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愚者の企て

「ふん!何が新魔王だ!!」


 俺の名はカイム。六翼王が一人でいずれ魔王になる器だ。

 今は六翼王に甘んじているが隙有らば魔王にとって変わるつもりでいた。そんな折り、我らがトップである魔王が突然辞職して入れ替わったのだ。


「だが、何故にヴィネアの奴を魔王と崇めなければならん!」


 ヴィネアは情報戦に長けており、奴に弱味を握られている者もそう少なくない。

 そして、それらを使った搦め手は奴の得意とする所だ。

 だから、奴に弱味を握られまいと忌避する者も多かったのだが、それがどうした事か魔王である。

 何かの悪い冗談だろうか?


「……だが、これは好機か!」


 嫌われ者が魔王になるということは毛嫌いしていた者たちを仲間に出来るという事だ。人数が増えればそれだけ反逆も可能になる。


 まずは、ヴィネアのバックを調べるとしよう。

 突然の魔王城襲撃と魔王の交代。どちらもお互いに連携を取らないと無し得ないものだ。

 俺は早速魔王城に配置した密偵たちから情報を聞き出す事にした。





「ヴィネアを毛嫌いしてる者に心当たりは無いか?」


 メイドに扮して小部屋を掃除していた密偵の女を見付けたので声をかけた。


「……数人居ますがそれを何に使うおつもりで?」


「決まっている。俺が魔王になる為に奴への反逆者を集めてグルだと思われる魔王城の襲撃犯たちごと叩くのさ!」


「………」


 何故か、凄く哀れみの目を向けられた。


「………すみません。密偵を辞職します。機密は洩らさないのでご安心を」


「何故だっ!?」


 俺は辞職するのを踏み止まらせようと彼女の肩に手を置いた。


「嫌っ!触らないでっ!!セクハラよ!パワハラよ!」


「こら、こらっ!騒ぐのを止めないか!!」


 その後、セクハラだパワハラだと騒ぎ続けたので仕方なく他の密偵を当たることにした。

 タイミング良く廊下を通りかかった警備兵たちの中に密偵がいたので彼を呼び出して聞くことにした。


「どうしました?」


「ヴィネアを追い落とす為にバックにいる襲撃犯の事で知ってる情報を教えろ」


「………」


 警備兵はとても良い笑顔を向けた後…………俺を拘束して警備長に引き渡した。


「反逆者です」


「はいぃぃ!?」


 いやいや、ちょっと待って!

 私、君の雇用主なんですけど!? 今までに結構な額を見返りとして渡しましたよね!?


「自分は……金より命が惜しいです」


 悟りきった顔で遠くを見詰める密偵だった。


「何があった!?」


 一体魔王城が襲撃された日に何があったんだ!?


「今までお世話になりました。警備兵の仕事だけで食って行けるので貴方の仕事は遠慮します。お金は使いきったので悪しからず」


「この裏切り者ぉおおっ!!」


 その後、警備長に色々と言い訳を繰り返すことで何とか解放してもらった。


「全くとんでもない目にあったわ……。今の男にこれ以上関わるのは止めておいた方が良いな」


 妙な事を口走られてヴィネアに警戒されたら身も蓋もない。


「仕方ない。六翼王を仲間に率いれることを優先しよう」


 声をかける者は既に決めていた。先の六翼議会で魔王城の襲撃犯を許していいのかと発言していたガープという名の男だ。

 奴は魔王に対して強い拘りがあるらしく、ことあるごとに魔王とはこういう存在で在らねばならないなどと口走っていた。奴ならばヴィネアが魔王になるのを許す気はないだろう。


「ガープ! 一緒にヴィネアを負い落とさないか!」




 数日後。


「ヴィクトリア様。こちらが魔王国から妖精の箱庭(フェアリーガーデン)への不可侵協定になります」


「うむ。大儀である」


「そして、こちらがこの里に敵対の意思を向けた哀れな男です」


 俺はヴィクトリア様が住む里に連れていかれ引き渡される事になった。

 どういう流れでこうなったかというと……まずはガープを勧誘したらモラルタとベガルタに引き渡されたのだ。その結果、当然ヴィネアの耳にも届き今に至るのだ。


「森にでも放り出せば良い罰になるでしょう」


「いっ、命だけはご勘弁をっ!!」


 冗談じゃない! このカリーナの森は魔王国にも話が伝わるほどの危険な森なのだぞ! 一人で放置された日には即死するわい!!


 というか、そもそもこんな場所に里が有る事の方がおかしい。作った奴らは正気なのだろうか?


 いや、今はそれよりもどうやってこの状況から生き残ろうか考える事を優先せねば!


「あれ? ヴィーちゃん、こんな所で何してるの?」


 そんな風に考えていたら青髪をした少女が森から出てきて目を見開いた。その手に握られたロープの先にはブレイクフィッシュと呼ばれる魔物化したザリガニが繋がれていたのだ。


「アイリス、貴方が一人で狩ったの!? というか、ブレイクフィッシュもこの森にいるの!?」


「いるよ。本当はダフネたちが見付けたんだけど彼女たちじゃ倒すのに時間がかかるからわたしが行ったんだ」


「なっ!?」


 少女の発言に耳を疑った。ブレイクフィッシュはその堅さから危険度がA+に匹敵する魔物なのだ。それを一人で狩ったなど信じられなかった。


「………ブレイクフィッシュも食べるの?」


「そうだよ! 生だとぷりぷりで、茹でるとふわっとしてて絶品なの! 出汁も良く出て最後にご飯を入れると……じゅるり」


「………ごっくん」


 少しヨダレの出る少女と喉を鳴らすヴィクトリア様。俺は食べた事がないが、二人のやり取りから相当美味い事が分かった。もし生きて帰れたのなら冒険者に依頼して食べてみよう。


「所で、この縛られた人は誰? ってか、何で縛られてるの?」


「それはですね。彼がこの里と敵対しようとしたからです」


「はぁ?」


「ひぃっ!?」


 一瞬自分が殺された気がした。敵対と聞いた瞬間に少女から漏れた殺気に当てられてしまったのだ。

 しかも自身の能力である魔力測定で彼女が異常なまでの魔力を有していることに気が付いた。


 なっ、なんだこの魔力量は!? ヴィクトリア様を優に越えるではないか!?


 先の殺気も合わせてその少女の存在こそが本当の魔王でないかと思えてきた。


「ここで話してるのはマリーの指示?」


「いいえ、違います。彼を森に放置しようかと考えていたもので……」


「それだけは! それだけはご勘弁を!! 望みの物を用意しますし、契約も交わしますのでどうか!!」


「……あ~っ、止めた方が良いよ」


 俺の懇願が効いたのか、アイリスと呼ばれる少女が同情してくれた様だ。


「骨が残らないから家族が悲しむよ? 下手したら恨まれるよ?」


「同情違った!?」


 彼女にとって俺の死は他人事でどうでも良い様だった。


「それに生き残ったら生き残ったで大変でしょ?」


「まぁ、確かに……」


「だから、私から良い提案が有るの。これなら彼は死なないけど大人しくなると思うんだよね?」


 そう言って笑う彼女を見て何故か悪寒が止まらない俺だった。

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