魔族との戦い
迷子の周知の為に参加した闘技大会を俺は順調に勝ち進んでいる。
「セイッ! ヤッ! ハァーッ!」
向かってくるのは対戦者の連続した剣技の乱舞。それを俺は魔力で作った爪で受けるのではなくいなしていく。
「まだ、甘いし遅い」
「っ!?」
竜種のベティと素手で組手をしていただけあって、ただの剣撃程度なら軽くいなす事が出来ていた。
「雷撃の爪」
「がはっ!?」
武器を払われて隙だらけになった対戦者を爪で切り裂いた。
爪にはその上から雷魔法を纏わせているので対戦者は感電して地に倒れ伏した。
「剣士が多いな……」
ある程度予想出来た事だが、戦った者たちの中には魔法を使う者が全くいなかった。フィールドが狭い為に詠唱する余裕がないと思ったのだろう。
俺なら基本正面から受ける気でいるので使えば良いのだがわざわざ言ってあげる義理もないので普通に戦っていた。
でも、使う者が皆無かと言えばそれは違う。無詠唱で行う者や事前に発動した魔法をセットしておく者等がいた。そういった奴らは見るからに強かった。
「ここからが本番だな」
残り一桁近くなり残っているのは生粋の魔族たちだ。
多碗の者から自身の魔族特性を生かす者、半巨人並みに大きい者など一筋縄ではいかない事が目に見えていた。
「尤もデカいだけなら意味が無いんだけどさ」
試合が後半になって最初の対戦相手はカトレアの男版の様な大男だった。
武器も大剣と装備まで似てはいるが技量は全く無くてパワー頼り。しかも魔力耐性がないのは当然だが武器に纏わせることすらしないのだ。
「ごはっ!?」
俺は大男が剣を盾にしたので、そのまま上から殴り付けた。
魔力を纏っていないただの大剣が俺の拳に耐えられる筈もなくあっさりと砕け、持ち主と共にフィールド外へと吹き飛んだ。
「よし、これで準決勝確定!」
「お兄ちゃん凄い! 勝ったね!!」
試合終了と共に駆けてきたヴィーちゃんとハイタッチして勝利を分かち合った。試合後の恒例となったこの光景に観客は温かい視線を向けていた。
そんな俺の背後から近付いてきた人物が背中をバンバン叩く。
「がっははっ!人の子にしてはやるではないか!!」
「ちょっ!? 痛い痛いっ!止めてくれ、アレス!!」
「おっ、叩き過ぎたか? すまんの。他種族の感覚はイマイチでの」
「いや、普通の魔族でも痛いと思うぞ」
俺の背中を叩いて来たアレスという男性は祖先にリザードマンを持つ魔族だ。
彼は種族特性でその身を硬化させる事が出来る。残った選手の中で戦闘スタイルが似ていた俺に声を掛けてきたので親しくなった。
「おいおい、戦闘じゃねぇから硬化してねぇぞ?」
「勢いと回数が有り過ぎるんだよ」
「悪いって!俺もお前さんの勝利に浮かれてたからよぉ~。なんせ次の対戦者は俺だし」
「えっ? マジで?」
「マジマジ」
「お~い、審判!ここで試合前にーー」
「止めぃ!」
残念なことに審判への密告はアレスに邪魔されてすることが出来なかった。多分背中が赤くなってると思うから密告したら不戦勝に出来ると思ったのだが。
「凄く残念そうにするなよ!男なら拳で語り合おうぜ!!」
「すみません。私熱血キャラではないので……」
「アレだけ好戦的に殴っているのにっ!?」
それ関係あるのか?
というか、魔力を纏った剣すら通さない硬化されたその身体を殴りたくないのだが……。
「アレスさ~ん、ユーリさ~ん!試合を始めますので入場して下さ~い!!」
「ほら、行くぞ」
「え~~っ……」
俺はアレスに引きずられながらフィールドに出るのだった。
勝っても負けても試合をする必要が有るので長期戦になりそうなアレスとは戦いたくなかったがそうも言ってられない様だ。
「ユーリ!ファイト!!」
「ユーリさん!次の試合も期待してますからね!!」
「私たちの旦那の実力を皆に知らしめてあげて下さい!!」
観客の中にアイリスたちが混じって応援していた。さっきの試合にはいなかったので今来たのだろう。
「あの娘らは、お前さんの嫁か?」
「そうだよ。おかげで真剣にやる必要が有りそうだ」
「嫁の前だからな。見栄を張るのは分かるぞ。でも、俺が勝利を譲る気はない」
「大丈夫。ただ殴るだけが戦いじゃないからね」
「?」
俺の話に怪訝そうな表情をしたアレスを他所に試合は始まった。
「鋼鉄の鱗!」
アレスの身体が硬化すると皮膚が鱗の様に逆立った。その鱗にはアレス本人の魔力が常時流れており破壊する事は難しいだろう。
「ウォオオーーッ!!」
「ハァアアーーッ!!」
雄叫びを上げて挑んでくるアレスをすれ違い様に連打するが勢いは止まるはずも無く拳の応酬となった。
「ちっ、硬いな」
殴る度に素手で木を叩くみたいに痛みが伝わってくる。
しかし、肉体の強度が生前よりある為にその程度で済んでいた。
「くっ!すばっしっこい!!」
アレスの攻撃は思いの外速く、受けると骨に響く程のダメージを負わされていた。
なので、殴っては避け殴っては避けのヒットアンドアウェイを繰り返した。
「ホントにちょこまか……ごばっ!?」
突如吐血して片膝を付くアレス。
本人は何が起きたのか理解しておらず呆然と自分の血を見ていた。
「アレス。降参して。内臓が痛くないか? 今は戦闘によるアドレナリン分泌で痛みが良く分からないと思うが、このまま続けたら死ぬかもしれないぞ?」
「こっ、これはお前の攻撃なのか!?」
顔を上げたアレスが原因は俺にある事を知って驚愕の表情を浮かべていた。
「冒険者が硬質な魔物を狩るときにハンマーを使うだろ? アレを手で再現したんだ」
「衝撃貫通による内部破壊……?」
「そうだよ。場所によっては鎧通しって言うらしいけど」
「あ〜っ、こりゃあ勝てねぇわ。俺とハンマーは相性悪いしな。それを素手ってか? どんだけ器用なんだよ。降参だ降参!」
アレスは俺の説明で納得したのか、アッサリと降参を宣言して早々にフィールドを去っていった。
「アレスが負けたか。それは僥倖。優勝するのは我に決まったものだな!」
代わりに入って来たのは決勝戦の相手である多腕の魔族。
その手には各種違った武器が握られており、彼の試合を見たが手数と武器の連携スピードこそが彼の持ち味の様だった。
「さぁ、覚悟せよ!」
「………」
一方的に話されて試合開始と同時に彼は意気揚々と向かって来た。
武器が一斉に俺へと殺到する。そのスピードはとても速く避けられる様には見えない。
「はぁっ?」
尤もそれは通常の人たちから見た話である。彼のキョトンとした視線は自分の手に握られた武器たちへと向けられた。
そこにあるのは各種破壊された武器だった。
「はぁああーーっ!?」
「確かに速かったけど順番に迫ってきたから1つ1つ壊したよ」
彼の速さから武器が同時に迫る様に見えただろうが、実際は武器同士が干渉しない様に順番に振るっていたのだ。
なので、俺は順番に壊すだけで済んだという訳だ。
「それじゃあ、退場して下さい」
「嘘ぉーっ!アレスが負けたから優勝出来ると思ったのにっ!!」
俺が魔法で攻撃すると彼はそう捨て台詞を残して気絶した。
これにて優勝が確定。俺は渡された拡声器に向かって優勝宣言とセリシールの宣伝を行った。
そして、駆け寄ってきたヴィーちゃんを肩車すると再び迷子の周知を行って闘技大会は幕を閉じた。