魔王推参!
「う〜〜ん……」
「あら、起きたの? 思ったより速かったね」
「………」
俺は目の前で起きてる事態に思考が停止した。
まずは声に出して現状を把握してみようじゃないか?
「起きたら裸でベットに鎖で繋がれてて、更に上には全裸の少女が跨っていましたと……どういう状況っ!?」
「ユーリ!妾を馬鹿にしないで!既に成人してるし竜の倍は歳を取ってるもん!!」
「なるほど……合法ロリ!というか……ヴィーちゃん?」
改めて幼女の事を見ると伏魔殿を一緒に回っていたヴィクトリアだった。
「やっと妾の事に気付いたのね。このウッカリ屋さんめっ!」
「いやいや、俺の知るヴィーちゃんはそんな一人称じゃなかったよ!? しかもそんなに長い両角や羽根、尻尾は無かった!!」
彼女は自分の事を"妾"ではなく"私"と言っていたし。
今の彼女には色々と属性がてんこ盛りにされていた。
「アレは正体を隠す為の変幻なの。竜種のアレに近いと思えば良いよ」
「生態変化?」
「そうそれ。アレと同種の魔法なの」
確かにアレならば完全に隠す事が出来るだろう。
しかし、そこまでして何が目的なのだろうか? わざわざ俺を拘束している訳だし。
「所で、アイリスたちは?」
彼女たちも一緒に居たのに俺が拉致出来るとは思えなかった。
「あぁ、貴方のお嫁さんたちね。……覚えてないの? 闘技大会の後に何があったのかを?」
「………」
俺はヴィーちゃんに言われるがままに覚えている範囲で記憶を遡って見る事にした。
**********
「「「ヴィクトリア様!!」」」
闘技大会が終わった後、俺たちの元に初老の執事と双子のメイドが駆けてきた。
「あっ、見付けた」
「この人たちがヴィーちゃんの探していた従者さん?」
「うん、そうだよ。お兄ちゃん」
「「「ヴィーちゃん!?」」」
気軽に彼女の愛称を呼ぶ俺に驚いたのか、従者さんたちは驚きの目を自分に向けてきた。
「爺や。命令です。この方たちを招待しなさい。祝うのよ」
「「「っ!!」」」
見てる目の前で従者たちに緊張が走った。
「招待?」
「お兄ちゃんが闘技大会で優勝したんだからお祝いしないとね。代金は我が家が持つから楽しもうよ。それにお兄ちゃんの奥さんたち? 私にも紹介して欲しいな」
「でもなぁ〜、見ず知らずの人に奢って貰うのはちょっと……。それに友人もいるし」
「いえ、ヴィクトリア様を保護して下さったのです! それくらいはさせて頂けませんか? 絶対に損はさせませんから!!それとも当家では不満なのでしょうか!!」
やんわりと提案を否定しようとしたら執事さんによって断れない雰囲気にされた。
「分かった。ヴィーちゃんの家にお世話になるよ」
「うん。そうしよう」
「では、馬車を呼びますね」
その後、馬車によって案内されたのは立派なお屋敷だった。
うちの屋敷に匹敵する位に大きくて広く、内装は豪勢の一言に尽きる程だった。
「ささっ、皆様。ごゆるりとお過ごし下さい!」
「食事にお菓子何でも有りますの」
「最高級品のお酒も用意してますの」
『わぁ〜い!』
豪華な食事に良い匂いのするお酒。俺の為に用意された祝勝会はとても楽しいものになりそうだ。
祝勝会が始まって1時間後。
「もうユーリ!ダメだよこんな所で!!」
「ああん!ユーリさん!もっと!もっと御恵みを下さい!!」
「ぐす……ユーリさんの意地悪……」
「あははっ、皆潰れてやんのっ!あははっ!」
完全に出来上がっている酔っ払い共。一部は寝落ちして淫らな夢を見ている様だった。
俺はヴィーちゃんの家に迷惑をかける訳にいかないので、彼女たちを抱き上げて順番にホテルへ転移させた。
「おや、皆様は?」
全員ホテルへ連れ帰りヴィーちゃんの屋敷に戻ってみると彼女を寝かせに行った執事さんが帰ってきていた。
「皆が酔い潰れてしまったのでホテルに送り返しました」
今頃アイリスたちもベットでぐっすりだろう。
「……転移。お嬢様は人を見る目をお持ちでいらっしゃる。時にユーリ様は毒に耐性でもお有りなのですか?」
「うん? 毒?」
「いえね。アルコールは毒の一種だと言われる事も有りますからね」
「ああ、そういうこと。俺はそっち方面に耐性を持ってるから直ぐに抗体が出来るんだよ」
「……なるほど。ならまだイケる口という事ですかな?」
「ああ、まだ飲めなくはないよ」
「でしたら私所有の秘蔵酒に強いのが有りましてな。一緒に飲める相手がおりませんのです。良ければどうでしょう」
彼もアイテムボックス持ちなのか、虚空に手を入れてガラスの容器を取り出した。
それを俺の器に注ぐと茶色の液体に満たされた。
「ささっ、どうぞ」
「あっ、その、頂きます」
液体を見た瞬間嫌な予感がしたが、既に注がれてしまったので仕方なく飲むことした。
「くはっ!?」
その瞬間、喉が焼ける様な感じがした。そのことから相当強い酒だという事が分かった。
しかも酔いが一気に回ってきたのか視界が揺れ始める。
「おや、耐えますか。なら、もう一杯どうでしょう」
「んぐっ!?」
今度は執事の器に注がれた物を無理やり飲まされた。
その結果、酔いが完全に回ったらしく意識が飲まれてしまった。
********
「完全に酔い潰れてた……」
でも、イナホたちは酒を飲んでいなかった気がするが? それにアイリスもマジで酔ってた気がする。
「皆の飲み物に細工したのよ。でも、ユーリが飲んだのは毒だけどね」
「毒ですとな!?」
「アレから半日もせずに起きるなんて相当耐性が強いのね」
「ちょっと! 下手したら死んでるですけど!? そこまでするか普通! マジで一体目的は何なんだよ!?」
「目的ねぇ〜……。それを話すには私の自己紹介が必要ね」
「自己紹介? ヴィクトリア・アスモデウスじゃないってこと?」
「いえ、名前は合ってる。ただ妾には立場というものがあるのよ」
「立場?」
「そうよ。す〜っ……聞いて驚け!妾は魔王なるぞ!!」
「あっ、うん。そう」
「軽っ!?」
「いや〜、それくらいじゃ驚けなくてさ。なんせ嫁さんに元を含めて王女が3人いる訳だよ。今更魔王が現れてもねぇ……」
王様の知り合いも多いので特に驚く事は無かった。
「えっ? 魔王と聞いて驚かない……? あの中に王族が数人いるの? 妾、マズい人に手を出した?」
俺の反応にショックを受けたのか?
ヴィーちゃんは俺の上で四つん這いになりブツブツ言い出した。
「あの〜っ、それで目的とは?」
「目的……そうだった。言う約束だった。妾の目的とは妾に並ぶ条件を満たした番を探し子を成す事じゃ。その為に……ストップ。垂れてきた」
会話の途中でシーツを掴み下半身を隠すヴィーちゃん。その行動に見覚えがあったので俺はツッコまずにはいられなかった。
「何が垂れてきたのっ!?」
「妾の口からちょっと………」
顔を赤らめて恥ずかしがるヴィーちゃんだった。
妙にスッキリした感覚があるけど……まさかね?
「とりあえず、ヴィーちゃん。この鎖をーー」
ドゴォオオーーン!! 突如爆音と共に建物が揺れた。
そして、激しく壁に打ち付ける様に扉が開け放たれて誰かが駆け込んで来た。
「大変です!ヴィクトリアお嬢様!!」
入って来たのは俺に毒を盛った張本人こと執事さんだった。
「ユーリ様の奥方たちに襲撃されました。魔王城の半分が吹き飛びました! しかも、兵の半数が戦闘不能です!!」
「「はぁ?」」
俺は執事の言葉を理解するのに数秒を要するのだった。
完璧な状態無効は無いと思っているので、経口摂取で有ることと巨人すらも数週間昏睡させる毒という組み合わせから一時効いた感じです。




