オ・シ・オ・キ♪
「ーー以上が魔王城での現状です!!」
「ちょっ、ちょっと待って爺や!?魔王城の結界が強引に破壊されたと言うのは事実なの!?」
「事実……ですっ!」
「嘘っ……でしょ? だって、歴代の勇者たちですら破る事は叶わず正規の方法で入るか外出中の魔王を襲うかしたのよ?」
「ええ、そうです。しかし、彼女たちがこの短期間で六翼王たちを倒すとは考えられません」
「そうよ!六翼王!確かその内の2人……アゼルとフォルネが魔王城に滞在してたでしょ?」
「………」
ヴィクトリアの言葉に目を逸らす爺や。その動作が既に何かあった事を示していた。
「爺や……?」
「既に……既にヤラれたそうです」
爺やから戦いの詳細を聞くとヴィクトリアは何とも言えない表情になっていた。
*******
魔王城右側の2階。そこには下で戦うイナホたちが登って来るのを待ち構えるアゼルとフォルネ。それから2人の部下の姿があった。
「なぁ、フォルネ。魔王城へ強引に侵入するとか、お前さんより若くて活きの良い小娘たちじゃないか?」
「失礼ね。アザル。私はコレでもそこらの娘に若さで負けるつもりは無いわよ。来たら年の功を教えてあげるわ」
「その言い方の時点で若く無いだろに……」
「煩いわね!? 私の手にかかれば瞬殺よ!しゅん……えっ?」
「はっ?」
突如2人の元で爆発が起きた。一瞬の閃光と共に2人の姿は爆炎に飲み込まれた。
「アゼル様!? フォルネ様!?」
部下たちが急ぎ爆心地へ向かうと、そこには底の抜けた床とボロボロに崩れ去った壁の瓦礫に埋もれ、白目を向いたアゼルとフォルネの姿があった。
直ぐに攻撃だと悟った部下たちは急ぎ階段に目を向けるもイナホたちがまだ登ってきた様子はない。
「いっ、一体何処からっ!?」
まだ到着していないイナホたちと倒された自分の上司。部下たちは見えない敵に対する恐怖に一時の間苛まれるのであった。
ちなみに、2人を襲ったものは流れ弾である。
実は、1階の戦闘において天井付近を飛ぶエロースに向けて放たれた火の魔法をイナホが狙撃して防ぐ場面があった。
その際、相殺する筈が偶然にも属性が一致。同属故に混じり合い、威力の強いイナホの攻撃は増幅され、そのまま天井を突き破り2人を巻き込んだのだ。
正直、運が悪いとしか言えない出来事だろう。
*******
「あ〜っ、そろそろ俺を開放する気ある? 多分もう遅いと思うけど……?」
「開放したら魔王城は助かるのですかっ!? ユーリ様!!」
現状を一番知ってる爺やが助けを求める様な目で見てきた。
「……無理じゃねぇ?」
「そっ、そんな……!?」
というか、俺に毒を飲ませた張本人を助ける義理はない。
それにうちのアイリスたちは本気を出していないからこの位で済んでいるのだ。彼は諦めるべきだと思う。
「爺や!諦めるのはまだ早い!!妾にはお主を含めた六翼王たちよりも強い魔王親衛隊四天王がいるではないか!!」
「……まぁ、一人放浪の旅に出てますけどね」
「四天王……」
「な〜に、四天王の存在に怖じ気づいちゃった?」
「噛ませ犬?」
「酷っ!? 確かに勇者にとっては噛ませ犬になる事も多いけどお兄ちゃんたちは違うでしょ!?」
四天王が噛ませ犬だという自覚は有るんだ。正直その事にビックリした。
「そもそも執事の爺さんが四天王なら双子のメイドも四天王なのか?」
「そうよ。冷笑のモガルタと暴虐のベガルタと呼ばる子たちでね。Sランクに匹敵する程強い上に残忍で冷酷な子たちなのよ!!」
Sランクでは無いんだってツッコミたいが止めておこう。それ以前に伝えないといけない事がある。
「えっ? でも、彼女たちなら既にスライム漬けになってますが?」
俺はヴィクトリアの背後で起こっている現実を彼女に教えてあげた。
「ふぇ?」
彼女は俺の視線を追って振り返るとその光景に硬直した。
そこにはスライムに全身を凌辱されて見悶える双子の姿と笑顔で手を振るアイリスが立っていたのだ。
「ユーリ。迎えに来たよ」
「ありがとう、アイリス。寝てる間に色々されたらしくて鎖が切れなかったんだ。しかも毒まで盛られたみたいで……」
「へぇ〜……」
「「ひぃっ!?」」
アイリスから漏れる怒りのオーラが般若の様に見えて俺まで悲鳴を上げてしまった。
「妾……じゃないもん!飲ませたのは爺やだもん! ほら、爺やも何か……爺や?」
ヴィクトリアが爺やに問い掛けるも返事が無い。
それもそのはず、いつの間にか爺やは部屋から姿を消していたのだ。
「爺やっ!? 逃げやがったぁああーーっ!?」
「……とりあえず、執事さんを追うのは後にして先に鎖を外すね」
アイリスはモガルタとベガルタを無造作に放ると転移で俺に近付き鍵穴に指を入れて鎖を外してくれた。
「さて、ヴィーちゃん。反省のお時間だね」
「しっかりとお仕置きするから覚悟してね♪」
俺は何が起こっても良い様に一応フラガラッハを装備した。
「何故っ!何故こんな目にっ!!かくなる上は……ユーリお兄ちゃんを道連れに私も死ぬ!!」
「何故そんな選択になるんだ?」
「煩い!!デスサンダー!!」
ヴィクトリアから迸る黒き雷が大きな殺意を持って俺に迫ってきた。……なので、俺は虫を払う様に"ペチッ"って払ってみた。
「ふぇ?」
俺の手に叩かれた雷が明後日の方向へと飛んでいった。
理由は、真フラガラッハになった事により装備していると全身に風の防護膜を形成する様になったのだ。それにより受け流す事が可能だった。
「………」
「………」
あまりにも普通じゃない避け方にヴィクトリアは沈黙した。
夢でも見たと思ったのか、自分の頬を抓るとやり直しを要求した。
「……ごめん。やり直すね。デスサンダー!」
「てい!」
「………」
「………(ニコニコッ)」
魔王相手だというのにあまりにも余裕が有り過ぎて笑顔が漏れてきた。
「最大出力!デスサンダー!!」
「あらよっと!」
「なんでさっ!? デスサンダー!デスサンダー!デスサンダー!!」
「てい♪ そらっ♪ よっと♪」
その後もヴィクトリアは魔力切れを起こすまで何度もめげずに攻撃を放って来たがアッサリと尽く払い退ける俺だった。
その後、力尽きて大人しくなったヴィクトリアを先程の鎖で拘束した。そこへアイテムを抱えてアイリスが戻ってきた。
「ユーリ。私、彼女に色々聞きたいからさ。平穏なる小世界を持って来たよ。もう抵抗出来ないだろうし。身体に聞くとしよう」
「拷問でもする気なの!? 妾はコレでも魔王よ! 決して屈したりしないわ!」
「はい。フラグ頂きました。ユーリ、一緒に頑張ろうね」
「あっ、やっぱりそういうこと?」
「ふっふっふっ、ユーリと私の前に本当に屈せずにいられるのかしらね?」
「いっ、一体何を企んでっ!?」
「私も女だからね。匂いには少し敏感なの。事前に聞いてたし、部屋に入ったら匂ったから直ぐに分かっちゃったんだ。
でも、その様子じゃ本気のユーリを知らないみたいだし。限界まで挑戦してみようね♪」
「ちょっ、何か悪寒が走ったのだけど!?」
「それでは1名様を天国へご招待〜!」
その後、イナホたちが部屋に到着するまでの間、アイリスと一緒にヴィクトリアへ立場の違いを教え込むのだった。




