は箸で鶏卵丼を口に放り込んだ。半熟卵の甘味とチリソースの辛味が熱々のご飯を更に要求する。俺はどんぶりを掴みご飯をかきこみ……。
「こんな時間に食べると肥りますよ?」
「んぐっ!?」
「あっ、いけませんね。お水をどうぞ」
「ゴクゴクゴクッ……助かったよ、ダフネ。ってか、何で居るの?」
突然の登場にビックリして喉に詰まらせた俺に水を渡してくれたのは上位精霊のダフネだった。
「今日の夜回り担当だったマローナと過ごしていたら、彼女が手を離せなくなったので代わりに夜回りしていました。そしたら厨房に明かりが見えたので来た次第です」
精霊は睡眠を必要とせず基本起きている事の方が多いので、夜の見廻りの担当の娘と一緒にいて貰う事が多いのだ。
「なるほどね。マローナは何してるの?」
「クレアの赤ちゃんが夜泣きしていたのでそちらに回っていますよ」
「あれ? 産まれてからもうそんなに経ったっけ?」
赤ちゃんの夜泣きは、経験も合わせて大体生後3カ月から生後1年半前後に起きやすい。
最近色々と物事が起こり過ぎて時間の経過を早く感じていたし、部屋に色々な防音対策が施されているのでまったく気付いていなかった。
「クラリスが夜泣きなら月華たちもか?」
クラリスというのは、クレアが産んだ女の子だ。
彼女は如月たちの赤ちゃんよりも少し先に産まれたので、夜泣きが始まったのならば彼女たちの赤ちゃんにも起こるだろう。
「いえ、そっちはまだです。ハクみたいに大人しいと良いのですがね」
モモちゃんの息子である人間族のハク。
ハクは夜泣きの期間がとても短くて、泣いている時間すらも短かったのであまり手の掛からない子だ。
夜泣きの原因は赤ちゃんの体内時計が未発達な為に起きるらしい。
その為、睡眠のリズムがうまく取れずに短いサイクルで寝たり起きたりを繰り返すのだ。
または、赤ちゃんの脳は急激に発達するらしく、起きている時に脳が受けた刺激を睡眠中の脳が処理しきれず目が覚めるから起こるとも言われている。
そんなハクは後者なのかもしれない。念動をマスターしたモモちゃんが昼間にベビーカーに乗せて連れ回していたのを心配しながら皆で見守っていたからだ。
でも、ベビーカーを念動で浮かせるのは止めような。力尽きて落としたら不味いから。
「クレアも同じ部屋で寝てるよな? 寝顔を見に行こう」
俺はテレビ番組で寝ているアイドルの部屋を突撃するノリでクレアの部屋に向かった。
「こんばんは~、お邪魔します~」
俺は赤ちゃんベットで寝ているクラリスを起こさないように通り過ぎベットを覗き込んだ。
目的のクレアはベットに張られた防音の魔法もあってぐっすりと寝ていた。
「ふふっ、こうしてまじまじ見ると本当にお母さんに見えないよな。ほっぺも子供みたいにぷにぷにだし」
人差し指でクレアの頬っぺたをぷにぷにしていたら事件が起こった。
「んんっ……ちゅぽっ。ちゅうちゅう」
「えっ? ええっ!?」
寝返りを打ったクレアに指を咥えられたのだ。しかもかなり強く吸っているらしくなかなかに指が抜けそうになかった。
「えっ? ちょっ、どうし……」
「ふぇええぇぇーー!」
「クラリスも泣き出したわ……」
クレアに指を吸われて動揺しているとクラリスの夜泣きが始まった。幸いな事にベビーベットには片腕が届いたのでちょっと危険だが片腕だけでクラリスを抱き寄せた。
「ほぉ~ら、お父さんですよ」
「………」
片腕でクラリスをあやしているとクレアに薄目が開き指が離された。俺は確実に両腕でクラリスを抱き締めた。
「クレア。起こしたか?」
「ユーリさん……」
クレアは寝惚けているのか薄目のままベットからのそりと起き出しそのまま座り込んだ。
「ユーリさんが夜なのに1人……夢……?夜這い?」
「どっちが良い?」
「う~んとねぇ……」
クレアはベットから降りて、ふらふらとした足取りで俺の前に来ると膝を付いた。
「なんかね~、お口が寂しいの。さっきまで何かを加えていた様な? だから、ご奉仕するの。夜這い決定~♪」
「ぶっ!?」
両腕が塞がっていた為にクレアにされるがままにズボンを下げられた。唯一の救いはパンツがまだ大丈夫なことだろうか?
「ユーリさんが悪いんだよ。あんな味を覚えさせて……。たまに無性に欲しくなっちゃう。私をこんな身体にした責任は取ってよね」
「いや、それは……」
「だから、今から頂きます♪」
「くっ!? 俺はどうすれば!?…………んっ?」
さすがにクラリスのいる前でやるのだけは気が引けるのでどうしようと悩んでいたが一向にパンツを下げられる気配がない。
下を見るとクレアが俺に倒れかかる様に寝ていた。
「ふう……助かった」
そう思っていたら後ろの扉が"ガチャリ"と開いた。そこに立って居たのはダフネとマローナだった。
「「事後?」」
「事後ちゃうわい!?」
俺の様子を見た第一声がそれってどうなんだろうと思った。
それと大声を出したことでクラリスが泣き出したのでマローナに任せて俺はクレアを寝かし付けた。
その後、2人に説明していたらマローナがこれ見よがしにアピールしている事に気付いた。よく見るとクラリスに片胸を与えていた。
「赤ちゃんって何かを咥えると大人しくなるんですよ」
「確かにな」
「所で、私の母乳はいつ出る様になるんでしょうかね」
「子供は計画的に行こうじゃないか!」
とは直接言えなかったので黙秘を貫く事にした。とりあえず、俺特製のおしゃぶりは増産しておこう。
翌日。
「はう~、昨日はスミマセン!」
顔を真っ赤にして悶えるクレアに謝罪された。
「ははっ、良いって良いって!寧ろクレアの本音が聞けて良かったよ」
「あのっ!それはっ!?」
「さて、クレアの今日の予定はキャンセルしました。リリィから新しいジョークポーションも渡されているし……」
ただ副作用で腹上死するのではないかという気もしなくはないが好奇心には勝てない様だ。
「溺れるくらいまで頑張ってみようか」
後日。このジョークポーションは心臓への負荷とカロリーを大量に消費するので発売中止になるのだった。
クレア
角族の嫁さん。ミズキたちと身長があまり変わらない。ダンジョンで出会った。
マローナ
角族の嫁さん。中学生の様な若さだが、見た目に反してなかなかの胸を持つ。クレアと同様にダンジョンで出会った。
月華
ユーリと如月の子。天狗族のため性別未確定。




